クレディ・スイスAT1債無価値化の衝撃
経営行き詰まりからライバル行UBSに買収される運びとなったクレディ・スイス発行のAT1債全額(約2.2兆円)が、時を置かずに無価値化されたことで、金融市場には驚きと衝撃が走った。
一般的に社債によって調達された資金は、あくまで他人からの借り入れとみなされ、したがって、弁済順位は株式などと比べて上位に置かれるものだが、このAT1債はadditional Teir1債といわれ、株式と社債の中間的な性格であることが特徴。つまり自己資本比率が一定以下に低下した場合、株式償却を飛び越えて元本削減やその極致としての今回のクレディ・スイスのように無価値化する場合がありえる。UBSはクレディ・スイス買収に当たって資産減価が一定以上となった場合、スイス政府から90億スイスフランの保証を得ることになっており、これがAT1無価値化条件に当てはまってしまったというわけだ。
一方クレディ・スイス株保有者はUBS株と交換が進められることになり、これは一般的な通念に反して、株主が社債保有者より保護されてしまい一部AT1保有者からの訴訟騒ぎに発展している。
それだけではない。リーマン危機以降金融機関の自己資本強化手段として広く銀行業界に受け入れられてきたことから、他銀行発行のAT1債の安全性にも疑いの目が向けられ、特に欧州銀行株は急落。銀行経営全般の健全性への信頼度か揺らぐ事態となっている。ブルームバーグなどの報道によると、総額2,560億ドル(約33兆5,000億円)の巨額に上るという。もともとこの債権は永久債であり、それゆえ自己資本の構成部分として扱われているのだが、銀行の専一的裁量の下にある早期償還オプションも同時に設定されており、この期限での償還見送りが発生すると、当該銀行の経営不安が広がる可能性がある。ドイツ2銀行がすでに金利上昇に直面して償還後の再調達コストが不利化することを受けて、早期償還見送りを表明している。
それやこれやで、欧州金融市場は依然として動揺を隠しきれず、銀行株低落を主因として、例えば英国株式主要指標であるFTSE100は月初8,000ポンド直下から直近7,600ポンド付近まで低落、欧州銀行発行のAT1債の利回りは2月7.8%から28日13.5%まで急騰(債券価格はほぼ半減)と、投資家心理は極端に悪化している。この利回り急騰のため新規AT1債発行による資本増強が著しく困難となり、これによりクレディ・スイスに続いて経営行き詰まりとなる銀行が続出するのではないかと、疑心暗鬼に取りつかれている。もちろん主要国政府金融当局は自国金融システムの健全性を強調する声明を相次いで発して、やや金融市場は落ち着きを取り戻しているが、リーマンショックの既視感もあって予断を許さぬ状況が続いていると見た方がよいだろう。
(MIRU/IRuniverse S. Aoyama)
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