S&Pグローバル主催 ジャパン・コモディティ・マーケット・インサイト・フォーラム2023
2023年7月4日(火)~5日(水)、S&Pグローバル・コモディティ・インサイト(S&P Global Commodity Insights)主催でコンラッド東京にて行われたフォーラムの前半に参加したレポートである。今回のフォーラムの発表は全て英語で行われた(同時通訳付)。
7月4日(火)午前中の全体会議
S&P グローバルによるIHS マーキットの吸収合併
フォーラムの冒頭で知らされたのは、金融情報配信サービス会社であるS&Pグローバル(米国ニューヨーク市)が2022 年3月に英国ロンドンを拠点とするビジネス情報配信会社であるIHS マーキット(Markit)を約 140 億ドルで吸収合併したことだ。S&Pはスタンダード・アンド・プアーズの略称で、その前身はマグロウヒル・ファイナンシャル (McGraw Hill Financial) と換言すれば、そうかと頷く方々が多いのではないか。
この合併により、S&P グローバルは、S&P500に代表される米国株価指数などの金融情報、企業・債券格付け、コモディティ指数等の配信サービスに加え、エネルギー、運輸、エンジニアリング等の事業分野を拡大した。その結果、190か国以上の12,000社を超える公的機関および民間企業の顧客が、S&P Global Commodity Insights のサービスを利用しているとのこと。
IHS Markitが運営していたPIERS(Port of Import/Export Reporting Service)、世界最大の海上貿易データべースで、米国税関から入手した米国港湾に入出港する船舶からのB/L情報を生データ入力し、国連のデータ等と併せて検証、分析していたサービスもS&P Globalの傘下に入った。
また、両社は米司法省より合併承認を得るために、反トラスト法の観点から、IHSマーキットの価格報告機関(PRA)事業の3つ、「石油価格情報サービス(OPIS)」、「石炭・金属・鉱業(CMM)」、「石油化学ワイヤ(PetrochemWire)」をダウ・ジョーンズやウォール・ストリート・ジャーナルを傘下に持つニューズ・コーポレーション(News Corporation)に売却していた。
筆者も3年前にIHS Markitにより行われたフォーラムに参加した経験があり、今回は米国のビジネス情報配信業界のダイナミックスさと合従連衡には目を見張った。
全体会議後のセッション
1.貿易の流れの変化、初期段階にある市場、およびプラッツ(Platts)・ベンチマーク 注1)のアップデート
貿易の流れが変化する中での精製品のベンチマーク
プラッツ・デイティッド・ブレント(Platts Dated Brent)およびブレント・コンプレックス(Brent Complex)について
注1)Platts:1970年代より石油価格の配信を行うエネルギー関連情報配信社で、S&P Globalが吸収合併。産業ニュースと各商品市場の価格指標であり、原油、天然ガス、電気、原子力、石炭、石油化学、金属などの価格を配信している。特にアジアの原油市場ではこのプラッツ社発表のドバイ原油およびオマーン原油の価格が基準になっている。
2.世界およびアジアの石油市場の見通し
世界のマクロおよび石油需要の見通し
世界の石油供給、在庫、および価格に関する展望
アジアの石油市場の動向、精製マージン、欧州連合(EU)によるロシア産石油の輸入禁止の影響
3.世界の天然ガス市場:ロシア産天然ガスからの脱却
天然ガスの貯蓄要件や、主要セクターからの需要に基づき、2023年の欧州天然ガス市場において液化天然ガス(LNG)の役割
中国のゼロコロナ政策解除後の経済活動再開により、LNG輸入をめぐる欧州と中国の「綱引き」が始まる
新たな液化プロジェクト間の競争は、どのように最終投資決定(FID)に至るのか
需給バランスがスポット価格と契約条件に及ぼす影響は
4.世界の電力市場と再生可能エネルギー市場:エネルギー移行の加速により、新たな課題が生じる
電化と電力の需要見通し
再生可能エネルギーの供給力見通し
再生可能エネルギー主体の電力システムにおける信頼性の確保
5.LNGトレーダーの一日
液化天然ガス(LNG)の自由化に伴い、確立された市場の必要性が高まっているとの前置きから、S&PによるeWindow for LNG、LNG価格を含む最新情報プラットフォームのデモンストレーションが担当者により行われた。
eWindowはオンライン・データ入力・コミュニケーション・ツールで、参加者は、ビッド、オファー、取引を直接プラッツ(Platts)のエディターと市場に同時に伝えることができ、グリッドのような画面は簡単に一目で見ることができ、参加者は提出されたビッドやオファーに即座に反応することができる。
JKM(Japan Korea Marker)の説明もあり、S&P Global社が北東アジア向けスポットLNGカーゴの価格を入着ベースで評価、発表しているLNG価格指標。
午後の分科会
午後は3つのトピック、すなわち、ドライ・コモディティ、石油および化学、電力および公益事業で行われ、筆者はドライ・コモディティのセッションに参加した。
1.中国におけるゼロコロナ政策の撤廃や、それに伴う原料炭市場および鉄鉱石市場への影響
オーストラリアと中国の原料炭の貿易の流れ
中国の鉄鉱石消費の変化
注目すべき主な産業政策ファクター
2.アジアのアルミニウム・プレミアム:供給リスクにより、上流部門のアルミナ価格に上昇圧力がかかっている
四半期ごとのアルミニウム ジャパン・プレミアム プラッツ先物(MJP)は上半期に下降トレンドが反転
供給不足を受け、アジア(日本を除く)のプレミアムは上昇
生産が抑制されている中で、海運のアルミナ価格が底打ち
3.S&P Global Commodity Insightsの金属アナリティクス・ビュー(2023年~2024年)
鋼鉄価格の地域別予測
鋼鉄原材料の予測
2023年において中国政府の政策に期待すること
4.アンモニア、硫黄、硫酸、岐路に立つ肥料原料、燃料と肥料、EV と肥料
アンモニアが発電や船舶燃料として広く使われるようになり、高値を更新していたが、目下は修正に入っているとの報告。
次世代のクリーンエネルギー資源として期待されているブルーアンモニア(製造時にも燃焼時にも温室効果ガスを排出しない)とグリーンアンモニア(再生可能エネルギーを用い、CO2を排出しない方法で生成された水素(=グリーン水素)を原料としたアンモニアへの言及もあり。
5.農業市場の見通し
ブラジルがトウモロコシと大豆の輸出で米国を既に抜いているとの報告。
6.ビッグデータおよび高度なアナリティクスによる貨物の予測 / コンテナ市場は2023年に新たなパラメータに取り組む
Platts Container Indexとして提供されるコンテナ運賃指標のプレゼンがあり、今後は燃料油のコスト上昇に伴ってコンテナ運賃の上昇可能性がある旨の発表があった。
また、世界最大のコンテナ船社MSC(スイス)と同2位のマースク(デンマーク)が2025年1月に2社による定航アライアンス「2M」の提携契約を終了することの影響も注視する必要がある旨の発言。
S&P GlobalがHIS Markitから継承して運営するSea-webは、100GT以上の22万隻以上の船舶に関する600以上のデータ項目を持つ海事データベースであり参照ツールとの説明もあった。
最後に
S&Pグローバルが1日あたり配信する価格情報は8,500件以上とのことで、その規模の大きさが分かる。主催者によるとフォーラム終了後数日で参加者にプレゼン資料がメールで送られてくるとのことであったが、残念ながら本原稿執筆時点では未着。
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。
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