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京セラ株式会社:レーザーがもたらす次世代の通信技術

 目覚ましく技術改良が進んでいる通信技術業界。
有線通信から始まり、今では無線通信が当たり前となり、そこから更に新しい技術を打ち立てるべく各社がしのぎを削っている。
そんな中で次世代の通信技術として期待される「Li-Fi」の実現に向けて研究開発を加速させている、京セラ株式会社のソリューションを「メタバース空間上で」見ていく事とする。

 

 

人類未開拓の秘境である海
 

 現在世界中を通信ネットワークが覆い、どういった地域であっても何かしらの通信方法が担保されている状況だ。
携帯電話の様な一般的なネットワーク通信は無線通信が当たり前となり、BluetoothやWi-Fiという新規格の通信技術により生活は一層便利になっている。
たとえ南極大陸の様な地域に行こうと、衛星回線を利用した極地での通信が行えるという徹底ぶりだ。
そんな高度なネットワークが地表と宇宙を繋ぐ事すら当然となったこの時代に、人間が克服できていない通信の帳が一つ存在する。
それが地球の約7割を覆い尽くす水、すなわち海である。


 海中では電波を用いた通信技術は全くもって成立しない。
というのも、電波というのは文字通り空気中を伝わる「波」の形として伝わっておりそれを送受信する事でデータをやり取りしている。
様々な機器で用いられる800GHzや1GHzといった高速通信は、空気中だからこそそれだけの周波数で情報を伝える事が出来るのである。
水中では電波として送れるだけの周波数は非常に低く、AMラジオ放送に使われる1MHz前後の周波数であっても1m先では残存率が3%程と雀の涙程である。
そのため水中では音響による通信が以前から行われていた。
いわゆるソナーの様な音響探知機がこれに当たる。


 しかし現在海中に存在する様々な資源の開拓、あるいは漁業の無人化等のオーダーをこなすのに音響通信では必要な情報量を送る事が出来ないのも現実である。
そこで京セラ株式会社は光による通信方法に着目し、その成果をアピールする場としてVRメタバースプラットフォームである「VRChat」を利用し目に見える形でソリューションを見せる事にしたのである。


見て分かる未来の海の姿


 京セラ株式会社は京都府京都市に本社を置く企業である。
様々な電子部品や電子機器、あるいはその製造に関わる製品の開発に携わる大手の電子部品・電子機器の総合メーカーである。
以前もVRChat上で切削加工器具等の展示ブースを作成し話題となった同社であるが、今回はレーザー製品の仕組みや実用例を紹介する「京セラレーザーコンセプト製品バーチャル展示ブース」を開設する運びとなった。

 

 

【参考記事】
デジタルツインの正しい在り方 京セラ株式会社
https://www.iru-miru.com/article_detail.php?id=55493


 

 今回の会場は前回の展示会場がそのまま地上に降りてきた状態となっており、周囲を海に囲まれ島と接続した形となっている。
正面にある展示ホールではドローンと魚が共存する水槽がお出迎え。
そこでは同社の誇るレーザー照明製品である、小型ながら高出力のハンドライト「Nano FlashLight」や海上探索向けに用いられる150万カンデラもの照度を持つ投光器「MultiSpot "M7"」といった製品を直接見て触る事が出来る様になっている。
さらに奥には今でこそよく聞く「半導体」や「LED」といった技術に用いられるそもそものメカニズムを、ビジュアルイメージを通じて学ぶ事が出来るスペースが設営されている。
LEDに用いられるチップに混ざる化合物の種類によって、例えばインジウムであれば赤色というようにそのライトの最終的な色が決定されるとの事である。

 




 

 

 このLEDライト等にも用いられている「電磁波を吸収し、余剰エネルギーを光として放出する」メカニズムを光励起と呼び、これを纏めに纏めたものが投光器等の非常に明るく直進性の強いライトとなっている。
いわゆる通常の製品と比べ非常に高い照度を持つこれらの製品には、GaNという物質が使われている。
正式名称は窒化ガリウム、もしくはガリウムナイトライドと呼ばれるこの物質は紫外線を放出し、ここに微量のインジウムを加えて青色や紫色に発光させる事で世にいう青色発光ダイオードが出来上がるのである。
パワー半導体やレーダーといった領域への応用も期待される電子の飽和速度が大きいGaNを利用した強力な光を、束ねに束ねて通信を行う事が出来たらどうなるだろうか。
それが現在京セラ株式会社が研究している次世代の通信技術「Li-Fi」であり、会場内ではおおよそビームに酷似した強力な光が離れた機器同士を接続する様子が見て取れた。

 



 

 こういった技術を実際に展開し応用するとしたらばどういった事例があるか、という点が学べるのがこの展示ワールドの最大の特徴である。
会場に入って後方、孤島の洞窟内には遊覧用の船舶が停泊している。
これに乗り込み移動をスタートさせると、水が反射する洞窟をゆっくりと船が進んでいく。
しばらくして海の中に潜ると、そこには青色の光の筋とそれを受け取って動作するドローンの姿が見えてくる。
これがLi-Fiの最大の利用方法として期待されている、海中や空中における高強度・高速性を保証する通信インフラとしての機能だ。
海上の風力発電施設下部から照射されたLi-Fiのビームをドローンが受信し、場合によってはドローンが中継機となり更に深いところのドローンへと命令を伝送する。
ドローンは様々なアタッチメントを駆使して、有線通信さながらのタスクを正確にこなしていくというのだ。
もちろん空中においてもその効力は同様と考えられており、Li-Fiを受けた飛行ドローンが飛び立つ様子も見ることが出来る。

 



 

 クリオネやメンダコがお出迎えする海の底には、京セラ株式会社のプレゼンテーション会場が鎮座。
そこでは「レーザー光源が創り出す新たな未来」と題したプレゼンテーションを聴講する事が出来る。
実際に同社の機器が紹介されるほか、Li-Fiに関する具体的なデータもある程度聞くことが可能である。
そのデータによれば、米国カリフォルニアの淡水プール内での実験で距離30mにおいて伝送速度400Mbpsを達成したとの事である。
これは既存の通信技術に比べ遥かに速く、また大容量の通信技術としては長い距離での安定した通信を可能としている。
将来的には100m前後の距離を、伝送速度1Gbps程という既存の高速通信レベルの通信速度で結ぶ事を目標としているという。

 



 

 

 そしてこれらの技術に対してGaNが用いられている理由についても、さらりと解説が行われた。
投光器等の光源はこれまで技術開発が絶えず行われていたが、その光源が強力になればなるほど必要とされるエネルギー量や発生する熱量といった問題をどう解決するかという点が各社課題の解決しどころであった。
そんな中で京セラ株式会社はエネルギー効率が高い材料、高い光電変換効率という二つの物を組み合わせてより少ない電力でより明るい発光を可能とする見地に行き着いた。
その為に発光の為のパフォーマンスが良いGaNを利用し、同社の開発した高輝度光を実現するLaserLightという技術をかけあわせる事で、非常に高い照度のライトを実現。
更にこれを束ねたLi-Fi通信という新しい技術を実装する事が可能となったというのだ。

 



 

 

 今回の会場では具体的な社会実装に向けての取り組みも合わせて、京セラ株式会社が行っている新しい技術開発のデモンストレーションを存分に味わう事が出来る様になっている。
極めつけはこの会場が、パソコンとヘッドマウントディスプレイを接続する高機能なVRだけではなく、独立して稼働するヘッドマウントディスプレイであるOculus Quest2単体でも同様のコンテンツを味わえる様に設計されている事である。
このため「ヘッドマウントディスプレイしか持っていない」「とりあえず試しに買ってみた」というユーザーでも気兼ねなく高品質なコンテンツを体感する事が可能なのだ。
これには流石のユーザーフレンドリーさに感心するとともに、その背後に多くの技術的苦労があったことを伺わせるものである。

 


 

今回もユーザーに対し「楽しんで学ぶ」事を主軸に展示会場を構築している京セラ株式会社。同社の活発なメタバース空間の利用は、企業が今後アプローチする上で必要な要素を非常に分かりやすく照らし出していると言えるだろう。


 

(IRuniverse Ryuji Ichimura)

 

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