金融アナリストの川上敦氏の世界経済動向セミナー#5 中国デフレも米好調
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが8月1日に行われた。いつものように各種データを駆使したセミナーで川上氏は「中国経済のデフレ状態が鮮明化しつつある」と指摘。ただ、米景気の高原状態が支えとなり「世界経済への見方はやや改善している」と話した。
■中国、中期的にも成長鈍化傾向
中国は最新の経済指標である7月の製造業景況感指数が49.3と4か月連続で好不況の境目である50を下回った。6月の消費者物価指数が0.0%上昇と前年同月比で横ばいになった上、小売売上高が頭打ちになるなど消費も伸びない。川上氏は「民間投資や発電の状況も低迷しており、既にデフレと言っていいだろう」と指摘。「一般の人が『景気が悪くなってきたな』と感じる状態にあるのではないか」と見た。
中国の消費者物価指数の推移
今後の中国経済についても、川上氏は「何もしなければ減速方向。不動産市況が悪く資産デフレなので、消費主導で景気を盛り上げようという方向も難しい」と述べた。セミナー参加者からは「電気自動車(EV)のBYDなど好調な中国企業もあるが」との質問も出たが、「マクロ的に見て国内消費は戻りづらい」と話し、「一般政府債の比率が対GDPでとんでもなく高いことも中国経済のリスクだ」と指摘した。
■米国はインフレ一巡で楽観ムード
一方、米景気は高原状態が続き、楽観ムードが漂っている。失業率は6月に3.7%と低水準が続き、可処分所得が増えている。これを反映して小売売上高が回復、「収入安定など経済状況を反映している」(川上氏)結果になっている。
米小売売上高の推移
川上氏は「需給バランスは完全に供給不足。また、名目成長率に対し10年物国債の利回りが下回っており、結構な金融緩和状態だ」と話した。「リーマン・ショック前野不動産バブルの時に似てきている」(川上氏)ともいう。
楽観ムードの台頭を受け、指標の解釈も変わってきているという。米国債は完全な逆イールド(長短金利の逆転現象)が続いている。通常、逆イールドは景気後退(リセッション)入りの前触れとされるが、川上氏は「現在は『逆イールドは、リセッションそのものではなく、リセッションに伴うことが多いインフレ率の低下を示唆しているのではないか』との新解釈が聞かれるようになっている」とも紹介した。
■世界経済はやや上方修正
米景気の高原状態を受け、世界景気に対しても過度な悲観が後退している。IMFが7月25日に発表した2023年の世界の成長率予測は3.0%で、表作成時点の2.83%から上方修正した。足元では急速に「米経済がそう悪くないとの認識が広がっている上、ブラジルなど新興国の一部も想定よりも好調との見方も強まっている」(川上氏)という。
世界経済の成長率予測
■日本は中堅企業の設備投資が増加
ただ、中国の停滞はやはり足かせではある。日本の場合、対中輸出は前年割れから脱出していない。輸出全体も、これまで円安効果で支えてきたが、このところ円がやや戻し気味のため、「効果が薄れつつある」(川上氏)。
日本の対中輸出の推移
日本はやはり現金給与が物価上昇に追い付かず、街角景気も厳しい。機械受注なども内需はやや改善しているものの、外需の厳しさを受け「それほど良くはない」(川上氏)という。
それでも、明るい兆しもある。日本企業は特に中堅企業で設備投資が増え始めている。川上氏は「IT(情報技術)関連か何かかと思うが、今までになかった傾向。この傾向が鮮明化してくれば、はっきりと投資環境が改善していると言える」と話した。
日本企業の設備投資
(IR Universe Kure)
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