金融アナリストの川上敦氏の世界経済動向セミナー#6 インフレ終了も世界景気もたつき
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが9月5日に行われた。いつものように各種データを駆使したセミナーで、川上氏は「米国をはじめ多くの国で既にインフレは終了した」と指摘。世界景気は年初見通しよりも改善方向にあるものの、「もたつきも目立つ」と話した。
■食料値下がり、銅は行ったり来たり
世界の国別成長率予測
国際通貨基金(IMF)が4月に発表した2023年の世界の経済成長率予測は前年比2.9%増。けん引するのは米国と見られ、米国は英経済誌エコノミストが8月に発表した予測でも1.8%と2%近い成長率が見込まれている。川上氏は「米国は年初予定よりもかなり好調。欧州もイタリアが足を引っ張っているほかは想定よりも良い状態で推移している」と指摘した。ただ、「中国はこの予想の5%成長はおそらく無理だろう」とし、世界全体ではややもたつきがあるとした。
好調の理由はインフレの終了だ。食物価格は既に峠を越えている。「ロシアのウクライナ侵攻によるウクライナ産小麦の輸出停滞が言われているが、市場は今後の供給不足をそれほど心配していない」(川上氏)。同様の傾向は原油や天然ガス株価格にもみられ、川上氏は「サウジアラビアの原油減産が年末まで続くことになったが、市場はまだ供給不足を心配はしていない」と話した。
食糧価格の推移
ただ、銅価格は行ったり来たり。全体的な資源インフレ終了の流れは受けているものの、中国の景気減速に伴う需要減懸念が重荷となっている。銅は直近の先物ポジションも売り越している。
■米国、長期失業者は増加
米景気は高原状態が続いている。川上氏は「長期で見ても、米経済がインフレ経済だったのは2000年のIT(情報産業)バブルやその後の住宅バブルの頃。今回はそこまでではなかったうえ、今は既にインフレ経済の状態は終えた」と述べた。足元では好調傾向にややもたつきも見られ、例えば失業率は3.8%と低い水準を保っているものの、8月は雇用希望者数が73万人と7月の15万人から大きく増え、実際の新規雇用者数(22万人)を上回った。また、長期失業者が増えるなど詳細に見れば気がかりも出てきている。
米失業率の内訳
米国は賃金水準や住宅価格も足元で弱含んできている。全体的に好調ではあるものの、成長の勢いは「力強いとは言えない」(川上氏)状態だ。
■中国、不動産問題は大ごとに
一方、中国について川上氏は「良い材料が見当たらない」と悲観的だ。中国人民銀行は8月21日に実質的な政策金利である最優遇貸出金利(LPF)を引き下げ、「経済は相当悪いのではないか」(川上氏)との見方を誘う。
川上氏は最近、話題になっている中国恒大集団や碧桂園といった中国の不動産大手の巨額赤字についても「日本に置き換えて考えると、とても政府が処理しきれる額ではない。かなり大ごとになるのではないか」と警戒する。さらに、中国は不動産企業以外にも債務の残存期間が1~3年と償還期限の迫る債務を抱える企業が非常に多い。川上氏は「何もしなければ、バブル崩壊による資産減が待つことになる」と話した。
残存年数別の中国企業の事業債
■日本は円安の恩恵が剥落、株は好調
最後に気になる日本経済だが、川上氏は「そんなに良くはない」とし、輸出について「もともと輸出量は減っていたが、円安一服で輸出額も恩恵が剥落して伸び悩み始めている」と指摘。消費動向についても「物価上昇に現金給与が追いついておらず、少し旅行などに出る人が増えるなどしても、長続きしなさそうだ」と話した。
日本の平均所得の推移
川上氏は日本については「過去20年間で貧困化した」と述べた。特に平均所得の格差は拡大し、「1985年以来の水準に戻ってしまった」と嘆いた。一方で、企業の余剰資金は十分であり、「設備投資も現金で行うなど企業は健全。ただ、6割方はお金をためている状態」と指摘した。それでも、希望要因として「コロナ禍の後、サービス業は生産性が上がっている」と評価した。
(IR Universe Kure)
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