金融アナリストの川上敦氏の世界経済動向セミナー#8 1ドル130円台も!? 為替反転か
金融アナリストの川上敦氏が定期的に開催しているセミナー「Chuck Kawakamiの金融経済Now」の最新オンラインライブが11月7日に行われた。いつものように各種データを駆使したセミナーで、川上氏は日米マネタリーベースなどをもとに「日本円の対米ドルレートは反転し、近く1ドル=130円まで円高に進むこともあり得る」と予想した。
■11月にも円高に反転か
日米マネタリーベースの推移
マネタリーベースとは現金と民間銀行が日銀に預けたお金の合計で、つまるところお金の総量と理解できる。この日米指数が落ち着いてきており、過度な円安は続かないことを示唆しているという。
ドル円は足元では1ドル=150円台前半と1年ぶりの円安水準が続く。この円安の主要因として、度重なる政策金利引き上げによって米ドルの金利が上昇し、世界の資金が米ドルに流入したことによるドルの独歩高が主要因とされてきた。
しかし、川上氏は拡大してきた日米の金利格差についても「さすがに勢いが一巡し、実質金利差はだいぶ縮まってきた」と指摘。「米国の消費者物価を見てもインフレが落ち着いており、米国は利上げを停止する公算が大きい。円安ドル高は反転する兆しがある」とし、「米企業が2023年12月期の決算の用意を始める11月にも方向が変わり、為替は大きく動くかもしれない」と話した。ただ、「急反転ではなく、ある程度ゆっくりした反転になるだろう」とも述べた。
■米中成長予測は上方修正
世界経済はどうか。2023年も終わりに近づき、振り返れば世界経済の状況はインフレなどが懸念された年初に比べ「まあまあ良い」(川上氏)ところに落ち着きそうだ。
米経済紙エコノミストは10月の予想で、米国の2023年の成長率予測をこれまでの1.8%から2.0%に上方修正した。インフレの落ち着きなどが理由という。
世界経済の成長率予測(エコノミスト)
一方の国際通貨基金(IMF)は11月7日、中国の経済成長予測をこれまでの5.0%から5.4%に引き上げた。こちらは消費の回復などを理由とした。
世界経済の成長率予測(IMF、10月時点)
川上氏は両者の結果について、「日本の成長率予測はぎりぎり2%だが、それでも思っていたよりも良い」と評し、「アジア全般を見ても南米などよりは良く、まあ安心して1年を終われそうなムードになってきた」と話した。
■各国それぞれ内情には問題も
ただ、それぞれの国の経済事情を細かく見ると「けして安心できる状況ではない」と川上氏は言う。
例えば米国は長期の失業者数が増加傾向にある。失業保険の受給者が増えているほか、10月は求職を諦めたとみられる失業者が増加傾向を示した。「消費者心理が10月に意外に下げた」(川上氏)上、可処分所得が微減し、家計の利払い負担も増加の兆しを示した。
一方、中国も非金融企業の債務が多く「厳しい状況」だ。10月の製造業景況感指数(PMI)が2ヶ月ぶりに好不況の境目である50を下回り、固定資産投資が公共投資に支えられている状況も改善は見られない。自動車市況は改善したがこれは補助金の効果が大きく、「総じて良いところが少ない」(川上氏)。
さえないのはユーロ圏も同じだ。失業率がやや改善したとはいえ、高水準に変わりはない。川上氏は「この地域は事情が複雑で、一筋縄では分析しきれない。イスラエルの問題などが波及するのはこれからかもしれない」とし、「欧州自体の大きな枠組みが崩れるかもしれない」と話した。
■日本は賃金アップに後れ
あまり良くないのは日本も例外ではない。川上氏は「企業の在庫状況は改善し、企業の財務状態は良くなってきているが、企業は賃金を上げようとしていない」と指摘。日本の労働者の平均給与は1998年の水準を上回ることなく長期停滞している状況が改善されていないと述べた。その結果、「消費者心理は横ばいで、雇用環境もさえない状態が続いている」と批判した。
日銀のバランスシートなどを見ると、「景気が下向きになる可能性も出てきている」という。
日本の平均給与の推移
(IR Universe Kure)
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