行き場のない廃棄物:ポーランドとドイツの廃棄物紛争
隣国でありながら歴史的な確執が未だ残り、決して仲が良いとは言えないポーランドとドイツだが、この夏からドイツによるポーランドへの廃棄物輸出をめぐり、二国間の紛争が起こっている。
今年7月ポーランドは、ドイツが不法にポーランドへ廃棄物を輸出したとして欧州委員会へ訴えを起こした。これは、欧州裁判所に対して正式な訴訟を起こす最初の手順となる。
内容は、ドイツが約35,000トンに及ぶ廃棄物をポーランドの無許可業者へ輸送したというものだ。EUの規制下では、EU域内における廃棄物の輸送自体は違法ではないが、輸出先の国において政府認定業者によりEU規制に沿った処理を行わなければならない。今回のケースでは違法な業者へひきわたされ、その業者が廃棄物の不法投棄を行なったというものだ。
ポーランド政府は、ドイツ連邦政府へ輸送された廃棄物を全て引き取るようベルリン政府へ要請したが、連邦政府からは、責任は連邦政府の管轄ではなくそれぞれの州の管轄だという「たらいまわし式」の返答を得たという。州レベルの反応は非常に遅く、廃棄物は事実上放置状態となった。
ドイツは、廃棄物輸出大国の一つで、特にプラスチック廃棄物の輸出では欧州トップを占め、世界ではアメリカ、日本に次ぐ3位となっている(1988〜2000年統計)。プラスチック廃棄物による汚染問題が深刻化するなか、EUはバーゼル条約の強化にともない、EU域外へのプラスチック輸出規制をさらに強化した。そのため、EU域内で行き場を失ったプラスチック廃棄物が大きな問題となっており、今回のドイツのケースのように「近場」の規制の執行力が緩い国への不法輸出も珍しくない。
ドイツによるポーランドへの不法な廃棄物輸出はかねてより問題視されていたが、ポーランド側の政治家のなかには、ポーランドへの廃棄物輸出をドイツ業者へ奨励し「便宜を図る」者もあり、ポーランド行政における不透明さも指摘されている。
ポーランドによる訴えに対し、欧州委員会は10月の決議で、ドイツ連邦政府がポーランドによる廃棄物の引き取り要請(30日以内)に応じなかったことに対し、廃棄物が輸送された一部のロケーションについては、「廃棄物輸送規則第24条(2)および28条(2)」に違反するとしている。その理由として、「輸出したドイツ業者は明らかにポーランド側の受け取り業者が廃棄物処理許可を取得していないことを知っていた」と述べた。ただし、残りのロケーションに関しては、証拠不十分としてドイツによる違法性は成立しないと判断している。なお、この先欧州裁判所に持ち込むかどうかについては、ポーランド側の決断に任されている。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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