室蘭に根付くグローバル企業 日本製鋼所M&E株式会社

(日本製鋼所HPより)
日本製鋼所(JSW)は1907年に英国のアームストロング社・ヴィッカース社と日本の北海道炭鉱汽船の共同出資によって設立され、優れた鋼づくりとそれらを活かした機械の開発に努めてきました。受注生産とオーダーメイドが強みで、お客様のニーズを図面に落とし込んだうえで製造に着手しています。また、特殊鋼市場で高い世界シェアを持っていることも特徴的です。
また、株式会社日本製鋼所(JSW)は、素材とメカトロニクスを総合的に扱う企業で、産業機械事業と素形材・エンジニアリング事業を2つの柱に事業を展開しています。
産業機械事業では、樹脂機械製品やプラスチック成形機、大型造粒機、フィルム・シート製造装置などを製造しています。また、ITや防衛など多様な製品も手掛けており、自動車業界、家電業界、化学業界、防衛省など幅広い業界との取引を行っています。
素形材・エンジニアリング事業では、発電用ロータシャフトや原子力圧力容器部材などのエネルギー産業向けの製品を製造しています。
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正確にいうと、社名は日本製鋼所M&E株式会社。
発祥の地である室蘭製作所に7月某日、訪問した。
室蘭は鉄の町。同地には日本製鋼所の他に、日本製鉄、三菱製鋼も工場を構えている。
石狩や夕張で石炭が採掘できたこと、室蘭が石炭の積み出し港であったことで鉄の町として栄えさせた。最盛期には18万人の人口があったが、今はその半分以下の8万人。(隣の登別市・伊達市と合わせて12~3万人。)多くの地方都市と同じく少子高齢化が進んでいる。
筆者にとってJSWは長年、最も訪れたい鉄鋼メーカーの1社だった。今回は、某団体の見学会に同行する機会に恵まれ、見学が可能となった。なによりもその原子力関連製品群及び防衛産業向けの製品は比類なき信頼と実力を備えており、日本の技術遺産といっても過言ではない。
さて、その日本製鋼所、明治時代には広島の呉製鉄所と並ぶ軍事工場で大砲の砲身などをここ室蘭で製造していた。日露戦争後の大砲と造船がメインの工場。日本初の外資の入った合弁会社でもあった。
この防衛製品の素材製造はいまなお室蘭で行っており、防衛費の拡充に伴い、受注拡大が見込まれている。
戦車関係でいうと、かつてから行っている仕事で、自衛隊で使っている戦車のメンテナンスもここ室蘭で行っている。
民需ではやはり原子力、水素含めエネルギー関係の大型設備部品が多い。作るものが大きいゆえ、生産設備も驚くほど大きい。その威容を写真で見せられないのが残念なほどだ。室蘭では時折、学生を工場見学で迎え入れているが、わかりやすい大型設備にみな一様に目を輝かせて驚いていると、見学会の説明担当者はいう。実際、110万平米の広大な敷地を、大型部品を積載した貨車がいくつも動いている様は、一瞬どこかのテーマパークかと見まがう。これは、室蘭で製造する鋳鍛鋼製品がいずれも大きく、重量があることで物理的にトラックでは運べないためである。場内は貨車、それを工場に隣接しているプライベートバースから船で出荷している。
日本製鋼所 室蘭は2011年まで、順調に生産を伸ばしていた。2010年には年間13万トンの過去最高の生産量に達した。これは原子力関連の設備需要が伸び続けていたからだが、2011年3月の東日本大震災、同時に発生した福島の東電原発事故により、一気に原子力向けの設備需要が落ち、日本製鋼所室蘭での生産も急落。人も減らしていく、という苦難のときが続き、さらに製品での品質不適切行為の問題もあり、生産量とともに会社の社会的信頼性も落ちていった。
しかし、それらに対する対策を講じて困難な時を乗り越えて、室蘭は今再び再評価されている。
日本国内ではまだ原子力に対する不安が根強いようだが、世界的には産業界における脱炭素の広がりから再び原子力を再稼働あるいは新設する動きが出ており、室蘭にも次々とオーダーが舞い込んでいる。現在も室蘭の生産量は年間6万トン程度ではあるが、今の受注からすれば、生産をあげたいところだが、設備能力的というよりも人手不足で今以上に生産量を上げることは難しい状況だという。
室蘭が世界に誇る14,000トンの大型プレス機も2機もあり、現役で稼働中だ。
原子力発電所向けのローターや部材や鉄鋼メーカー向けのロール・洋上風力発電建設に使用する巨大なシャフト・使用済核燃料を保管するキャスクという容器を製造している現場も見せてもらったが、なかなかに経験が必要な作業が多い現場だと感じた。当然機械加工を行っていくのだが、それぞれの機械のクセ、も理解していないと室蘭品質の製品は完成しない。
室蘭は電気炉で鋼を製造するため、膨大な電力を必要とする。北海道の泊原発は稼働を止めているため、火力発電に依存しているが、電力コストは上がる一方で、かつ電力会社で大量のCO2を発生させている。小手先のEVも全く進展していない日本。。
産業界、特に多電力消費の素材産業はすべからく原発再開を望んでいる。しかしそれを決断しない日本政府。そして素材産業は海外とのコスト競争にも負け、脱炭素もなしえない。それでいいのか日本?と個人的には思う。
実際、数年前に北海道の大規模停電となったとき、日本製鋼所の操業も丸2日止まったという。
技術の継承は出来ているのかどうかを聞いてみると
「なかなか若手の人材が入ってこないので危機感をもっている。地元の室蘭工業大学を出ても全員が鉄鋼メーカーに入るわけでもないですし(苦笑)。また千歳のほうにラピダスさんが進出することで、そちらに人材がとられないか、という不安もある」
とのこと。より多くの若手に会社のことを知ってもらうことは重要だと説明者・
さて、脱炭素と共通して世界の製造業で命題となっているのが、リサイクル原料使用比率の増大である。室蘭では月間6000トンの鋳鉄鋼製品生産のうち、スクラップ原料の使用比率は50%の3000トンである。(残り50%は、素性の明確なリターン屑である。)
うち2000トンは、取扱納入ディーラーである(株)鈴木商会から購入。ダントツのトップサプライヤーである。作るものが特殊なだけに新断以上の一品物のスクラップである。
長年、日本製鋼所室蘭に通いつめている鈴木商会一筋47年の熊谷さん(現在で70歳)は室蘭生まれの室蘭育ち。根っからの室蘭人である。スクラップ業界ではご存じの方も多いと思うが、(株)鈴木商会の原点もこの室蘭。
昭和28年に法人化した。(株)鈴木商会は日本製鋼所とともに成長してきた、といっても過言ではない。札幌に進出し、北海道全域からスクラップを回収・処理及び廃棄物処理を展開している。
札幌に設置した700tonギロチンシャーは、日本製鋼所に依頼し、製作してもらったものであり、丈夫で長持ちであった。
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そして、我々は日本製鋼所の敷地内にある瑞泉鍛刀所にも訪れた。原料となる玉鋼は安来(島根)から仕入れ、ここで芸術品の域に近い日本刀に仕上がる。生産量は国から制限されており年間20本程。
短刀から長刀まで1本1本を職人が丹精込めて作っている。
この日本刀のような芸術的なモノづくりは日本製鋼所の真髄ともいえる。まさに技術遺産、産業遺産。その技術を継承していくためにも室蘭には新たな人材が必要だと感じた。これは日本製鋼所だけに限った話ではなく、
同じく室蘭に工場をもつ日本製鉄(株)北日本製鉄所、三菱製鋼室蘭特殊鋼(株)も同じ思いであろう。
これらの企業に支えられて、今後も、「室蘭は、特殊鋼の町」として、生きていくことだろう。
(鈴木商会の熊谷さん)
(IRUNIVERSE YUJI TANAMACHI)
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