MIRU半導体ウェビナー AIと半導体について
2024年9月にオンラインで開催された石川講師によるセミナー は、AI(人工知能)と半導体技術の最新動向についての深い洞察を提供する場として、多くの専門家や業界関係者が参加した。
このセミナーは、AIの進化とその基盤を支える半導体技術の進展について、石川講師の見識が紹介されながら、多角的な視点から議論が行われた。最新の研究成果や市場動向が共有され、技術革新の未来を見据えた有益なセッションが展開された。
AIとは
AI(人工知能)は、1956年の米国「ダートマス会議」で初めて定義された。この会議では、AIを「人間の知能を模倣する機械」とし、機械が人間のように思考し、問題を解決し、さらに自己学習を通じて知識を蓄える能力を持つものとされた。
AIの基盤には「Neural Network(神経回路)」があり、これは人間の脳の働きを模倣したアルゴリズムに基づいている。Neural Networkは、複数の神経細胞とシナプス(細胞結合部)の相互作用を通じて思考を生み出す仕組みであり、AIはこの仕組みを再現することで、人間に似た知能を実現している。
AIの中でも特に注目されているのが、AGI(汎用人工知能)とASI(人工超知能)の概念である。AGIは、人間と同等の知能を持つ人工知能として定義され、特定のタスクに限らず、幅広い知識と認知能力を持って問題解決を行うことができる。現在のAI技術は特定の領域で優れた性能を発揮する「特化型AI」が主流であるが、AGIの実現により、AIはより多様なタスクを理解し、自律的に学習・適応することが可能になる。
さらに進んだ形として、ASI(人工超知能)がある。ASIは、すべての知的活動において人間を超える能力を持つ人工知能である。ASIの登場は、人類が解決できない複雑な問題を解決し、新しい知識の創出や技術革新を促進する可能性がある。しかし、その一方で、ASIがどのように人類社会に影響を及ぼすかについては、多くの倫理的・安全性の課題も議論されている。これらの技術の発展は、AIの未来像を描く上で重要な要素であり、セミナーでもその進展について多くの議論がなされた。
AI業界を牽引する4人の人物
セミナーでは、AI業界の発展に大きく貢献している4人のキーパーソンが紹介された。彼らの革新的な取り組みとビジョンが、AI技術の未来を形作っている。
デミス・ハサビス(Demis Hassabis)
デミス・ハサビスは、AI研究企業「DeepMind」の創設者であり、神経科学と人工知能の分野での先駆者である。彼は「Neural Network(神経回路)」アルゴリズムを解明し、囲碁ソフト「AlphaGo」の開発を通じてAIが人間を超える可能性を示した。DeepMindの成功は、AIの研究と実用化における新しい基準を設定し、現在はGoogle DeepMindのCEOとして、さらに高いレベルのAI(AGI、ASI)の開発に取り組んでいる。
イーロン・マスク(Elon Musk)
イーロン・マスクは、AIの未来に大きな影響を与える企業家であり、TeslaやSpaceX、Neuralinkなどの企業を通じてAI技術を進化させている。彼のビジョンは、AIが人類に利益をもたらすようにすることであり、OpenAIの設立を支援するなど、AIの安全性と倫理的利用に関する議論をリードしている。また、彼の取り組みは、AI技術がロボットや自律型システムにどのように応用されるかを大きく変えつつある。
サム・アルトマン(Sam Altman)
サム・アルトマンは、OpenAIのCEOとしてAIの普及と発展に重要な役割を果たしている。彼は、非営利法人OpenAI Incと営利子会社OpenAI Global LLCを設立し、AI技術のオープンで透明な発展を推進している。アルトマンのリーダーシップの下、OpenAIは生成AI(例:ChatGPT)の普及を促進し、AIの商業化と倫理的利用の両立を目指している。
ジェンスン・フアン(Jensen Huang)
ジェンスン・フアンは、NVIDIAの創設者であり、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)技術の開発を通じてAIの進化に貢献している。NVIDIAのGPUは、深層学習(ディープラーニング)を支えるハードウェアとして重要な役割を果たし、AIの計算能力を飛躍的に向上させた。フアンのビジョンは、AIとコンピュータサイエンスの未来を牽引し、AIの計算力を最大限に引き出すプラットフォームを提供することである。
セミナーでは、AIベンダの動向と市場規模について詳しく解説された。現在、AI分野においては、Google DeepMind、OpenAI、Microsoft、IBMなどの企業が市場をリードしている。これらの企業は、医療や金融、製造業など多岐にわたる分野でAI技術を展開し、次世代のAIソリューションの開発を進めている。
特に、NVIDIAはGPU(グラフィックプロセッシングユニット)の開発を通じて、AIの計算能力を大幅に向上させ、AI市場での競争力を強化している。NVIDIAの技術はディープラーニングを支える基盤となっており、AIの進化を加速させている。また、中国の企業、例えば華為(Huawei)や百度(Baidu)などもAIの研究開発に積極的に取り組んでおり、特に半導体の微細化技術を用いてAIの計算能力を向上させることに注力している。
IBMは、2030年までにAGIの100倍の性能を持つ「頭脳Computer(Brain Computer)」を開発する計画を発表している。この「頭脳Computer」は、Rapidus社のIBM SoC(システム・オン・チップ)と光エンジン、BUMP技術を組み合わせて製品化される予定である。これにより、AI技術はさらに高性能化し、より複雑なタスクを迅速かつ効率的に処理できるようになると期待されている。
市場規模に関しては、2024年の世界AI市場は298億ドル規模と予測されており、年々成長を続けている。2036年には市場規模が7,498億ドルに達する見込みであり、特に医療分野でのAIの導入が大幅に進むとされている。AI技術は、既存のビジネスモデルを大きく変えると同時に、新たな市場と需要を生み出す可能性がある。セミナーでは、これらの成長が続く中で、どのようにAIを活用し、競争力を維持していくかが重要であるとの議論が展開された。
半導体の「微細化」の誤解について
半導体業界で一般的に使われている「微細化」という用語についての誤解が指摘された。多くの人が、「微細化」という言葉がトランジスタの物理的な大きさや、その間隔が小さくなることを示していると考えている。しかし、実際には現代の半導体製造プロセスで使われる「微細化」という単位は、もはやその物理的なサイズや距離を正確に表しているわけではない。
かつては、「微細化」の数値(例えば、14nm、7nmなど)はトランジスタのゲート長やその間の距離を示していた。
しかし、最近ではこの数値はマーケティング用の指標として使われることが多く、実際の物理的な寸法とは一致しない場合がある。つまり、同じ「7nmプロセス」といっても、製造メーカーやプロセス技術によって実際のトランジスタの大きさや性能は異なる場合が多い。
この誤解が広がった背景には、各メーカーが競争力をアピールするために「微細化」数値を強調し、製品の優位性を示そうとしたことがある。
結果として、消費者や一部の技術者の間でも「微細化」が単にトランジスタの小ささを示す指標として誤って理解されるようになった。
半導体の細かさを表す正しい単位は、通常「トランジスタ密度」や「トランジスタのフィン幅・ゲート長」などの具体的な寸法で表される。これらは、実際のトランジスタの物理的な構造や、半導体チップ上に配置できるトランジスタの数を示すものである。
現代の半導体製造において重要なのは、「トランジスタ密度」である。トランジスタ密度は、チップの単位面積あたりに配置できるトランジスタの数を表している。これにより、半導体の性能や消費電力、効率などを正確に評価することができる。トランジスタの密度が高ければ高いほど、同じサイズのチップでより多くのトランジスタを搭載でき、より高い処理能力を実現できる。
また、具体的なトランジスタのフィン幅やゲート長(ゲートの物理的な長さ)といった寸法も、半導体の性能や特性を示す重要な指標である。これらの寸法は、実際の物理的なサイズを直接表しており、トランジスタがどれほど小さいか、またその設計がどれほど精密であるかを示している。
このセミナーでは、半導体の微細化が今後も進化し続けることが強調された。
微細化の技術的限界に達しつつあると見られているが、表に示されている通り、IBMとTSMCは今後もさらなる微細化を目指して開発を進めている。
例えば、2025年にはTSMCが2nmプロセスを量産予定としており、2029年には1.4nmプロセスが導入される見込みである。これは、半導体の微細化がムーアの法則の限界を超えて進化し続けることを意味している。
また、表からわかるように、IBMとTSMCの開発にはいくつかの違いがある。まず、Tr密度(トランジスタ密度)において、IBMはTSMCに対してわずかに高い数値を達成している。例えば、2024年の時点でIBMは1平方ミリメートルあたり333Mのトランジスタ密度を実現しているのに対し、TSMCは292Mである。IBMのトランジスタ密度は常にTSMCよりも高い傾向にあり、開発の先行性がうかがえる。
さらに、開発スケジュールにおいてもIBMが3年程度先行している点が注目される。これにより、IBMはTSMCに比べて微細化技術のリーダー的存在となっており、特にフロンティア・ランナーとしての格の違いを示している。一方で、TSMCも業界を牽引する重要な企業であり、2nm、さらには1.4nmの量産体制を整えることで世界トップの地位を維持している。
このように、IBMとTSMCの両社は微細化の限界に挑戦し続けており、半導体業界の今後の発展において重要な役割を果たすことが期待される。
NVIDIAの売上高独走の3つの理由
セミナーでは、NVIDIAが半導体市場で売上高を独走している理由について、3つの主要な要因が挙げられた。これらの要因は、NVIDIAの技術的優位性と市場戦略に基づいている。
- GPUの独占的地位の確立
NVIDIAは、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)とCUDA(開発キット)を組み合わせた独自の技術を10年以上にわたって維持している。特にNeural Network(ニューラルネットワーク)のアルゴリズム解析において、他社が真似できない高い技術力を持っていることがNVIDIAの最大の強みである。この技術的優位性により、AIやディープラーニングの分野でNVIDIAのGPUは欠かせない存在となっている。 - 多様な産業分野でのAI市場の拡大
AI市場は世界最大の産業分野の一つとして急速に成長しており、AIロボット市場だけでなく、自動車市場の2.5倍の規模に達している。販売金額は7兆ドルを超え、生産台数も2.5億台以上に上る。この市場において、学習GPUや頭脳の役割を果たすSoC(システム・オン・チップ)はNVIDIAの得意分野であり、他の競合ベンダが参入する中でもNVIDIAが主要な役割を担っている。 - TSMCとの強固なパートナーシップ
NVIDIAは、世界最大の半導体製造企業であるTSMCとの強力な結びつきを持っている。TSMCの先端微細化技術ラインはNVIDIAが独占しており、2022年にはH100(5nmプロセス)、2024年にはB100(3nmプロセス)、2025年にはBU100(2nmプロセス)といった次世代のAIチップの製造を予定している。この戦略的パートナーシップにより、NVIDIAは最先端技術をいち早く市場に投入できる体制を整えている。
これらの理由から、NVIDIAはAIと半導体市場で他社を大きく引き離し、売上高での独走を続けている。
さらにセミナーでは、NVIDIAの成功事例に基づき、AI技術の進化とそのビジネスへの影響についても詳しい議論が行われた。
また、石川講師の独自の情報や知見を活かした有名中国IT企業についての解説も行われた。
セミナーでは、中国における「軍営企業」の役割と、AI技術の発展における華為(Huawei)の重要性が強調された。華為は1987年に設立され、人民解放軍出身の創業者任正非が率いる軍営企業として知られている。広州軍区人民解放軍建設工程副団長出身である任正非が創業した華為は、通信機器や電子機器の分野で世界トップの企業に成長している。華為は「中国通信・電子機器の神様」として知られ、5G国際標準化委員会の中心的な役割も果たしている。
華為のバックドア疑惑
華為は世界的にその技術力が認められている一方で、バックドア疑惑も長年指摘されている。多くの国々では、華為の通信機器が「バックドア」を設けており、ユーザーの情報に不正にアクセスし、監視活動に利用されているのではないかという懸念がある。特に欧米諸国では、バックドア疑惑やサイバーセキュリティのリスクを理由に、華為製品の使用を制限する動きが見られる。
アメリカ、カナダ、イギリスなどでは、国家安全保障の観点から、華為の通信機器のインフラ導入を制限している。
この疑惑に関連して、華為は「盗作」や「バックドア」による脅威とされる企業としても名指しされている。特に、ソニーやシスコなどの企業は、華為が技術を盗み、それを利用して自社製品に不正に組み込んでいると指摘されている。また、華為は人民解放軍の装備研究開発における重要な中核企業でもあり、軍事技術の開発と商業製品との融合が進められていることも懸念材料となっている。
人民解放軍との結びつき
華為は軍民融合技術の中心企業として、人民解放軍との深い結びつきを持つ企業である。
中国は7つの軍区に分かれており、これらの軍区は軍営企業によって支えられている。華為は、広州軍区におけるAI技術、通信、スマートフォンの分野でリーダー的役割を果たしており、その研究開発は人民解放軍の技術開発にも大きく貢献している。
人民解放軍は、技術開発のために企業や個人を派遣する「技術派遣部隊」を持っており、これにより毎年15万人もの人材が欧米の研究機関や企業に送り込まれ、最新の技術を学んでいる。この技術派遣活動は、世界最大の規模であり、華為をはじめとする中国の軍営企業に対する技術的支援を提供している。
また、派遣部隊には「裏の顔」として、一部は先端技術の情報をサイバー部隊に提供するなど、軍事活動にも関連していると指摘されている。
このように、華為は人民解放軍と強固な関係を持ちながら、AIや通信技術のリーダーとして成長している一方で、バックドア疑惑や技術の盗用問題を抱えた企業として、国際的な懸念が続いている。セミナーでは、華為が持つ技術力とその問題点について、詳細に議論された。
今回のセミナーでは、AIと半導体技術の進化が産業全体に与える大きな影響が明らかになった。特に、NVIDIAのGPU技術とTSMCとの強力なパートナーシップが、AI市場での圧倒的なリードを支えていることが強調された。AI市場の急速な拡大に伴い、技術革新はますます重要となり、半導体技術の進化がAIのさらなる発展に不可欠である。今後、AIと半導体技術の相互作用がどのように進展し、新たな産業革命を促すかに注目が集まるだろう。
(IRuniverse Imahoko)
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