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元鉄鋼マンが第10回バッテリーサミットに参加して(2) 質問者が列をなして難しい質問を

 前回に引き続き、9月12日に東京学士会館で開かれたバッテリーサミットの講演内容を元鉄鋼マンの視点で解説する。

 

【前回記事】

元鉄鋼マンが第10回バッテリーサミットに参加して(1)

 

2.パウチ型リチウムイオン電池のアプリケーションとエネルギー密度の向上

TDK株式会社エナジーデバイスビジネスグループ CTO 佐野篤史氏

 

 LiBの世界でキーパーソンと言えるロビン・ツェン氏は、ATLを設立し、さらにスピンアウトして今をときめくCATLを設立した人物です。そのATLを買収しCATLとジョイントベンチャーを興したのがTDKです。TDK自体は、東工大からスピンアウトした会社で磁気テープなどが有名で、フェライトツリーなるものが存在します。磁性体を混錬しテープに塗布する技術の延長上に、電池が存在し、それを筐体に納めた形の多くのパウチ型バッテリーが開発されています。TDKには小型電池用に3つのコアとなる技術があり性能向上に寄与しています。

 

Si製負極のエネルギー密度向上
新構造のSi製負極と電極・電解液の新設計
マルチタブ(MTW)

 

 これらにより、エネルギー密度の向上と温度上昇の抑制、高出力化、長寿命化が実現し、様々な小型電池のラインアップを実現しています。また同時に顧客の要望に応じて、直方体以外の異形の電池製造にも対応しています。また中型電池については、リン酸鉄正極の長寿命化やジャンボパワー(タブレス構造)の採用で、高い安全性と長寿命、急速充電、高出力、低温放電を実現しており、定置電源、電動工具、ドローンや電動二輪車の性能改善を実現しています。さらに、次世代型電池として全固体電池であるCeraChargeを開発し、実用化を進めています。

 

 質問としては、異形の電池の場合もパッケージの製造方法やに関するものなどがありました。個人的には、最後に少しだけ紹介された全固体電池CeraChargeの性能をより詳しく知りたいところでした。

 

 

3.LiB電極材料の熱処理設備技術

ノリタケエンジニアリング事業部ヒートテクノ設計1グル-プGL吉金隆宏氏

 

 陶磁器メーカーとして有名なノリタケが、その焼成技術を応用して、LiBの正極材や負極材の製造を実現したもの。その工程で必要とする設備は、ロータリーキルン(RK)、ローラーハースキルン(RHK)、RtoR乾燥炉、真空乾燥炉、RHK用サヤ自動搬送機と多くあり、それらにはノリタケ固有の技術が込められています。

 

 正極材の焼成工程は、NCAとMCMで異なり、前者はRKとRHKを、後者はRHKのみを使用します。また雰囲気は酸素雰囲気と大気雰囲気を使い分け、NCAとNCMで順番を変えています。負極材はC負極の場合も、Si負極の場合も、窒素雰囲気下でRHKを使用し、Si負極の場合は、最終的にCコートを施す方式です。

 

 どの熱処理工程でも求められるのは、均一な温度分布の実現と、圧力、雰囲気ガス組成の管理です。特にLFPのSi負極についてはCコーティング後に急速冷却する必要があり、その温度管理が難しいことや、大気暴露のタイミングを誤ると発火する問題やローラーの破損問題への対処の難しさが、動画をまじえて紹介されました。私自身にとって興味深かったのは、加熱効率を上げるとともに、温度の均一化を図るために、ロータリーキルン内に加熱用ヒートチューブ(ヒートパイプではなく、高温ガスを流すものと理解)を装入し、中からも加熱する方式を採用していること。比較的単純な加熱乾燥設備である、ロータリーキルンをここまで工夫改造したことに感心しました。

 

 一方、加熱炉の天井煉瓦にハイアルミナを使用しているのも意外で、製鉄用の炉であれば、この温度域であれば、マグネシアカーボン系煉瓦を主に使用します。敢えてハイアルミナを使用する理由を確かめたいところでした。また炉内での酸化を防ぐため、電気加熱を主に使用していますが、バーナーによる加熱でも、火炎の基部である還元炎の部分を当てれば、酸化を防げます(直火還元バーナー)。エネルギーコスト的にどちらが得なのか、尋ねたいところでした。電池そのものについての講演ではなかったものの、多くの人が興味を持った講演でした。

 

 

4.新卒理系人材採用を成功に導く『現場×人事』協働型採用とは

株式会社LabBase就業事業本部 奥田惣太氏

 

 理系の優秀な人材をどうやってリクルートするかという古くて新しい問題についての解説でした。理系の優秀な人材はいつも引く手あまたです。特に近年は若者の理系離れや、AIやシステム等、ソフトウェアの世界への人材の集中により、最先端といえども、素材産業での人材確保は難しい状況です。

 

 奥田氏は、理系の学生は、先輩である研究者や技術者を頼りとして、彼らから得る情報をもとに就職先を決める傾向があり、文系の人事担当者だけでなく理系の研究者や技術者を活用してリクルート活動を行うべきと説いています。これはその通りで以前から言われていることです。

 

 しかし、個人的な意見を言えば、研究者や技術者が最先端の現場にいられる期間はそう長くはなく、40代後半になればマネージメント能力を求められるようになります。つまり理系だ文系だと、決めつけて考えても仕方ない面もあります。本当に必要なのは、地頭の良い人材、そして真剣に課題に取り組める人材です。このシンポジウムで講演された諸氏は、皆さまそれに該当しますが、問題はそのような人をどうやって見つけるかが難しい課題です。その解答はまだ得られていません。

 

 

.リチウムイオン電池のリサイクルにおける研究開発

日産自動車総合研究所EVシステム研究所 課長代理 奥井武彦氏

 

 日産は日本の自動車メーカーでEV開発の先頭を行く会社です。EVについてはそのメリットとデメリットが議論されていますが、CO2排出抑制の観点からは、化石燃料者のCO2排出の9割が走行中であることから、EVを有力な解決策とする日産の意思は強固と思われます。

 

 今、日産はリーフ、サクラのようなEVとノートのようなEパワー(内燃機関で発電し、モーターで駆動するシリーズ型HV)の2種類のラインナップを揃えていますが、将来的には、EVも複数の種類に分かれ、棲み分けができると考えています。

 

NCM LiB → 大型車

LFP     → 軽自動車

ASSB  → その他

 

 これはある意味当然で、走行距離が短くて済む一方、安価であることを求められる軽自動車にはリン酸鉄系が適しています。発火の危険性も大幅に低くなります。中国では、既に半分以上がリン酸鉄系になっています。日産が考えるのはその先で、中古になったEVをどう活用するかです。即ち、多段階のリユースを経て、最終的にリサイクルするという計画です。

 

 適切な対応をして、もう一度中古車として走らせますが、その後、さらに性能が低下して使えなくなれば、定置型として活用します。それも家庭電源、オフィスの電源、給電グリッド用電源と三段階を経て、リサイクルに回します。

 

Vehicle to Home
Vehicle to Office
Vehicle to Grid

 

 という訳で貴重な電池を「骨までしゃぶる」という日産の思想が伺えます。しかし問題も多くあります。LiBの性能劣化をどうやって短時間で把握・評価するかです。単純な方法ではインピーダンスの測定が考えられますが、充電時間の測定やクーロン効率の測定には時間を要します。簡単に短時間で多くの電池を評価するシステムの確立が必要です。ダイレクトリサイクリングについても、そのシステムを確立する必要があります。

 

 今後、EVの中古車が大量に出回ったり、廃車化が始まるにはまだ少し時間があり、EV先行メーカーである日産がリーダーシップを発揮すれば、EVとバッテリーの循環システムを構築することは可能であると信じます。しかしグズグズすることはできません。EVやバッテリーが海外に流出し不適切な再利用をされる可能性があるからです。今後の同社の取り組みに期待します。

 

 

6. 車載用蓄電池負極集電体としての電解銅箔の機能性

日本電解株式会社 執行役員 藤原英道氏

 

 LiBを考えた際、主役ではないものの重要な存在である電解銅箔について、日本電解の製品の性能を紹介した講演。同社はプリント基板用の電解銅箔に加え、EVのLiB負極用の電解銅箔に早くから着目し、開発と製造を手掛け、日本と米国でトップメーカーの地位を確立しています。

 

 藤原氏の説明は、電極に用いる銅に求められる諸性能と、それらに関する電解箔の他の銅製品(具体的には圧延銅箔)への優位性を、分かりやすく解説するもので、日本電解の高い技術力を証明するものでした。具体的には、高電気伝導率、高引張強度、平坦度、低弾性率、高密着性、高耐食性などが求められますが、しばしばそれらの性質は背反します。同社では電解銅箔の結晶粒度微細化の追究で、各特性の両立を果たしているとのことです。「循環型社会の確立」というシンポジウムのスローガンに配慮してか、原料の100%がリサイクル品であることも説明されました。

 

 全体を通して、非常に説得力がある解説で、私のような文科系の門外漢でも理解・納得できます。一方で、電解液に添加する“鼻薬”の説明はありませんが、メッキや電気分解の専門家も多く参加していますから、推測も可能です。ここは「言わぬが華」でしょう。

 

 またLiBの電極に要求される機械的特性は、ただの引張強度ではなく反復応力に対する疲労強度ですが、多くの場合両者は対応します。電解銅箔でもそうなのか?説明はありませんでした。さらにはトヨタと共同で特許出願したNiメッキ技術への言及もありませんでした。発表後の質疑応答では、質問者が列をなして難しい質問をします。中には御法度というべき質問もあります。

 

・今後、バイポーラ型が普及した場合、アルミと銅の電極はどうなるのか?

→ (顧客企業が判断することなので明解には答えられないが)、ハイブリッド化(銅とアルミのバイメタル)の方向に進むのでは?

 

・ 北米市場で独占供給できる立場にありながら事業が今一つ不振なのはなぜ?

→ (経営問題なので詳しくは言えないが)、米国のIRAをかいくぐって、中国製の安価品が流入し市場を席捲していることも理由の一つ。

 

 途端に会場はざわつき、「なんだ、IRAはザル法かよ!」との声あり。

 電解銅箔は、銅製品の中では高級でニッチな製品であり、数量的にも少ない。リサイクルに必ずしもこだわる必要はないのでは?(中村教授)

 

 日本電解は、同社固有の高い技術力と、ガリバーとも言える高い市場シェアが知られています。その一方でなかなか収益がふるわないのは何故か?という疑問を多くの人が持っています。藤原氏の説明は、それらに答えるものであると同時に、同社への興味をさらに駆り立てるものとなりました。

以下 次号

 

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久世寿(Que sais-je)

茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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