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風力発電の周辺技術の充実

 全く迂闊でしたが、再生可能エネルギーの成立条件が発電方法によって全く異なることに気付いていませんでした。

 

 どこでも設置可能で、消費地の近くに設置できる太陽光発電、ごく限られた特定の場所でしか発電できないが既得権益との調整・景観保護等の軋轢が問題となる地熱発電、そして設置可能な場所の事前調査が重要でかつ大出力化が進む風力発電では全く条件が違います。

 

 今回は、日本での開発が遅れている風力発電について、それに不可欠な周辺技術を開発する企業の展示をWIND EXPOで多く見ました。

 

 話は平成16年に遡りますが、「つくば市VS早稲田大学 風力発電貧弱事件」という騒動がありました。ご記憶の方も多いでしょうが、これは事前調査が不完全で、風が吹かない場所に発電風車を設置し、事業が赤字になり、早稲田大学を訴えたものです。

 

【つくば市vs早稲田大学→風力発電貧弱事件|最高裁判決・公的資金回収・風評被害】 | 企業法務 | 東京・埼玉の理系弁護士 (mc-law.jp)

 

 風力発電は、設置費用とメンテナンス費用だけではありません。微弱な風でも巨大な慣性モーメントを持つプロペラを回し始めるために、予め電気モーターで回転させておく必要があります。その電気代が無視できません。つくば市の場合はその為の電気代が嵩み、発電しているのか、電力消費しているのか分からい・・という洒落にならない事態になり、つくば市が怒ったのです。問題が発生した原因は事前調査が不完全だったということに尽きます。

 

 これは日本だけではなりません。スコットランドに乱立する風力発電設備も実はモーターで回しており電力収支は赤字でした。その風力で発電した電力でEVを走らせてもナンセンスというものです。

 

 全ての事業はFS(Feasibility Study)が重要です。とりわけ初期投資が大きく、究極の装置産業と言える風力発電の場合は重要です。風力発での場合のFSとは立地条件の確認です。日本国内の陸地はおおむね調査が完了していますが、洋上風力発電や離島の風力発電のFSはこれからです。

 

 事前調査は、年間を通しての、風力そして風向の記録が必要です。可能なら数年間モニターして、発電に適当な風速条件なのか? 設置できる風車はどの程度の規模になるのか、同時に使用する二次電池はどの種類でどの規模となるのか? 電力ネットワークと接続する場合は、どういう制御システムをとればいいのか・・を判断できます。

 

 1980年代に、世界的に風力発電が普及しだしてから、随分時間が経ち、これらのノウハウは蓄積しつつあります。

 

 今回はDelairco(デレーコジャパン)社と、メトロウェザー社を訪問しました。

 

 Delairco社は、風力観測システムを担当するKintech社、洋上で風況を観測するブイ(多目的浮体式プラットフォーム)を担当するFloatmast社、3Dスキャニンググライダーを担当するLEICE(禮測創芯)社、ライダーを開発販売するZXLidars社などと提携した多国籍企業ですが、既に日本の領海上の平均風速マップを完成させています。

 

 主たる技術は、ほぼメンテナンスフリーで風向測定を続けるgeovane、多目的プラットフォームfloatmast、風力データを保管するデータロガーであるORBIT360、RPSライダー3.5ブイなどです。

 

 これらは無人で風況を常時モニターし、データセンターに送信する機能を持ちますが、これなしで洋上風力発電は開発できません。

 

 現在、日本の洋上風力発電の開発は率直に言って遅れています。広大な排他的経済水域を有する日本で、洋上風力発電を活用しない手はないのですが、なぜ進まないのか? Derairco社の展示を見る限り、FSに必要な技術が不足する訳でもなく、日本近海のデータマップが未完成という訳でもなさそうです。何らかの政治的理由なのかと思います。

 

 ここで登場するライダー(LIDAR)とは光学リモートセンシングの技術の一種で、具体的にはパルス状に発信するレーザー光線を用いた一種のレーダーです。主に気体の流れの解析に用いられ、空中に浮遊するゾル粒子などにレーザー光線を当て、レーリー散乱やラマン散乱を利用して、ドップラー効果から空気の流れを読み取る装置です。

 

 ドップラーレーダーは空港でのダウンバーストの観測に最初に導入され、現在はその利用範囲が広がっています。非接触で可動部無しで、3次元的に透明な流体の流れを把握できるデバイスは、非常に応用範囲が広いのです。40年ほど前ですが、慶応義塾大学の前田昌信研究室では、ディーゼルエンジンの燃焼室内の気体の流れを観測していました。

 

 この装置は、風力発電設備設置前の事前調査にも使いますし、設置後もモニタリングに使えます。また風力発電を離れて、ライダー単体(ZX300)でも販売して利用可能です。個人的には、便利な装置なのに用途開発が遅れているように思えてなりません。

 

 ドップラーライダーの開発・販売と言えば、メトロウェザー社を考える必要があります。京都大学からスピンアウトしたベンチャー企業です。同社は競合する三菱電機よりも、安価でかつ小型のドップラーレーダーを開発・販売しています。その用途は空港での気流監視、および航空機でのダウンバースト予知です。

 

 日本の空港ではダウンバーストによる航空事故はほとんどありませんが、世界を見渡すと、ダウンバースト(特にマイクロバースト)やウィンドシアによる事故はかなり多く、過去には多くの犠牲者がでています。私の個人的意見ですが、ILSを装備する滑走路には全てドップラーレーダーを配置すべきだと思います。

 

 市場としては日本国内よりも、世界全体を対象とすべきです。ベンチャー企業共通の悩みですが、信用と実績が乏しく、販売力が弱いという問題があります。

 

 メトロウェザー社は4年前から、航空機搭載型のドップラーレーダーを開発し実用化すると言っていますが、いまだに実現していません。WG-100型のデモ機を見ると、まだ大きく航空機搭載に適しているとは思えません。更なる小型化、軽量化が必要です。しかし保守的な航空機メーカーに売り込むにはまだ足りません。

 

 例えば、レーダーのルックダウン能力です。これは自機より低い範囲を見下ろしてスキャンする能力で、もともと軍用機の索敵には不可欠な機能です。しかし民間機でも、これから着陸しようとする滑走路の気流を観測するには、ルックダウン能力が必要です。しかし、この反射波には地表や水面からの反射波も混じり、空中の物体だけの反射を抽出するのは、かなり難しいのです。

 

 またバードストライク対策やドローン対策も重要です。例えばカナダガン(グース)とムクドリ(小型だが大きな群れを構成)では個体の大きさが違いますが、周波数を順次切り替えて、それぞれを検出可能にできます。保守的なFAAなどを説得して航空機に搭載させるためには、最近発生した航空事故の原因を調べ、その防止策として売り込むのが最適です。メトロウェザー社の更なる開発推進と営業面での成功を期待します。

 

 風力発電の話に戻します。再生可能エネルギーの最大の問題は、安定しない小規模の電力(それも直流)をベース電源である火力発電と組み合わせて、ネットワークに乗せる技術です。

 

 この技術はハード・ソフト両面で多くの企業が開発し、今回のサーキュラーサミットでも多くの展示がありました。代表的なものはTMEICです。同社の大規模風力発電システムソリューションは、ハードとソフトを統合したソリューションと言う形で製品を提供しています。

 

 ハード面で言えば、受変電システム、自励SVCシステム(インバーター)、蓄電池システムの3つで構成されます。面白いのは蓄電池(外部から調達)の種類を固定していないことです。想像ですが、リン酸鉄型のリチウムイオン電池、レドックスフロー電池、NAS電池の3種類が候補となります。仄聞するところでは、リン酸鉄型リチウムイオン電池が最有力とのことです。

 

 これらの企業が顧客として考えるのは10電力会社、それに加えて新電力各社だと思いますが、それでは数が限られます。再生可能エネルギーの推進で先行する欧米各国の市場をなぜ狙わないのか? 少し疑問です。

 

 電力インフラは最重要インフラですから、外国から参入しにくいという事情はありますが、まず実績をあげるには海外から・・という考えもあります。

 

 再生可能エネルギーをネットワークに組み込む技術の説明で、海外での販売実績、運用実績の紹介がとても少なかったことに強い違和感を持った・・というのが、今回のWIND EXPOの会場を見た上での感想です。

 

 

(文責:赤井芳弘)

 

 

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