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ダイセル:革新的なナノダイヤモンドを利用した無限循環の太陽光超還元技術を展示

 10/29から幕張で開催されたサスティナブルマテリアル展において、ダイセルブースで、爆轟(ばくごう)法で合成したナノダイヤモンド(Detonation NanoDiamond:DND)を利用した太陽光超還元技術の展示があった。ダイヤモンドはその硬度と美しさから宝石として珍重されてきただけでなく、地球上で最も硬く、どんな金属よりも高い熱伝導率を持つ一方で電気は通さず、高屈折率と高アッベ数を併せ持ち、化学的に非常に安定で、いかなる酸やアルカリとも反応しないユニークな材料である。その特異な物性から工業分野においても幅広く利用されてきた。今回、爆轟法という製法で人工的に製造されたナノダイヤモンド(DND)を使って、太陽光の照射だけでCO₂を半永久的に分解し、原料に変え続け、カーボンネガティブを実現する新しい未来についての展示がなされた。写真左下の2つのカプセルに入っているのがDNDの粒と、これを液状に分散させたものである。ダイヤといっても輝いているわけではない。また右上の写真は実際にCo2を還元してCoの泡が生成された写真となっている。

 

 

 これまでのCO₂還元技術の大半はCO₂を分解するために大きな電力を必要とし、その電力を生み出すためにCO₂を発生させる矛盾をはらんでいた。ダイセルの「太陽光超還元」は、太陽光を照射するだけで周囲の空間に生成される水和電子により、高効率でCO₂を一酸化炭素と酸素に分解し続ける。またDNDは劣化せず、その反応は半永久的に行われる。さらにはH₂Oを水素と酸素に分解することも可能。発生した水素と一酸化炭素でメタノール合成も可能で、原料として再利用できるとしている(以下の図表はダイセルHP、神戸大学の学術成果などから引用)。

 

 

 ところでキーデバイスとなる人工ダイヤモンドとしての合成されたNDとはどんなものなのか。ダイヤモンドの合成の歴史は古く、1955 年に米GEが合成ダイヤモンド作り上げたのが世界初の成功例で、高温高圧法(High Pressure High Temperature:HPHT)と呼ばれる。今日では年間数十億カラットのダイヤモンドが主に産業用途向けに製造されているが、この方法は原料となるグラファイト等をチャンバーにいれ、プレス装置で超高圧力、超高温をかけることで、立方体および八面体の面の組み合わせを持つ人工ダイヤモンドの結晶が生成される。但し、工業的な量産には適さない高コストプロセスであり、天然ダイヤモンドの価値は依然として高く、より効率的な合成法の開発が求められていた。もう一つの有力なダイヤモンドの製法が化学気相堆積法(Chemical Vapor Deposition:CVD)。この方法は天然ダイヤモンドの形成方法と全く異なり、CVD 法では、非常に低い圧力の真空チャンバー内で、炭化水素ガス(通常はメタン)と水素との加熱混合物が原料として用いられる。気相からダイヤモンドを成長させるには、基板上の原料ガスをイオン化し非平衡状態にする必要があり、原料ガスをヒーター、マイクロ波、燃焼炎等により活性化することにより行われる。このCVD法の中でもプラズマ CVD 法は反応炉の中で電極を用いない方法の一つであり電極からの不純物の混入が無く、再現性良く安定に長時間の合成が可能な利点を持つが、HPHT法同様に高コストという課題があった。

 

 そのような中で1980年代に注目を集めたのが爆轟法。爆轟法は、爆発によって発生する高温高圧の環境を利用してダイヤモンドを合成する手法で、従来の高圧高温合成法などに比べ短時間で大量のダイヤモンドを合成できるという点が画期的だった。なお爆轟法によるNDの生成は、1960年代の旧ソ連にさかのぼる。初期の研究では、金属容器内に配置したグラファイトと爆薬を使用し、爆発によってグラファイトからナノスケールのダイヤモンドを生成する「コンパクション法」が開発され、この技術がNDの製造の始まりとされている。但しダイヤモンドの形成原理自体はHPHT 法と比較して、圧力と温度の供給源が機械から爆薬に変わったのみであり生成メカニズムそのものは高温高圧法(HPHT)に似通っていた。その後、1963年にロシアのDanilenko博士が爆薬だけでNDを生成できる方法を確認し、これが現在広く用いられている爆轟法(DND)生成ダイヤモンドの礎となった。なお冷戦下において軍事用途の廃棄爆薬を用いるDND生成法は機密扱いとされ、1990年代までこの技術は西側諸国にほとんど知られていなかった。

 

 爆轟法での生成は、主にTNT(トリニトロトルエン)やRDX(ヘキソーゲン)といった爆薬が利用される。生成プロセスでは、単純に爆薬に電気雷管を装着し、爆轟させるだけで爆発する際に発生する高温・高圧環境によって炭素が液体化し、その後急冷されることでナノサイズのダイヤモンド結晶が形成される。但しDND は生成されるものの、オープンな場所ではDND 回収ができないため、爆轟生成物の回収を目的に爆薬を金属製のチャンバーに入れて起爆する。爆薬がこの過程で生成されたダイヤモンドには、グラファイトやその他の不純物も含まれるため、クロム酸、硝酸、混酸(H2SO4 + HNO3)などを使用し酸処理による精製が行われる。

 

 

 ダイセルは1908年に設立された企業で、大正時代から火薬を扱う企業であり、過酸化物を用いた酸化反応が得意であり、火薬、爆薬も製造、関連会社で銃弾なども製造している。また車のエアバッグを瞬時に膨らますインフレーター装置も製造、一瞬にして超高温、超高圧環境を作り出す技術を有しており、同社がこの事業の推進を図った背景には、そうしたものを作り続けてきた技術と経験が生きている。ちなみにDND 製造の肝となる爆薬はTNT、RDXという取扱いの容易さと安全性の観点において採用されている。TNTは国内ではごく限られた企業で製造され、RDXはTNT よりも高爆速、高威力を示す爆薬であり、TNT/RDX=40/60 混合比のものはComp. B 爆薬としてよく知られる。

 

 同社は品質や供給の安定性したDNDに対する需要が拡大するとして、火薬工学技術と有機合成事業に由来する化学処理・表面修飾技術を組み合わせて技術構築を行った。爆轟試験設備を設置、2014年に播磨工場にDND試験製造を開始、また爆轟プロセスで得られる煤を精製するパイロット設備を新潟県新井工場に設置しDNDを安定的に製造し、供給する体制を整備し、品質と共有の安定性やトレーサビリティーの課題への対応を進めてきた。当初はDND収率が低かったが2015年には世界最高水準の収率を達成、世界最高レベルの爆轟プロセス技術を確立した。

 


 ND は単にダイヤモンドの特徴をもった小さなダイヤモンドというだけでなく、サイズを小さくしたことで発現する機能も兼ね備え、想像の範囲を超えた特性、機能を発現する。具体的には圧倒的な個数。たとえば、1カラットにおける粒子数は9×10 17 個にも上り、NDを何かに混ぜるような使い方では、粒子の個数が機能鍵となる。またND表面が他の材料との接触界面で機能するアプリケーションでは良好に分散させることで機能を最大限発揮できる。具体的に同社は爆轟法による異元素ドーピングを開発、炭素原子(C)のみで構成されたNDの中にケイ素(Si)やゲルマニウム(Ge)などの異元素を添加(ドーピング)する技術で、ナノダイヤの中に取り込みたい異元素(M)を爆薬に混ぜ、爆轟環境下で効率よく最適な分子構造を作りだせる。この異原子によって、通常のダイヤモンドにない機能が発現する。なおDND は爆薬起爆後に爆薬に含まれる炭素が高温高圧状態で気化され、冷却過程で液化し表面張力で球形となり、個体として回収される形状がほぼ球形であるが、他のND 製法はバルクダイヤを砕くプロセスで微粒子化するために角ばった形状となる。ダイヤモンドは化学的に安定な物質で生体親和性の高い材料として知られるが、とがった形状は生体を傷つける恐れがあり、生体応用で生体親和性を活かす上でDNDは非常に有利である。

 

 

 同社はDNDソリューションの活用でドーピング技術において3つの活用を示しているが、今回の太陽光超還元はそのうちの1つ(他には医療バイタルセンシング、MEMSセンサーなど)。窒素をドープしたNDNを可視光光源として利用したCo2還元触媒として使用することで、前述のごとく、分解物のうち一酸化炭素と水素からメタノールを合成し、さらにメタノールを酸化することで酢酸やホルムアルデヒドといった化学の基礎物質を作り出すことができる。また二酸化炭素を一酸化炭素と酸素に、水を水素と酸素に分解することを可能にしている。さらにこの技術の優れているところは従来の触媒技術がその表面でしか機能しなかったのに対し、表面を離れた空間で三次元的に作用し、この三次元作用は触媒作用が極めて高効率とのこと。またこの還元技術では、従来技術で必要だった電力使用の必要もなく、理論的には太陽光の照射のみで半永久的に反応が可能という文字通り超還元技術と言える。

 

 但し、NDNに単純に光に当てるだけで機能するというわけではなかった。二酸化炭素の電解還元に用いる場合は過電圧が大きく,実用的な分解電圧で還元するには助触媒金属との複合や深紫外光などの高エネルギー光の照射が必要不可欠だった。太陽光に6%程度しか含まれない紫外光をダイヤモンドに当てることで,周囲の二酸化炭素が還元されることは既に知られていたが,太陽光に最も多く(約50%)含まれる可視光を用いて同現象を実現するために、同社は金沢大学ナノマテリアル研究所の德田規夫教授,理工研究域物質化学系の淺川雅准教授らと共同で、ダイセルの爆轟合成技術と,金沢大学の化学気相成長(CVD)技術を組み合わせ,独自のダイヤモンド結晶化技術により,太陽光に最も豊富に含まれる可視光を吸収して電子を放出する特殊な結晶構造を持ったダイヤモンド触媒を世界で初めて開発した。具体的にはシリコン基盤上にNDNを塗布してダイヤモンドプレートレットを製作し、ダイヤモンドプレートレットは電気分解装置の部品として使用され、CO2を還元する光触媒とした。太陽光超還元技術によるCO₂還元の具体的な効率については、ダイヤモンドプレートレット(5層、10層、20層のDNDを使用したサンプル)では、CO生成のファラデー効率(CO2をCOに還元する際の還元率)は約20%となっている。なおダイヤモンドプレートレットは応用技術として、ダイヤモンド化合物半導体製造にも応用できるように思われ、ダイヤモンドパワー半導体製造への展開の可能性も秘めているように推測された。ちなみにホウ素を高濃度にドープしたP型半導体ダイヤモンドによる光触媒は東京理科大学からすでに発表されているが、ダイヤモンド(Boron-doped diamond, BDD)でのCO生成のファラデー効率は5%未満に過ぎないようで、非常に高効率と言える。

 

 

 同社は当面、この太陽光超還元技術で、工場から排出される二酸化炭素を各種化工品原料となる一酸化炭素へと還元するサステナブル技術として,自社の化学プラントにて実証を行い、さらに製造能力を拡大、同技術を利用し、循環型社会構築への貢献を目指していくとしており、2030年代には成長事業に変貌する可能性を感じた。

 

 

(H.Mirai)

 

 

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