中国、ニッケル価格も操作か インドネシアでの増産が価格低迷の原因に、米報告
ニッケルで世界最大の埋蔵量を誇るインドネシア。同国で中国企業が増産した結果、ニッケル価格の低迷を招いている可能性が浮上している。安全保障専門の米シンクタンク高騰国防研究センター(C4ADS)」が2月4日に発表したレポートで指摘した。
■背景に中国政府、香港登記企業なども活用
インドネシアは2020年にニッケル鉱石の輸出を禁止し製錬事業の拡大を目指したが、その隙間に多くの中国企業が入り込んだ。レポートによると、中国側は最終的にインドネシアのニッケル精錬産業の権益の75%を所有している。
関連記事: 中国企業がインドネシアのニッケル精錬能力の約75%を支配 | MIRU
ここには中国政府の資金が絡んでいるケースも多い。例えば、阪和興業が5%出資するPT Guang Ching Nickel and Stainless Steel Industryは広東省政府が中国資本側の最終権益を有する。また、別のニッケル高原会社であるPT Indonesia Tsingshan Stainless Steelは初期投資として中国国有の中国銀行と政府系である中国開発銀行から融資を受けた。
住友金属鉱山が2024年10月にまとめた2024~25年のニッケル世界需給予測によると、2024年のニッケル供給量は前年比4.2%増の340万2000トン、消費量が5.5%増の331万6000トンで、8万6000トンの供給過剰になる見通しだ。このうちインドネシアの供給量はNPIでインドネシアが166万8000トンと前年比11・3%増えると想定している。
こうした増産のため、ニッケルは構造的な供給過剰状態にが続く。ロンドン金属取引所(LME)のニッケル価格は2月6日現物が$1万5525/tonと、中長期で見て2020年秋以来の安値水準にある。
過去5年間のLMEニッケル価格の推移($/ton)
■青山集団と江蘇徳龍、価格低迷で明暗
インドネシアで事業展開する中国企業のうちでも存在感が大きいのが、青山控股集団と江蘇徳隆ニッケル業だ。報告書によると、この2社のインドネシア精錬ニッケル産業の権益保有率は7割を超えた。
青山集団はインドネシア中部スラウェシ島のモロワリ工業団地(IMIP)が有名だ。同社は2009年からインドネシアへの投資をはじめ、既に5つの精錬施設を運営している。初期投資には、やはり中国開発銀行が一枚かんだ。2023年に工場内で死亡事故を起こしたものの、投資期間が長く基盤が強固であるせいか、価格低迷による打撃は受けていないようだ。
もう一方の江蘇徳隆は様子が異なる。ニッケル価格の低迷が業績への打撃となり、2024年夏に経営危機が取りざたされた。同社が運営するインドネシア合弁のPT Virtue Dragon Nickel Industryは、中国側の出資状況を突き詰めると中国政府が直接管理する国有軍需企業である中国一重集団に行きつく。
関連記事: 中国のステンレス鋼大手・江蘇徳龍、再び崩壊の危機に | MIRU
中国勢の増産による価格低迷とそれによる各国企業への打撃は、鉄鋼やコバルトなどでも見られる。ただ、これにより打撃を受けるのは中国企業も同じで、政府系のバックがない場合、また市本基盤が脆弱だった場合は、他国企業と同じく業績悪化もみられる。
C4ADSはレポート中で、中国のニッケル価格コントロールは「一方では安価な材料(の確保)により中国のEVメーカーに利益をもたらすが、他方では、競合他社の参入障壁を高め、価格変動に耐えるための資本が少ない精製会社に財政的な課題をもたらす」と警鐘を鳴らした。
(図表はすべてC4ADSの公開レポートから)
(IR Universe Kure)
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