三菱電機 プラリサイクル「スマート静電選別」技術を開発、検証実験開始
AIを活用し、混合プラスチック片の組成の変化に応じて種類ごとに自動選別
検証実験を開始する「スマート静電選別」検証機の外観
三菱電機株式会社は、2月20日、同社グループが家電リサイクル分野で長年培ってきたプラスチックの静電選別技術に、各種センサーを組み込み、AIを活用することで、混合プラスチック片の組成の変化に応じて種類ごとに自動選別できる世界初(※1)の「スマート静電選別」(※2)技術を開発し、検証実験を2月19日から開始すると発表した。
2023年7月、欧州委員会は「自動車設計・廃車(End-of-Life Vehicles:ELV)管理における持続可能性要件に関する規則案」において、規則施行の6年後から、新たに製造される自動車に使われるプラスチックの25%を再生材(内25%は自動車由来)とすることを発表しました。欧州以外の地域でもプラスチックリサイクルに関する政策や法整備が進んでおり、各産業界においては、プラスチックリサイクル率の向上が急務となっている。これに伴い、これまではサーマルリカバリー(※3)や埋め立て処分の方法をとっていた廃棄物からも、再生材として製品に使用可能なプラスチックを選別・回収することが必要となります。一方、プラスチック製品の中には数種類のプラスチックが混在しているものがあり、リサイクルする上ではこれらを種類ごとに、より高純度に選別する必要があり、高度選別技術のニーズが高まっている。
同社グループが保有する静電選別技術は、プラスチックの種類ごとに摩擦帯電傾向が異なるという静電気の特性を利用して選別する高度選別技術の一つ。同技術の市場投入に向け、これまで多種多様な業種の企業約30社の廃プラスチックのサンプル評価試験を実施し、高純度に選別できることを確認してきた。一方で、実際のリサイクルでは回収される廃棄物によって得られる混合プラスチック片の組成がさまざまに変化するため、プラスチックの組成に応じて選別装置を都度調整する専門知識やオペレーションノウハウが必要なことが課題だった。
この課題を解決するために、同社は、AIを駆使することで専門知識やオペレーションノウハウが不要な「スマート静電選別」技術のコンセプトを2023年8月に確立し、検証機の開発を進めてきた。
今回、「スマート静電選別」のキー技術となる、プラスチック片の選別前・選別後組成識別センサーおよび識別アルゴリズムや、プラスチック片の比電荷(※4)をセンシング可能な独自の比電荷分布評価システム、センシング結果に応じて選別機を最適な条件に自動制御するAI技術を開発し、これらを搭載した検証機を製作した。この検証機を用いて、あらゆるプラスチックの組成に応じて、専門知識やオペレーションノウハウがなくても自動で高純度に選別できることを検証していく。
■開発した「スマート静電選別」技術の特長
1.プラスチック片の種類を99%の精度で自動識別し、選別前後の組成をリアルタイムに見える化
・プラスチック片に赤外線を照射し、反射の仕方からプラスチック片の種類を識別する近赤外式のハイパースペクトルカメラと、PLS-DA(※5)を使用した識別アルゴリズムを搭載。プラスチック片の種類を99%の精度で自動識別(※6)可能
・ハイパースペクトルカメラを混合プラスチック片の投入側と回収側に設置。選別前と選別後のプラスチックの組成をリアルタイムに見える化し、選別結果データを取得・AI学習データとして蓄積
2.独自の比電荷分布評価システムでプラスチック片の比電荷を高精度にセンシングし、AIで選別装置を自動制御
・静電誘導(※7)方式による独自開発の比電荷分布評価システムにより、既存の表面電位計では対応できないプラスチック片の比電荷を高精度にセンシング可能
・比電荷のセンシング結果から、混合プラスチック片の選別軌道を予測。組成に応じて電極の電圧や分離回収器の仕切り位置など、選別装置の条件をAIで高精度に算出し、自動で制御
3.各種センサーとAIにより、オペレーションノウハウ不要で静電選別が可能
・さまざまなサンプルの評価試験や当社の家電リサイクル事業の中で蓄積したオペレーションノウハウをDX化した各種センサー(※8)とAIにより、専門知識がなくても静電選別装置のオペレーションが可能
・選別前の混合プラスチック片の組成と、選別結果の組成、比電荷分布をAIに学習させることで、より高純度に選別できる条件を算出し、自動選別能力を向上
「スマート静電選別」検証機の構成図
■検証実験の概要
■今後の予定・将来展望
今後、家電業界と比べてプラスチックリサイクルの技術確立が進んでいない自動車・容器包装・建材などの業界への普及拡大を狙って、「スマート静電選別」の2027年度以降の実用化と市場への投入を目指す。また、検証実験や事業活動で得られたデータを活用し、再生材の品質管理やトレーサビリティ(※9)など、プラスチックリサイクルにおける新たな価値を創出していく。
■参考
この研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「サーキュラーエコノミーシステムの構築」(研究推進法人:独立行政法人 環境再生保全機構)(JPJ012290)によって実施された。
(IR universe rr)
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