住友電気工業は2026年4月8日、国内における超硬工具の主要原料「タングステン」のリサイクル生産能力を増強することを明らかにした。約159億円を投じて富山市に新工場を建設し、2028年の稼働を目指す。これにより、同社のタングステン材料の生産能力は現状比で5割(50%)増強される。本件は単なる生産能力の拡大にとどまらず、重要鉱物のサプライチェーン強靱化と環境負荷低減を両立する戦略的アクションとして産業界から注目を集めている。
住友電工のこのリサイクル能力増強方針はすでに昨年のMIRUとのインタビューにおいても言及されていた。
住友電工 佐橋常務に聞く タングステンのリサイクルと切削加工技術開発
かつ、現在はかつてなくタングステンの供給に危機感が広がっている。
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タングステン価格が3000ドル超え 高値3150ドル、ベトナムの関連企業も絶好調
タングステンスクラップ(超硬)相場はピークアウトしたか――キロ3万円到達の背景と「輸入国・中国」がもたらした構造変化
■ 1. 投資の概要と技術的背景
タングステンは、自動車産業や航空宇宙産業の金属加工に不可欠な「超硬合金(超硬工具)」の刃先などに使用されるレアメタルである。熱への耐性が極めて高く、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ一方で、代替材料がほぼ存在しない。
住友電工グループは既に以下の2種類のリサイクル技術を確立・運用している。
亜鉛処理法: 使用済み超硬スクラップを亜鉛の蒸発(沸点908℃)を利用して多孔質のスポンジ状に変化させ、構成成分のまま原料粉末に再生するプロセス。低エネルギーかつ化学薬品不使用で処理が可能。
湿式化学処理法: スクラップから不純物を分離し、タングステンの中間原料である三酸化タングステン(WO3)を鉱石精錬と同等の高純度で抽出するプロセス。
今回の新工場設立(富山市・2028年稼働)は、こうした既存の高度なリサイクル技術のスケールアップを図るものであり、高効率な循環型スキームの国内基盤をより強固なものにする。
■ 2. 経済安全保障上の「脱・中国依存」シフト
今回の巨額投資を読み解く上で最大の鍵となるのが、地政学的リスクの低減である。
供給の偏在性: タングステン鉱石の世界生産量の約85%は中国に依存している。
輸出規制リスク: 近年、レアメタルや重要鉱物に対する輸出規制が戦略的なカードとして使われるケースが増加しており、価格高騰や供給途絶(サプライチェーンのチョークポイント化)が日本の製造業にとって重篤な懸念材料となっていた。
国内での「都市鉱山(使用済み工具)」からの回収・再資源化パイプを1.5倍に太くすることは、輸入への過度な依存から脱却し、地政学的な供給ショックに対する強力なバッファとして機能する。
■ 3. エコシステムの構築とESG経営の体現
タングステンを天然鉱石から精錬する場合、鉱石中の含有量は通常1%未満に過ぎず、膨大な採掘・輸送・精錬エネルギーを必要とする。対して、超硬スクラップには約85〜90%の高濃度でタングステンが含まれており、抽出効率が劇的に高い。
住友電工の取り組みは、二酸化炭素(CO2)排出量の大幅な削減に直結し、製造業におけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実装とESG経営の観点からも極めて合理的な一手と言える。
住友電工による159億円の富山新工場投資は、一企業のリサイクル事業拡大という枠を超え、日本の「モノづくり」の根幹を支えるマテリアルセキュリティの防衛策である。2028年の本格稼働に向け、自動車メーカー等とも連携した使用済みスクラップ回収網のさらなる最適化と拡充が期待される。
(IRUNIVERSE YT)