5月14日から15日の2日間、タワーホール船堀で日本希土類学会主催の「第42回希土類討論会」が開催された。本稿では、14日に行われた特別講演「改めて白云鄂博とは何か」の内容を紹介する。講演には日本鉱業史研究会の長原正人氏が登壇し、中国最大のレアアース鉱床である白云鄂博鉱床の歴史、地質、産業構造、そして現在の中国レアアース政策との関係について解説した。
世界最大レアアース鉱床「白云鄂博」の歴史
中国・内モンゴル自治区に位置する白云鄂博鉱床(バヤンオボ鉱床)は、世界最大規模のレアアース鉱床として知られている。近年、中国によるレアアース輸出規制や供給管理強化を背景に、同鉱床への注目は再び高まっているが、日本国内ではかつて現地調査や共同研究に関与した研究者・技術者の世代交代が進み、白云鄂博鉱床をめぐる歴史的経緯や中国側の技術発展史に対する理解は十分とは言い難い。また、西側諸国の英文資料のみでは、中国国内で蓄積された鉱業・製錬・政策面の情報を包括的に把握することは難しい。白云鄂博鉱床は単なる巨大鉱床ではなく、中国レアアース産業そのものの形成史を象徴する存在である。
白云鄂博鉱床は包頭市から北約140kmに位置し、主鉱床、東鉱床、西鉱床および複数の衛星鉱体から構成される。1927年に鉄鉱床として発見され、その後1930年代にはレアアース鉱の存在が確認された。1940年代には、日本統治下の華北開発関連調査でも地質研究が行われており、戦後の中国国内研究へと引き継がれていく。鉄鉱山として本格開山したのは1957年であり、鉱床発見から実際の開発開始まで約30年を要している。
中国独自の分離・精製技術を育てた鉱石処理
中国では戦後、早い段階からレアアース分離・精製技術の研究が進められた。1950年代には北京有色金属研究院や中国科学院系研究機関を中心に、混合希土金属(複数のレアアース元素が混ざった状態の合金)や、単一レアアース酸化物製造に向けた研究が始まった。当初はイオンクロマト法による分離が中心だったが、その後溶媒抽出法の研究が急速に進展した。1970年代には難分離元素として知られるプラセオジム・ネオジム分離においても高純度化が実現していたことが中国国内資料から確認されている。
一般に、日本国内では「中国は日本技術を模倣して発展した」との単純化された理解が散見される。しかし、中国側資料を精査すると、白云鄂博鉱床のような極めて複雑な鉱石処理を長期間継続したこと自体が、中国独自のレアアース分離技術高度化を促した側面が大きい。白云鄂博鉱床のレアアースは品位が高いものの、鉱石組成が極めて複雑であり、鉄、フッ素、ニオブ、トリウムなど多様な元素を伴う。この難処理鉱石への対応経験が、その後発見されるイオン吸着型鉱床や漂砂鉱床への応用につながったと考えられる。
中国レアアース産業史を俯瞰すると、白云鄂博鉱床の発見後に中国各地で多様な鉱床が相次いで発見された。1950年代には広西の漂砂鉱床、1960年代には江西省などのイオン吸着型鉱床が確認されている。これらは白云鄂博鉱床と比較すると相対的に処理容易な鉱石であり、中国は異なる鉱石特性に応じた分離・精製技術を同時並行で蓄積していった。結果として、中国のレアアース産業は単一鉱床依存ではなく、多様な鉱石処理技術を内製化する構造を形成していく。
中国レアアース産業を支える二大企業体制
現在、中国のレアアース産業は大規模な企業統合を経て、中国・白云鄂博鉱床を中核とする世界最大級のレアアース総合メーカーである中国北方稀土(集団)高科技股份有限公司(以下、北方稀土集団)と、中国政府主導のレアアース産業再編によって設立された中国稀土集団有限公司(以下、中国稀土集団)を中心とする二大勢力体制へ移行している。北方稀土は白云鄂博鉱床を基盤とする包頭鋼鉄集団系企業群を中核とし、中国北部のハードロック型鉱床を主体としている。一方、中国稀土集団は江西省など南方のイオン吸着型鉱床群を中核とする。しかし実際には両者は完全分離ではなく、合弁会社や鉱石供給関係を通じて複雑に連携している。北方稀土系企業が南方由来のイオン吸着型鉱石処理へ関与している事例も確認されており、中国国内では「北方=軽希土、南方=重希土」という単純な区分は既に実態と一致しなくなりつつある。
白云鄂博鉱床の地質学的特徴も極めて特異である。同鉱床はカーボナタイトおよびアルカリ岩複合岩体に伴う鉱床であり、鉄鉱石とレアアース鉱化が共存する。従来は堆積性鉱床説、交代鉱床説など様々な成因論が存在したが、近年ではカーボナタイト型鉱床として理解する説が主流となっている。特に近年の年代測定研究では、中原生代のカーボナタイト活動に加え、古生代初期の後期貫入イベントが主要なレアアース鉱化を形成したことが示されている。
鉱床中ではモナザイトやバストネサイトが主要レアアース鉱物となるが、全体として軽希土類偏重の組成を示す。重希土類含有量は相対的に低く、中国南方のイオン吸着型鉱床と比較すると重希土供給能力では劣る。ただし鉱石量が極めて巨大であるため、総生産量では依然として世界最大級である。
白云鄂博鉱床は長年、鉄鉱山として開発されてきた。しかし約70年に及ぶ採掘の結果、鉄鉱石品位は大幅に低下している。現在の原鉱鉄品位は26〜27%程度とされ、国際的な高品位鉄鉱石基準である60%超と比較すると競争力は低い。このため近年では「鉄の副産物としてのレアアース」ではなく、「レアアース主体鉱山としての再編」が現地でも議論されている。
特に注目されるのが尾鉱再処理である。白云鄂博鉱山では従来、鉄回収後の尾鉱が大量堆積されてきたが、現在はこれら尾鉱からレアアース、ニオブ、スカンジウムなどを回収するプロジェクトが本格化している。2015年には新規尾鉱処理ラインも整備され、現在のレアアース生産の重要部分を担うようになった。尾鉱中のレアアース品位は計算上6%前後に達するとされ、既存尾鉱だけでも巨大な資源量を持つ。
中国政府によるレアアース採掘総量規制を見ても、北方稀土向け割当量は2020年以降急増している。背景には、鉄品位低下への対応に加えてレアアース主体開発への転換があるとみられる。ただし、白云鄂博鉱床は軽希土中心であるため、生産増加がそのまま重希土供給増には直結しない。実際、鉱石採掘量増加に対して重希土供給量の増加は限定的との試算もある。
激化する世界レアアース競争と白云鄂博の現在地
中国国内では白云鄂博以外の大型案件も進展している。四川省牦牛坪鉱床では近年大幅な資源量増加が報告されており、今後の開発が注目される。また南方イオン吸着型鉱床群も依然として重希土供給の中核であり続けている。中国が世界レアアース生産シェア約70%を維持できている背景には、こうした複数鉱床群による供給ポートフォリオが存在する。
西側諸国では豪州Mt.Weld(オーストラリア西部に位置する世界有数の高品位レアアース鉱床で、中国以外では最大級のレアアース供給源として知られている)や、米国Mountain Passが主要対抗鉱山(米カリフォルニア州に位置する世界有数のレアアース鉱山であり、中国以外では豪州Mt.Weldと並ぶ主要なレアアース供給拠点)として位置付けられている。しかし、硬岩型レアアース鉱床の新規大型発見は容易ではなく、近年では海成リン酸塩鉱床や漂砂鉱床からの副産物回収にも注目が集まりつつある。今後、中国国内で新規鉱床開発と既存鉱山増産が進めば、西側案件の採算性や投資判断にも大きな影響を与える可能性が高い。
レアアースは単なる資源問題ではなく、地政学、安全保障、先端製造業競争力と密接に結び付いている。白云鄂博鉱床の歴史と現状を正確に理解することは、中国レアアース産業の本質を把握する上で不可欠であり、西側諸国による対中依存低減戦略を考える上でも極めて重要である。
中国のレアアース鉱山は政府管理下にあり、採掘には許可が必要とされる。一方で近年は、政府が設定する採掘上限に対して増産傾向が続いており、実質的に上限を使い切る形で開発が進められているという。こうした動きについては、中国政府が価値の高いレアアース資源を戦略的に確保・活用しようとしているとの見方もある。日本や米国による対中規制が強まる中、中国は依然として世界のレアアース供給で圧倒的な存在感を維持している。
講演を行った長原氏は、これまで中国政府や各省庁が公開する資料・統計データをもとにレアアース鉱山やその埋蔵量についての調査を進めてきたが、近年は一部情報へのアクセスが困難になっていると説明した。
近年、レアアースを巡る地政学的重要性が高まる中、筆者自身も関連取材を強化している。しかし、中国政府の政策動向や鉱山開発の歴史、企業再編の全体像について体系的に理解することの難しさを改めて実感した。今回の講演は参加者にも大きな刺激を与える内容となっており、今後もレアアースを含む重要鉱物サプライチェーンの動向について継続的に取材・調査を進めていきたい。
(IRuniverse Midori Fushimi)