2025年12月以降、中国は日本向けのジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、酸化イットリウムなどの重レアアース、および半導体製造に不可欠なガリウムの輸出をほぼ全面的に停止している。この輸出停止措置はすでに4カ月以上に及んでおり、2025年11月に台湾問題をめぐって勃発した中日間の外交紛争が、経済面へ波及した形となっている。
中国外交部の毛寧報道官は2026年5月25日の定例記者会見で、法令に基づく軍事用途向け品目の輸出禁止を明言し、その目的を「日本の再軍事化および核保有の企図を制止すること」であると表明した。日本側では、信越化学が当該磁石の新規受注を停止するなど供給逼迫が深刻化しており、赤澤亮正経済産業大臣が事態打開のため訪中を行うなど、緊張が高まっている。
一、歴史的背景:2010年「レアアースショック」との比較
現在の状況は、2010年の「レアアースショック」の再来といえる。当時、日本は輸入の約90%を中国に依存していたが、衝撃を受けた日本政府は代替材料の開発、リサイクルの促進、海外鉱山への投資など包括的な対策を講じた。その結果、対中依存度は約58%まで低下し、消費量も半減した。しかし、重レアアースの生産において中国が依然として約99%のシェアを掌握している事実は変わっておらず、依然として日本は特定の重要材料で中国に強く依存している。
二、規制の高度化:輸出管理フレームワークの体系化
2010年当時は「非公式な制限」が主であったが、今回は堅固な法的・制度的基盤が構築されている。2025年10月に施行された商務部の公告(第61号・第62号)により、中国産のレアアース品目(価値比率0.1%以上)や、中国の採掘・製錬技術を用いて生産された製品については、域外であっても中国政府の許可が必要となった。規制対象は製品のみならず技術や設備にまで及び、サプライチェーン全体を包括的に統制する「製品+技術+設備」の管理体制が確立されている。
三、市場への衝撃:二重価格制の形成
輸出管理政策は世界市場に深刻な分断をもたらしている。2026年時点で、中国国内市場の価格に対し、ロッテルダム市場等の国際価格はジスプロシウムで4倍以上、テルビウムでは約4倍にまで高騰している。この「二重価格制」は、中国の川下製造業への実質的な補助金として機能し、新エネルギー車などの製品において中国のコスト競争力を一層強化する要因となっている。
大和総研の試算によれば、中国からのレアアース輸入が1年間途絶した場合、日本の実質GDPは約1.3%(約7兆円)、他の重要鉱物を含めれば約3.2%の減少となるリスクがあり、特に輸送機械セクターへの打撃は甚大である。
四、日本の対応策とその限界
日本は対策として以下の取り組みを進めている。
- 戦略的備蓄の放出
- 海外供給源の多元化: 双日とオーストラリア・Lynas社の契約など、中国以外からの調達を拡大。
- 日米戦略協力の深化: 重要鉱物サプライチェーン安全保障協定を通じた連携。
- 技術開発: 重レアアース使用量の削減や代替材料の研究。
しかし、Lynas社の重レアアース生産量は2026年第1四半期時点で月間数トン程度に留まり、中国の輸出量と比較すれば規模は極めて小さい。2028年頃までは中国依存からの脱却が困難であるのが現実である。
五、中国側の戦略的意図
中国国内では「総量規制・需要応分供給」の割当制度が厳格化されており、産業界の統合により管理力が強化されている。需要面では、電気自動車に次ぐ新たな成長エンジンとして、人型ロボットや「低空経済」が台頭しており、国内市場の需要も拡大している。中信証券の予測によれば、今後数年間は需給ギャップが継続的に拡大し、レアアース価格は長期的な上昇トレンドに入ると見られている。
六、今後の展望
今後のレアアース市場および供給構造について、以下の傾向が予想される。
- 輸出管理の制度化: 外交状況が改善しても、一度構築された戦略的管理体制が撤回される可能性は低い。
- 市場の二重構造の定着: 世界市場のプレミアムと中国国内の低価格構造が、中国製品の競争力を支え続ける。
- 脱中国の限界: 米日欧が連合的な体制を築きつつあるが、技術的障壁により、短期的には中国への依存から完全に脱却することは不可能である。
- 価格の長期上昇: 需要の堅調さと供給側の地政学的制約により、価格中心値の上昇は長期的な潮流となる。
総じて、今回の輸出規制は単なる一時的な外交ツールではなく、資源優位性を地政学的影響力に体系的に転換しようとする中国の戦略的な実践である。日本にとって、これは短期的には大きな試練であるが、同時にサプライチェーン変革を加速させる不可避の触媒ともいえる。世界のレアアースサプライチェーンは、今後10年以上にわたる構造的な再編期に入ったと認識すべきである。
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(編集 IRuniverse)