深刻な南米の干ばつ パラナ川の水位低下で穀物もエネルギーも「危機寸前」

アマゾン川に次いで南米で2番目に長いパラナ川(全長4880キロ)が、1944年以来の水量不足に見舞われている。2019年から続く南米大陸の干ばつが原因だが、地球温暖化とアマゾンの森林破壊が状況をさらに悪化させているという。流域住民の飲料水や農業用水に支障が出ているほか、物流や電力供給にも深刻な影響を及ぼしている。流域は農作物や地下資源のコモディティーの産出地だけに、世界経済を揺るがしかねない。
パラナ川はブラジル南東部にある世界最大の地下水源「ガラニ帯水層」を起源に、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンを通って大西洋に向かって流れる。世界でも8番目の長さを誇り、支流のイグアス川には世界三大瀑布のイグアス滝がある。途中、いくつもの流れに分かれ、「パラナ・デルタ」と呼ばれる湿地帯を形成し、肥沃な平原の生みの親となっている。まさに「南米のライフライン」である。大西洋に流れ出る直前に、ウルグアイ川と合流してラプラタ川となる。
そのパラナ川の流量は通常時で1分あたり1万7000立方メートル。しかし、現在は半分以下の6200立方メートルまで減少してしまった。これまでで最も流量が少なくなった1944年は5800立方メートルまで減ったとされており、この最悪の記録がすぐそこまできている。
水量不足によって水位が急激に低下しているが、流域平均では通常より約3.2メートル低下した。
枝分かれした川の主要部分は水が流れていても、かんがい用の支流などは水量が通常の10~20%程度しかないところもある。
ラニーナ現象など気象状況によって、南米は度々、雨不足に見舞われるが、2019年以降の干ばつは深刻で、雨季に入った昨年11月以降も水不足は解消されなかった。このためアルゼンチンとパラグアイの両政府は今年7月、パラナ川の水量不足による各方面への影響が甚大であることから、緊急事態を宣言した。
アルゼンチン政府はパラナ川沿いの60の都市の支援を重要課題にあげているが、このうちのひとつのエントレ・リオス州の州都パラナでは、市民の生活用水の約15%を供給するポンプが稼働しなくなった。水位が低くなり過ぎたためだ。
また「パラナ・デルタ」にある同州のエル・エスピニジョ島では、住民が対岸の町まで行くためのボートが水位の低下で使用できなくなった。ボートを使えば15分程度で行ける対岸の町まで2時間ほど徒歩で回り道しなければならなくなったという。
経済への影響も深刻だ。アルゼンチンは代表的な穀物生産国だ。トウモロコシは世界3位のサプライヤー。小麦の輸出量は世界6位、大豆は3位。飼料用の大豆かすの輸出は世界トップである。
そのアルゼンチンの輸出用農産物の80%以上は、パラナ川を経由して大西洋から世界に向かって運ばれる。
水量低下は穀物の運搬にダメージを与えている。水深が浅くなっていることから多くの穀物を貨物船に積むことができない。1隻あたりの積載量は通常時より26%ほど減らしている。このため運搬コストは跳ね上がり、1日あたりのコストは今年5月より2倍以上になっている。干ばつがこのまま続くようなら、今年中には通常時より65%ほど減らす必要が出てくると予想され、さらなるコスト高となりそうだ。原油高などで世界の運送費がアップしている中で、水位の低下が一段の穀物価格の上昇を招く要因となっている。
パラナ川が物資の輸入ルートなっているパラグアイでは、もうひとつの主要ルートとなっているパラグアイ川の水位も低下。運送業界はコスト高で売上高が20%ほど減少し、連動して輸入品の値上がりが続いている。
水位の低下はエネルギー供給にも深刻な影響を与えている。パラナ川には世界的にも特大規模の水力発電所がある。このうちパラグアイのアヨラス近くにあるヤシレタ水力発電所は、パラナ川の水位低下で発電量を50%引き下げた。ヤシレタダムはアルゼンチン国内の約14%の電力供給をまかなっている。
また、パラグアイとブラジルの国境にある世界第2位の水力発電施設、イタイプ水力発電所も発電量はこの30年で最低レベルになっている。
ブラジルは国内電力の60%以上を水力発電に頼っている。干ばつでブラジル国内では、電力制限や大規模停電の危機が高まっている。パラナ川以外にある水力発電所でも水量の減少で発電量が縮小しているためだ。
水位低下で発電コストが増加するため、ブラジル国内の電気料金は値上がりを続けている。今年9月にも消費者ベースで平均6.78%の値上げが発表された。
南米は国をまたいでの電力供給網が構築されている。2019年にはアルゼンチンやウルグアイなど複数の国で大規模な停電が発生した。この時は干ばつが原因ではなかったが、1カ所でのトラブルが広い範囲での大規模停電につながりやすい構造になっている。干ばつによるエネルギー危機は、南米諸国が最も恐れる事態である。
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Taro Yanaka
街ネタから国際情勢まで幅広く取材。
専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。
趣味は世界を車で走ること。
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