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ペルーの騒乱収拾めど立たず 経済損失膨らむ中でささやかれる新大統領の「早期辞任」

 デモの激化など社会的危機に陥っているペルーの国会は、2026年に予定されていた総選挙と大統領選を2024年に前倒しして実施することを決めた。国家反逆容疑で逮捕されたカスティジョ前大統領の支持者による抗議行動を沈静化させるための措置だ。一方、ボルアルテ大統領は11日前に任命した内閣の一部改造を余儀なくされるなど、資源大国は混迷の度を深めている。一部地域では道路封鎖などが解消されたが、銅や農作物の生産、輸送が正常化するにはほど遠く、経済的な損失が拡大している。

 

 ペルー国会は20日、選挙日程を変更するための憲法修正案の採決を行い、賛成93票、反対30票、棄権1票で総選挙と大統領選を前倒しすることを決めた。2026年に予定されていた総選挙を2024年4月に、大統領選を2024年7月に実施する。来月、批准のための投票が改めて行われ、再び3分の2以上が賛成すれば正式に決定する。

 

 カスティジョ氏の弾劾を可決し、大統領を罷免した国会だが、前大統領支持者による抗議行動が激化し、国民生活に甚大な影響を及ぼしていることから、事態の収拾のために決断した。

 

 実はペルー国会は16日に、総選挙を2023年末に実施する憲法改正案を審議したが、この時は賛成が49票に留まり、成立しなかった。世論調査では83%が選挙の前倒しに賛成している。ボルアルテ大統領は翌17日に、「見て見ぬふりはできない。人々が望んでいることをしなければいけない」と国会に選挙の前倒しを促していた。

 

 国会にとっては「不承不承」の選挙前倒しだが、実際の選挙までには1年以上もある。連日、警察・軍と衝突している前大統領支持者がこのスケジュールを受け入れるかどうかは微妙で、一段の前倒しを迫られる可能性がある。

 

 一部外交筋は、ボルアルテ大統領がデモの沈静化と政権運営に失敗し2023年中にも辞任に追い込まれるだろうと予測する。その場合、大統領選が2023年に早まるとみられる。

 

 カスティジョ政権で副大統領だったボルアルテ氏は、国会でのカスティジョ氏の弾劾を受けて大統領に就任した。カスティジョ氏の釈放などを求めるデモが激化したため、ペルー全土に非常事態を宣言したが、対話よりも国民の自由を奪うことを優先したことに反発した閣僚2人が辞任するなど、政権内部の対立が早くも噴出した。21日には内閣の一部改造を迫られ、10日に就任したばかりのアングロ首相に代えて、オタロラ国防相を首相に昇格させた。

 

 ペルーでは大統領のリーダーシップだけでなく、首相の知覚の鋭さが安定した政権運営には欠かせない。ボルアルテ大統領は、非常事態宣言下では国防分野で長い経験のあるオタロラ氏が首相に適任だと判断したが、デモ隊と治安当局との衝突による死者は27人にのぼっており、国会では左派議員を中心に反発の声が上がっている。

 

 今回の抗議行動は、特に南部の貧困層居住地で激化している。ペルーの世論調査によると南部ではカスティジョ前大統領支持が52%にのぼった。しかし全国レベルでの集計ではカスティジョ前大統領支持は33%に留まり、カスティジョ前大統領が失脚して当然だと考える人は63%にのぼる。

 

 デモ隊は労働組合などが支援しているが、リーダーと言われるカリスマ的な指導者の存在は見当たらない。カスティジョ前大統領は2021年の大統領選で貧困層や先住民の支持を集めて当選したが、今回もその支持層が抗議行動を展開しており、社会的不平等が解消されないペルーでの、「政治・経済エリート」への反発が、危機の背景にある。

 

 対話は重要だが、対話や交渉だけで解決できる問題ではないところに根深さがあり、事態収束の難しさがある。

 

 ボルアルテ大統領はペルー初の女性大統領だが、出身地の南部アプリマクでは大統領を「アプリマクの恥だ」と叫んで即時退陣を求めるデモ隊の姿が目立った。政権内も、国会も、故郷も、ボルアルテ大統領には手厳しく、政治経験の浅い大統領の早期辞任を予測するには十分な理由がある。

 

 ボルアルテ大統領をさらに追い詰めることになるのは、今後、表面化するとみられる騒乱による経済損失だ。ペルーの輸出の60%は銅などの採掘地下資源で、GDP(国内総生産)の10%を占める。採掘に大打撃を受けたという報告は今のところないが、ペルーの鉱山大手、ブエナベンチュラは道路閉鎖などの影響で物流が滞り、2つの鉱床で操業を停止した。世界的銅山であるラスバンバスでも、重量物を運ぶ車両の通行ができなくなり、銅鉱石などを港まで運べない状態が続いている。

 

 天然ガスを採掘しているカミセアでは、230人の先住民が採掘現場に侵入し一時、生産が停止した。このため韓国などへの輸出が止まっているという。

 

 こうした混乱は、国や地方自治体の税収にも直接影響するため、鉱山会社だけでなく政府にも経済的なダメージになる。

 

 ペルーはアボカドやブルーベリーなど果物の世界的な輸出国だが、今回のデモの影響で輸出が一時止まった。業界団体の試算では損害額は1億5000万ドル(約200億円)にのぼるという。

 

 

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Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。

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