日産自動車株式会社:サステナブルな暮らしは十全な電気から
2023年1月20日、オンラインVRソーシャル・ネットワーキング・サービスのVRChatにて、日産自動車株式会社主催の「『NISSAN EV & Clean Energy World』案内ツアー」が開催された。
今回の記事では日産自動車株式会社の取り組みについて紹介する。
電気自動車の普及とその利用法
電気自動車が市場へ普及しだして幾ばくかの歳月が経過し、社会的な認知が徐々に形成されている。
充電インフラの整備や電力需要のキャパシティ問題など、導入のハードルは高いながらも地域ごとに定着が進みつつあるのが実情だ。
そんな電気自動車には既存の内燃機関を備えた自動車とはまた違う利用法が存在する事は、実は余り広く知られていない。
電気自動車は文字通り走るハイテク機器の塊と言っても良く、種々のセンサーや先進的なドライビング制御技術、インターフェース等様々なシステムが電力で制御されている。
その動力源となる電気は車載のバッテリーから供給されるが、車種にもよるもののバッテリーは充電のみならず給電も可能としているのである。
PHEVの様なハイブリッド車両は元より、電気自動車は機器側が対応していれば外部へと給電することが出来る。
もちろん現在産業用途での大容量蓄電池は移送出来る超重量の機器が一般的だ。
しかし家庭用といった小規模な電力消費に対しては電気自動車レベルのバッテリー容量で十分対応できる為、それこそ額面通り「走る蓄電池」として活躍することが可能なのだ。
日産自動車株式会社は、VRChat用に製作されたワールド(会場)でそれを非常に分かりやすい形で体感できる様にしている。
湯水のように使われる電気の体験会場
日産自動車株式会社は神奈川県横浜市に本社を置く自動車メーカーである。
多国籍自動車メーカーとして有名な同社は、海外向けブランドとして高級路線のInfiniti(インフィニティ)やDatsun(ダットサン:2023年展開終了予定)としても手を広げている。
そんな同社が今回提示したのは、電気自動車の持つ「走る電池」と「電力の大切さ」を両立して学べる場所である。
ワールド内に入ると日産のクロスオーバーSUVとして有名な「日産アリア(以降アリアと表記)」が鎮座。
設置されたスタートスイッチを押すと、アリアの側にある「V2H Powered」という設備に充電/給電ケーブルが出現。
このケーブルとアリアを繋ぐ事で、会場となるコテージが存在する湖畔のリゾート地へと移動する。
移動直後、アリア本体に「10kWh」の電力があり、コテージ備え付けの蓄電池には「4kWh」の電力が蓄えられている。
移動先のコテージでは電力が来ていない為、電源となるのは蓄電池と乗り付けてきたアリアのみ。
コテージ内は最初は汚れのひどい状態であり、その解消の為に換気扇を回したりお掃除ロボットを使用したりすると一定の電力を消費する。
更にはコテージ周辺の設備である散水機やキャンプサイト、コテージ内の調理設備や洗濯機、テレビにスピーカー等あらゆる物が電力を消費して稼動する。
そのたびに蓄電池とアリアの充電量は減っていき、アリア本体が移動に使える最低量の6kWhまで蓄電量が減った場合はそれ以上給電が出来ない状態となる。
アリアへの充電には、コテージからアリアに乗って向かうことが出来る太陽光発電システム、地熱発電システム、そして風力発電システムの三ヶ所の充電スポットを利用する。
しかしその充電方法は独特であり、例えば地熱発電ならつるはしで溶岩を掘り、太陽光発電システムはパネルの向きを変えて、風力発電システムはなんとうちわを持って風車を稼働させるというどれもこれも過酷な肉体労働が必要なシステムである。
このいわゆる「筋肉式充電」とも呼べるギミックでアリアへ電力が充電され、麓のコテージ等で改めて電力が使える様になるのである。
なお参加者の中で風力発電を体験したユーザーは、肩で息をつかせながら「これだけしか充電されないのか」と零すなど何とも言えない様相であった。
ところでこの給電方法には一つ重要なルールがあり、それは「アリアが接続していなければ、電力を使う事は殆ど出来ない」という物である。
V2L(Vehicle to Load)タイプの給電設備は電力の蓄電が出来ず、またコテージ備え付けの蓄電池はV2H(Vehicle to Home)を経由しても最大11kWhまでしか蓄電が出来ない。
一方アリア本体の蓄電量は、現実に存在するアリアのB6グレードと同じく66kWhまでの蓄電が可能となっている。
このワールド内のギミックは使えば使うほど電力を消費する為、いかに効率よく充電を行いながら電力を消費して設備を動かすかがワールド攻略の鍵となっている。
電力をやりくりしながら各所のギミックを作動させていったりすると、その要素に応じてコテージ内に存在するミッションの進行を示すパネルが点灯していく。
いかに早く、ワールドに散りばめられたミッションを達成できるかというタイムアタック要素も備えているのはやりこみゲーマー気質なユーザーには嬉しい所だろう。
リアルさにこだわった電力消費と電気自動車のルーツ
ワールド内でネックとなる筋肉式充電の過酷さも話題とはなるが、それ以上に脅威となるのがコテージのテラスに備え付けられた「お風呂」である。
このお風呂を綺麗にした上で稼働させるのもミッションの一つではあるが、その電力消費量が半端ではない。
その消費量は50kWhと、アリアの搭載バッテリーをフル充電にした状況以外では達成が困難な数値となっている。
これはどういう事かというと、担当者曰く「2000リットル入る浴槽の水を、約40度まで上げる為に必要な電力消費量を計算した結果こうなった」との事である。
それ以外にも散水機では4kWh、冷蔵庫や電子レンジなどは2kWhといった消費電力が設定されている。
これらの数値も生活に必要な電力消費量をきちんと計算した上で、消費量を設定しているというから驚きである。
一般家庭が一日生活するのに必要な電力は通常12kWh前後であるとされており、アリアのB6グレードではフル充電の状態であればおおよそ4〜5日前後給電が可能となっている。
自宅等で送電網が寸断されてしまった場合、アリアを始めとした電気自動車は電力を供給するバッテリーとして機能する。
そして先述した「走る蓄電池」としての価値は、ただ自宅に給電できるというだけにとどまる物ではない。
それが地震等の災害で被災した住民が集う避難所での電源としての役割だ。
勿論今回製作されたワールドはキャンプ場などを備えたリゾート地であり、いわゆる「切羽詰まった雰囲気」とは縁遠い場所ではある。
しかしワールド製作の為のアイディアのルーツとして、こういった緊急時の給電機能にフィーチャーした所からスタートしたとの事である。
参加者は「お風呂ってこれだけ電力を消費するのか」「常日頃から意識せずに電気を使っているんだな」と口々に電力の有り難さを呟いていた。
日産自動車株式会社における現在の自動車の売れ行きとして、先進技術であるe-POWERを搭載した様々なモデルや電気自動車の日産サクラを中心にどの車種も高い人気を誇っている。
そんな電気自動車市場で圧倒的な存在感を示す日産自動車株式会社の電気自動車のエスプリを遡れば「日産リーフ」に連なるある自動車の姿を見ることが出来る。
かつて存在し、日産自動車株式会社に吸収されたプリンス自動車工業株式会社の前身となる、東京電気自動車株式会社の開発した「たま電気自動車」である。
(写真出典:baku13 - photo taken by baku13 Wikipediaより)
1947年に販売された同車は戦後の電力需要において供給過多の時代、ガソリン等の化石燃料の流通が統制されていた事もあり電気自動車は合理性を持った車両として認められていた。
しかしその後、ガソリンの供給状況が改善され加えてバッテリーの原料である鉛の高騰が発生し1951年に販売が終了。世界初の量産タイプの電気自動車は戦後の僅かな時期であるが、国内を走っていたのだ。
そして59年もの時が経った2010年、日産自動車株式会社が初代「日産リーフ」を販売する。
その際に社内の有志によりたま電気自動車は原型の復元と走行可能な状態にまで整備を施され、日産グローバル本社ギャラリーにて展示が行われた。
もちろん日産リーフの先進性は当時大きな話題をさらっていったが、その影には世界初の量産型電気自動車の存在が確かにあったのである。
一般社団法人日本機械学会から「機械遺産」とまで認定された同車は、日産自動車株式会社の座間事業所内「NISSAN HERITAGE COLLECTION」にて静かな余生を送っている。
押しも押されもせぬ程に電気自動車のブランド価値を上げ続ける日産自動車株式会社。今後を見据えた生活を啓蒙するとともに、連綿と続く電気自動車の魂に大きな期待が寄せられている。
IRuniverse Ryuji Ichimura
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