自動車業界動向 新車市場失速の予感と加熱する中古車市場への警鐘
国内の新車販売台数は昨年と比べて右肩上がりの調子を見せている。
そんな新車販売業界ではあるが、今回そのままの成長が見込めるかどうか雲行きが怪しい流れとなっている。
一方で中古車市場は熱が冷めない状態が続いており、中には契約の際に消費者に誤解を招く様な内容で購入を勧める広告を出す業者も出てくるというのだ。
これから更に注目が集まる海外の動向も併せて、特定非営利活動法人 自動車流通市場研究所のレポートから纏めてみる事にする。
新車市場に暗い影の気配
今年は新車販売台数を年間500万台に回復させるという機運が高まっているのか、年初から新車の売れ行きは前年と比較し好調な流れとなっている。
1月から4月の新車販売台数の合計は1,731,150台と昨年の同時期に比べて15.7%増加している。
これまでの低調ぶりはどこ吹く風と言わんばかりの二桁新調は、8月までその勢いが続くと見込まれている。
昨年の自動車販売台数の推移を見てみれば、1月から8月までは新型コロナウイルス感染症の世界的大流行やロシアのウクライナ侵攻による物流の停滞や材料の供給不足といった条件があった。
その為自動車の新車生産に必要な半導体をはじめとする各種部品が流通せず、結果として販売は遅れ販売台数も目に見えて経る結果となってしまっていた。
しかし9月以降その気配は回復し、順調に伸びを見せていたというのが昨年9月や10月の傾向だ。
つまるところ現状は流通を含め様々な諸要素が緩和、あるいは正常化に向かいつつある中で新車の販売台数が伸びているという事になる。
その為昨年不振となった1月から4月と比較すれば、今年度は各種供給が上手く回りつつあるため自動車生産も円滑に行われていっているのが実情だ。
さて、勘のいい読者諸氏であるならばこの時点で何か勘付く物があるかもしれない。
先述した通り、昨年は1月から8月まで不振であった。そして昨年9月から生産体制が整い始めたため、当然昨年不振であった1月から8月までと比較して今年は右肩上がりとなる見込みである。
それは裏を返せば、9月以降の伸長比率が昨年度を超える保証が無いという事を意味する。
そして新車の生産に対してもう一つ懸念となる要素がある。
それが新車の納期がどんどんと長期化している事である。
人気のトヨタ自動車のアルファード・ヴェルファイアを始めカローラやプリウスといった車両は軒並みオーダーストップが掛かる程に生産が追いついていない。
また半導体を利用した基板製造関連機器のメーカーからも機器の納入速度がそこまで上がっておらず、市場は冷え込んでいる状況という話も耳にしている。
現状自動車において半導体ならびにそれを利用した基板の生産に関しては切っても切れない要素となっている。
その為安定したハイテク部品や材料の供給が為されなければ、今年後半からの新車市場は失速する可能性が高い状況に追い込まれている。
中古車市場は規制強化へ
一方中古車市場では現在加熱しつつある同市場に対して、一定のルールが設けられる事になる。
一般社団法人 自動車公正取引協議会が公正競争規約の改定を認定され、今年の10月1日から施行される事になる。
その中で最も大きいのが「販売価格」に関する表記の徹底だ。
これまで中古車市場には販売価格の表示に対し踏み込んだ規制が無く、安価な価格を提示しながらも実際はより多くの費用が発生するケースが往々にして存在していた。
今回の改定はそういった表記を正確にし、保証や整備等の強制購入や準備費用といった車両価格以外に発生する費用やオプションを明確化する事を求めたものである。
具体的にはこれまで販売価格として表記されていたものを「支払総額」とし、車両価格と諸費用をそれぞれ分割して表示させる事となる。
また車両に対して付属する保証の有無、定期点検整備の有無、保証が付く場合の期間と走行距離の表示といった物も必要となる。
また注釈として支払総額には諸費用が付属する旨を明記し、当該価格の表示条件も併せて記載する事で価格の根拠を明確に提示する事も求められた。
そして規約違反が発生した場合の措置に関しても厳格化を行い、厳重警告の他に社名の公表や違約金の支払いといった重い措置が取られる事となる。
この背景には先述した通り、昨今高まる中古車需要に対し、表示価格を安くしておきながらあの手この手で様々な要素を契約させ購入費用を釣り上げる事案が横行していたからこそ今回の改正に繋がったという見方がされている。
是非とも中古車市場においても、競争の健全化を行う事で信頼に足る市場として社会的信頼を取り戻していって欲しいものである。
変わる諸外国の中古車市場
2023年における世界への中古車輸出台数は320,718台と、前年同期比で19.9%増加という結果となっている。
特に欧州圏においては主な輸出先であるロシアの影響が大きく、前年同期比36.9%かつ台数も50,806台とかなりの数を調達している。
ロシアはウクライナ侵攻に伴う経済制裁の影響を受けており、新車の生産がほぼストップしている。また国土も広い同地域において公共交通機関の稼働状況は必ずしも良い状態ではない。
こういった事情から日本からの中古車輸出に頼らざるを得ない状況が続いており、そこにG7サミットにおけるゼレンスキー大統領の来訪を機としたさらなる経済制裁が予想される。
その為これまで以上に中古車輸出に関しては「お得意様」となる可能性は大いにあるだろう。
欧州圏においては他にキプロスや英国、アイルランド等も上位国となっておりこれまでその3国間でEUを介在する形で取引が行われていたが、英国のEU脱退に伴い日本車を輸入先に切り替えて貿易を続ける見込みと見られている。
アジア圏や中東に関して、中古車の輸出先として目されるのがアラブ首長国連邦(UAE)である。こちらも2003年の1〜3月での取り扱い台数は45,842台と多く、昨年比では46.9%増加という大口取引先となっている。
同国は輸入した車両を最終仕向国であるアフリカ諸国に流しており、輸送価格の安さと現地までの運送コスト等の面から取引が活発化していると見られ、2019年の年間17万1505台の輸入台数を今年は上回るのではないかと予想されている。
アジア圏ではマレーシアが好調となっている他、注目される国としてミャンマーが挙げられる。
今回タイ向けの仕向台数は13,186台と昨年比54.7%という増加ぶりであるが、そのうち9割はミャンマーへの再輸出が為されている。同国の仕向台数が4,319台という所を見ると、1万6千台は下らない台数が輸入されているものと考えられる。
というのもミャンマーは2015年を機に新車の登録台数が減少しており、2018年の右ハンドル車輸入禁止措置を経ている。その頃までに輸入された車両の買い替えが進むものと見られているのだ。
輸入されている車種はトヨタ自動車のプロボックスや姉妹車のサクシード(2020年まで生産されていた5ドアライトバン)など、現地のニーズにあった車両が渡っているという。
現在アジア地域は日本からの輸入車の量が増えている事もあり、今後も無視できない市場として存在感をアピールしていくのではないだろうか。
(IRuniverse Ryuji Ichimura)
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