「MAZELLOYⅡ」が切り拓くプラスチック製造の未来
2023年11月28日から12月2日までの間、千葉市美浜区中瀬の幕張メッセにて「国際プラスチックフェア2023」が開催された。今回の展示会は実地開催となっており、5日間合計で、43,676人(速報値)もの人が訪れた。
今回の記事では出展者のうち日本タングステン株式会社の新規開発パーツを取り上げていく。
・新素材MAZELLOY®の新材料「MZⅡ(ツー)」とは?
まず、MAZELLOY®とは日本タングステンが開発した複合金属であり、今回展示が行われた新材料「MZⅡ」はそのセカンドアップデート版となる。
従来品と比べて、ニッケル基合金とほぼ同等の耐食性能で耐摩耗性は20倍、リン酸に対する耐食性能を「MZ01」比で50倍に向上させている。
では、何故このような開発が行われたのだろうか?
まずは、昨今の強化プラスチックの潮流を改めて考えてみたい
・強化プラスチックの需要増。電気自動車への活用
現在、世界中で電気自動車の需要が増加している。電気自動車の燃費を向上させるには、車体をいかに軽量化するかということが極めて重要だ。
そのために電気自動車では、普通車よりも多くのプラスチック部品が使われている。
そのような用途で使われる強化プラスチックは、ベース樹脂が改良されていたり、フィラー充填量が増えたり、添加剤が多様化されていたりする。
これらは製造機の金属部材にとって大きな負荷となる。
・一筋縄ではいかない強化プラスチック製造過程
このように、近年強化プラスチックの進歩には目を見張るものがあり、さらにその需要も増している。
一方で、その製造過程には大きな問題があった。
それは、製造過程で使われる二軸押出機の部材の消耗が極めて激しいことだ。
製造の過程で、配合する物質が増えたが故に、合金工具銅製の部材は、より早く腐食摩耗を受ける。この画像は20ton分のプラスチックの製造を行った部材である。色が変わっているということは、それだけ生成されたプラスチックに削れたものが混入しているということである。さらに、この傷んだ部材の入れ替えには莫大な時間とコストがかかる。
・超硬合金の利用 その問題点
日本タングステンでは、合金工具鋼に代わる素材として、超硬合金を二軸押出機の部材として提案した。
確かに部材の寿命は延びた。
しかし、高比重による軸のたわみが発生する為、搭載できる部品点数に限りがあるという致命的なデメリットが存在した。
MAZELLOY official youtube より
・新素材MAZELLOY®とは
新素材MAZELLOY®は、これらのような課題を解決する、3つの要素を持つ特殊金属である。
多くの添加剤を投入されても傷まない耐食耐摩耗性、より硬い強化プラスチックを加工しても問題ない耐衝撃性、そして製造機に負荷を掛けない軽量性を兼ね備えている。
特に、耐摩耗性では一般的な合金工具銅の約3倍(会社調べ)もの性能がある。
MAZELLOY official youtube より
さらに、その新素材に配合されている金属も大変ユニークである。
MZⅡの主な原材料はコバルト、チタンであり、社号に含まれるタングステンとはかけ離れている。
MAZELLOY official youtube より
部材の寿命が延びれば、それだけ部品の交換コストが下がるだけではなく、その間に稼働を停止することや、交換作業に必要な人材を削減することが出来て、コストカットに寄与することは明らかだろう。
日本タングステンホームページ より
今回、ブースにおいて係員の方から数多くの説明を受けたが、この新素材にかける熱意が第一に伝わってきた。他の係員の方々からも同様の雰囲気が感じられた。
このような革新的な金属を開発できる、日本タングステンが持つポテンシャルに驚かされた。
タングステンは、世界産出量の85%(2021年度)を中国が占めている。
過去に重要資源が、中国の政治の道具となることが多く発生している。
この新素材は、日本タングステンの経営上におけるチャイナリスクを下げるだけではなく、日本のプラスチック製造における安定供給を支えるようになるだろう。
(IRuniverse Imahoko)
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