ベイリンクス石川氏がオンラインセミナー「世界に挑戦する中国軍営企業」
IR Universe主催の「半導体市場最前線2023秋オンラインライブ」が2023年12月26日、東京のIR Universe事務所内で開催された。講師は半導体産業分析に関しては定評があるベイリンクスの石川勇代表取締役。質疑応答を含め2時間半近くに及んだたっぷりしたセミナーの概要を報告したい。
■中国軍営企業の代表 華為、聯想、海爾
石川氏によると、中国には人民解放軍が保有する「軍営企業」が1万社以上あり、代表的な企業として通信の華為技術(ファーウェイ)、パソコンの聯想(レジェンドおよびレノボ)、家電の海爾集団(ハイアール)が挙げられる。これらの軍営企業は解放軍出資者が創業し、人材や資金面で解放軍からの援助を受ける。事実、ファーウェイの創業者は解放軍の「時計屋さん」だった。
中国はこれらの企業を通じて世界で勢力を拡大するとともに、2015年に「中国製造2025」のスローガンを打ち出すなど国内製造業の拡大も進めた。
しかし、そこに待ったをかけたのが米国。石川氏は「米国は他国の経済規模が同国の名目国内総生産(GDP)の60%まで許容するが、60%を超えると相手国つぶしに動く」と話す。過去には日本が1992年にこのレッドラインを突破したが、当時の中曽根康弘総理大臣に「自動車か半導体のどちらかをつぶせ」と迫り、日本の半導体産業をつぶした経緯がある、という。
現在は、中国が2018年にこのラインを上回り、2030年には米国を抜き世界最大の経済大国になるという見通しが出ている。このため、米国およびアングロサクソン勢力が中国をつぶしにかかっているのが現状という。特に華為は世界最大のサイバー部隊の面も持つため、米国に徹底的に規制されている。
■車載半導体とBEVで世界を支配へ
石川氏は、中国は車載半導体とバッテリー式電動自動車(BEV)で世界を支配することを目指していると指摘する。中国が2021年に明かした2030年までの目標値は、「車載半導体の世界市場シェア30%、国産EUV自給率40%、BEV販売台数2000万台、自動運転車400万台」である。
これに対し、現在は「車載半導体の市場シェアは2%程度」でまだ低いが、華為を中心にシェアを拡大していくもよう。自動運転は中国政府がマザー企業に指定している検索大手の百度(バイドゥ)の技術を利用していくとみられている。
中国の目標が実現できるかどうかは、支援材料とリスク要因がともに存在する。
支援材料としては、台湾らからの陰の支援が挙げられる。中国には中芯国際集成電路製造(SMIC)や紫光集団といった国策半導体会社があるが、これらの企業の幹部人材は多くが台湾の台湾積体電路製造(TSMC)からの移籍者である。石川氏は「1人2人なら偶然と言えるが、この数は組織的なもの」と話し、「すべてお金で処理されている」と説明した。
また、米国が華為に実施したような規制は必ずしも効果を上げていない事実もある。華為の業績は2021年に大幅減益となったものの、2023年からは回復が見込まれている。さらに、バッテリー材料としては北朝鮮のリチウム鉱を利用できるというメリットも持っている。
半面、リスク要因としては、特に中国産EVを世界に広げるにあたって、輸出先での完成車の組み立てが難しくなる恐れがある。他国が安全保障上の理由から中国の工場設置を拒む可能性があるからだ。ただ、石川氏はそれでも「米テスラと中国のBYDがEV市場を引っ張っていく構図になるだろうし、自動運転分野でもトヨタなどの日本勢は3番手4番手に甘んじることになるのではないか」と予想した。
ちなみに石川氏によると、DRAMを巡っては米韓と中国が水面下でバトル中。韓国のサムスン電子、SKグループ、米マイクロンの3社の間で「闇カルテル」とも言うべき価格についての暗黙の了解があるが、中国側がこれを暴露して価格を吊り下げたところ、3社側が「半導体は不足している」との風説を流してまた価格を引き上げ…と交渉が続いているという。
■台湾総統選も変数に
来るべき2024年、そして今後の半導体業界について、「台湾総統選なども変数になってくる」と指摘。世界最大手として動向が気になるTSMCについても「メリットがあるから日本に工場を設置するのだろう」と話した。
また、数ある半導体の中でも期待が大きな車載半導体については「マーケット自体が小さく、現時点では主業務ではなく片手間で手掛けている企業が多い」とし、「半導体の最先端露光技術である極端紫外線(EUV)ができるかどうかが、車載半導体全体の課題だろう」とも話した。
半導体にとどまらず、世界経済・動向を見渡した密度の濃いセミナーだった。2024年もぜひお見逃しなく。
(IR Universe Kure)
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