危機感強めるウクライナ鉄鋼企業 23年の合金生産は57%減、侵攻2年で原料炭工場も陥落
ウクライナの鉄鋼企業が危機感を募らせている。2月24日で丸2年となるウクライナへの侵攻ではウクライナの金属・エネルギー資源や精錬施設もロシアの標的となってきたが、最近、ロシアが攻勢を強める中、新たな強奪懸念が再燃している。
■アウディーイウカ陥落で原料炭工場も喪失
ロイター通信が2月20日に伝えたところによると、ウクライナ鉄鋼大手メトインヴェストのユーリ・リジェンコフ最高経営責任者(CEO)は2月19日、同紙に対しウクライナ東部アウディーイウカの陥落について「非常に憂慮すべき」とし、米国に対し、停滞している軍事支援パッケージを早急に承認するよう求めた。
メトインヴェストはアウディーイウカに原料炭工場を所有しており、ロシア軍は陥落に伴い、同工場を完全に掌握したと発表した。メトインヴェストは侵攻初期にマリウポリのアゾフスタリ製鉄所も失っている。
■工場閉鎖や従業員徴兵で生産大幅減
Felloynetがウクライナ合金鉄協会(UkrFA )経営陣の話として2月21日に伝えたところでは、ウクライナの合金鉄企業の2023年の生産量は前年比57.4%減だった。合金鉄の輸出量は48.5%減で、このうち52.8%がポーランド向けだった。2位はトルコで14.1%、次いでオランダ向けが8.5%を占めた。
ウクライナの鉄鋼業界では、ニコポリやザポリージャ、マルハネツなどでの合金や製鉄の工場が戦乱で閉鎖し、従業員の徴兵による人手不足に陥った。黒海の封鎖など物流面でも制約を受けた。戦乱で、かろうじて操業している工場も送電料金の急騰などのコスト上昇に見舞われ、生産・輸出ともに大幅な減少を免れなかった。
■イタリア企業への出資検討も、本音は「ウクライナで事業続けたい」
侵攻が長引くにつれ、ウクライナ企業は海外での生存の道を模索し始めている。ロイター通信は1月末、 「メトインヴェストがイタリアの国営製鉄所であるAcciaierie di Italia Holding(ADI、旧イルヴァ)への投資を検討している」と伝えていた。ADIはエネルギー価格の上昇と圧延鋼コイル価格の下落で手持ちの現金が底をつき、取引先との間で巨額の負債を抱えた。メトインヴェストが狙うのはADIがイタリア南部のターラントに所有する大型製鉄所。ADIにはイタリア政府とアルセロール・ミッタルが出資している。
もっとも、メトインヴェストとしてもウクライナで事業を継続できればそれに越したことはない。同社はすでに失ったアウディーイウカとアゾフスタリのほかに、ポクロフスクに炭鉱を、ザポリージャに製鉄所をそれぞれ所有する。リジェンコフCEOはポクロフスクとザポリージャに攻撃を受けた場合の準備をしているのかとのロイター通信の問いに、「そうならないように、できる限りのことをするのです」と答えたという。
兵器向けなどの合金需要が強いロシアは国内金属企業の国有化など金属資源の囲い込み方針を強める。鉄鋼が主力産業の1つだったウクライナは、侵攻により産業事態の喪失にも直面している。
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(IR Universe Kure)
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