中国鉄鋼デフレ輸出、先進国以外からも反発 ブラジル関税上げ、インド企業からも不満
鉄鋼を中心とした中国の「デフレ輸出」への不満が世界的に広がりつつある。米ブルームバーグ通信は6月5日、「中国は先進国以外とも貿易戦争を引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らした。4月にブラジルが中国産鉄鋼の反ダンピング(不当廉売)課税に踏み切ったのをはじめ、ベトナムやインドの企業からも不満が噴出し始めているという。
■中国製品への輸入制限措置、23年に記録的な多さ
ブルームバーグによると、2023年の中国製品に対する反補助金・反ダンピング措置の件数は記録的な多さだった。欧米による電気自動車(EV)関連などだけではなく、インドや韓国などさまざまな国で措置があり、対象となる製造品も鉄鋼製品やホイールローダー、風力発電機など多岐にわたった。
特に深刻なのが鉄鋼だ。ブルームバーグの集計では中国の鉄鋼輸出は3月に過去最高の1300万トンを記録。4月も同程度の高水準が続いた。中国国内の供給過剰に伴い、中国国内の高炉銑鉄価格は過去3年間に渡り下落。輸出価格の値下がりにつながっている。
過去5年間の中国の高炉銑鉄価格の推移(L8-10)(RMB/Mt)
■米州での関税上げで廉価鉄鋼はますますアジアへ
こうした安い中国産鉄鋼が自国内に輸入してくるのに悲鳴を上げたのはまず中南米の国だ。ブラジルの対外貿易会議所(CAMEX)は4月23日、11の鉄鋼製品の輸入を対象に、最大25%まで輸入関税を引き上げると発表した。それまでの輸入関税は10.8%~12.6%で、発表から30日以内に発効するとした。同国は中国産鉄鋼の輸入急増で、国内の鉄鋼メーカーから苦情が出ていた。
インドの鉄鋼大手タタ・スチールをはじめ、ベトナム企業などからも廉価な金属の洪水に対する不満が出ているという。6月3日の日本経済新聞朝刊は、兵庫県姫路市に本社を置く大和産業社長のインタビューとして「中国のデフレ輸出は頭が痛い」との話を掲載した。
米国が5月半ばにEVなどの輸入関税を引き上げたのは記憶に新しい。さらにブラジルの措置も相まって、中国産鉄鋼の行く先は今後、南北米州を避けてアジアに流れ込む傾向が強まる可能性がある。デフレ輸出のおおもとは中国の不動産不況に端を発する中国国内鉄鋼の余剰だが、中国の不動産市況には改善の兆しが見られず、中国の鉄鋼企業も生産を緩める気配はない。余剰品の輸出は続き、日本を含むアジアが巻き込まれるリスクは一段と強まっている。
(IR Universe Kure)
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