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元鉄鋼マンのつぶやき#1 安全教育は生成AIで

 いささか旧聞ですが、日鉄の大分で取鍋(溶鋼鍋)に作業員が転落するという痛ましい重大災害が発生しました。取鍋に転落して死亡するという災害は過去にもあり、40年ほど前に川鉄(当時)の倉敷でも発生しています。今年に入って、東京製鐵、JFE条鋼姫路、日鉄ステンレスなど5件の設備トラブルが発生しました。元鉄鋼マンとして心配しております。

 

 製鉄所の管理職や安全担当者は、事故のたびに対策を講じ、安全教育を徹底し、しかしそれでも災害を根絶できない虚しさというか無力感を感じているはずです。そしてこれは製鉄所だけでなく、多くの重厚長大産業の工場に共通することです。

 

 重大災害が一向に減らない事には複数の理由がありますが、筆者は特に安全教育・指導の劣化というか、指導者の不足に着目します。

 今、現場でベテランとして指導的立場にある人は、おおむね1990年代以降に入社した人々です。1980年代、つまり彼らが入社する少し前に製鉄各社は大幅な自動化と人員削減を行いました。

 それまでは工場の現場には潤沢に人材があり、鬼軍曹のように目を光らせ、安全面でも若手を厳しく指導する人がいました。筆者も叱られた経験があります。しかし、大リストラの後、鬼軍曹がいなくなってから入社した人々は、濃密な指導を受ける機会がありませんでした。そもそも「厳しい指導」が現代では社会的に許されません。

 

 悲しいかな、人間は自分が教育された範囲、あるいは経験した範囲内でしか他人を指導できません。うかうかすると安全教育は劣化する一方です。筆者は、某製鉄会社を退職した後、別の製鉄所の入門教育を受けた経験があります。しかしその入門教育とは短時間の座学だけで、しかも常識的な知識を説明するだけでした。安全教育を実施したというアリバイ作りと言われても反論できません。

 では、安全管理、安全教育指導をどう改善するか? 筆者は近年急速に発達しつつある生成AIを活用すべきだと考えます。

 実は製鉄会社は、1980年代、AIの黎明期からその活用を考えていました。経営者は人員合理化の過程で技術・技能の伝承がなされないことを危惧し、AIの活用で技能の伝承を補完しようとしました。

 手始めに、複雑系で「いわく説明しがたい勘所」がある高炉の操業技術へのAI適用を試みました。古参の優秀な現場作業者を語り部にして、彼らの経験に基づいた知識を聞き取り、それをLISPやProlog等の論理プログラミング言語に入力して、 操業に活用しようというものです。数万ステップのプログラムを組んで、実際の高炉操業に応用しました。

 

 次に、熟練のスタッフが行っていた工程管理のスケジューリングの自動化も試みられました。論理プログラミング言語の適用は一定の成果をあげましたが、限界がありました。その当時のAIは、あくまで人間の思考ロジックの模倣であり、人間を超えることはできなかったのです。

 安全管理について言えば、語り部となる人間が、安全について豊富で深い知識と経験を持たなければ、安全教育と安全管理をAIにゆだねることはできません。

 しかし、最新の生成AIはそうではありません。Deep learningが登場する以前の従来型のAIとは違い、生成AIは、人間の思考を超えた結論を提示します。決して、人間が書いたかのような自然な文章を書いたり、画像を加工するだけのソフトではありません。

 

 工場の現場で求められる思考手続きとして「危険予知」という概念があります。今から行う作業の内容や、作業環境から潜在する危険を推理し発見するものですが、従来型のAIでは人間の思考を超えることは不可能でした。しかし、ChatGPTやcoPilotであれば、人間が思いもよらぬ危険を発見することが可能でしょう。鍋に人が転落することなど、誰も思いつかないかも知れませんが、生成AIならその可能性を指摘し、その対策も提案可能でしょう。無論、現時点では、未熟な生成AIが荒唐無稽な提案をするかもしれませんが、そこは人間がチェックすればいいのです。

 

 新人教育に生成AIを活用し、かつ全作業者が、各々作業前に生成AIで危険予知をすることで、安全教育の質の改善と人員削減が可能になります。ピンとこない人には以下の例を挙げます。

 今、高炉メーカーは、コークスを用いた高炉法の代替となる水素還元製鉄法を開発中です。しかし、水素を用いた場合に予想される危険を的確に列挙できる人がいるでしょうか? 多くの技術者はコークスを用いたプロセスには精通していても、水素還元法の製鉄プロセスについては知りません。製鉄所での実用化の段階で、どのような危険が予想されるのか? 生成AIに尋ねる価値はあります。

 安全だけではありません。経営判断に悩む経営者にも的確なアドバイスを与えるかもしれません。

 例えば、「今。2兆円でUSスチールを買収しようとした場合、どのような困難や問題が考えられるか?」と訊いてみるのもいいでしょう。

 おそらく生成AIは、

「今年は米国の大統領選の年であり、有権者に迎合するために、共和党の候補者も民主党の候補者も、日鉄による買収に反対するでしょう。大きな障害です。もしトランプが当選すれば、ドル高円安は是正され、USスチールの買収価格は安くなるでしょう。来年の買収をお勧めします」と答えるでしょう。 生成AIをどう活用するかが、企業にとって重要な意味を持つ時代が到来しています。 

 

 

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久世寿(Que sais-je)

茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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