インドネシア、ニッケル銑鉄の生産停止を検討か 電気炉の許可満了で、高付加価値品へ移行
インドネシア政府がニッケル銑鉄とフェロニッケルの生産停止を検討している模様だ。鉱物当局高官の6月11日の発言として、ロイター通信などの外電が同日伝えた。電気炉の許可期限満了後に継続しない可能性があり、バッテリー材料などより付加価値の高いニッケル加工品に注力したい考えという。
■MHPなどの生産に注力
報道によると、許可期限の満了が迫っているのはニッケル銑鉄の生産に使用されるロータリーキルン電気炉(RKEF)。インドネシア政府はこの電気炉の使用について、終了を含めた総括的な評価を行っているところだという。インドネシアは既に2022年からRKEFへの新規投資は取り止めており、許可を継続しなければ満期終了ということになる。
ロイターは、同国のエネルギー鉱物資源省の高官であるイルワンディ・アリフ氏が、「政府はMHP(ニッケル・コバルト混合水酸化物)生産用の高圧酸浸出(HPAL)製錬所と、ニッケルマットを生産する製錬所の開発に注力している」と述べたと伝えた。
■目指せEV生産、そして工業国へ
インドネシアは世界最大の埋蔵量を誇るニッケルを武器にしつつ、単純な資源輸出国から、より付加価値の高い製品を生産する工業国への転換を目指す。2020年にはニッケル鉱石の輸出を禁止。鉱石は6月7日に年間生産割当を2億4000万トンにするとの3年計画を明かすなど、国内生産も統制する。
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一方で加工企業の外資誘致も進め、同国では青山集団や中偉新材料といった中国企業が事業展開する。精錬・加工されたニッケルの多くは中国向けに輸出されてきた。
インドネシアのニッケル輸出の推移
(出所:JOGMEC)
ただ、インドネシアは加工品輸出に満足しているわけでもない。目指すのは電気自動車(EV)向けバッテリー、そして完成車の生産までを手掛ける「垂直型のニッケル・サプライチェーン(供給網)」の構築と言われる。米ブルームバーグ通信は2月、インドネシアの選挙に絡み「インドネシアは少なくとも精錬されたニッケル産業を持ちたいと思っているでしょう。そうすれば、世界の舞台でより価値が高まるためです」との調査会社アナリストの話を伝えていた。
当時のジョコ大統領らインドネシアの高官は2023年、国際会議などで「ニッケルOPEC」や「ニッケル指数」など世界でのニッケルの付加価値を高めるためのアイディアを盛んにアピールしてもきた。そのかいあってか、2024年5月には、初の同国産精錬ニッケルブランドを論同金融取引所(LME)に上場させるのに成功した。
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ロイターによれば、新たな探査がないとすれば、インドネシアのニッケル埋蔵は2029年にも枯渇し始めるという。資源には限りがある。資源争奪で優位に立てそうな資源国だが、立場の脆さもよく理解していよう。「強みがあるうちにアップグレードを」という焦りも背景に、着々と産業転換を進めていると言えそうだ。
(IR Universe Kure)
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