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元鉄鋼マンのつぶやき#18 電解箔をどうする その2

 新規事業を始める場合、土地勘のある世界で始めるのが無難です。特に資金力が無い場合、既存の設備、既存の技術の延長上で行うのが得策です。

 

 銅箔の場合、その厚みによって、製造方法に一種の棲み分けができています。最も厚い箔は圧延銅箔、それより薄い銅箔は電解銅箔、もっと薄い銅箔は薄膜と呼ぶ領域で、スパッタリングや真空蒸着、化学的気相体積法などの製造方法があります。

 

 コスト的には製品が薄くなる程、高価で能率の悪い製造法となる訳で、もし電解法で薄膜の領域の銅箔が製造できれば、魅力的です。N電解が真剣に取り組めば、今の下限である6μよりも薄い製品を電解法で製造することも可能になるでしょう。しかしこれには問題があります。銅箔の業界のプレーヤーはN電解だけではありません。三井金属も有力なプレーヤーで、市場では両社がぶつかる可能性もあります。三井グループがN電解の経営に影響を与えるか・・というと、微妙な問題ですが、銅箔というニッチな世界にも縄張りがあり、仁義なき戦いは御法度‥かも知れません。

 

 では銅箔を諦めてどうするか?

 

 筆者は、本コラムで取り上げたバナジウムに着目します。バナジウムは多様な酸化形態をとる金属で、酸化形態の変化を利用して多くの使い方があります。レドックスフロー電池もその一つですし、VO2の状態であれば水素の吸蔵・透過に使えます。

 

 しかしここで提言したいのは酸化物ではなくバナジウムの合金です。バナジウム合金の箔を水素分離膜に使用する方法です。すでに一部で報道されていますが、大分高専の松本教授らのグループと同校からスピンアウトしたベンチャー企業であるハイドロネットは画期的な水素分離膜を開発しました。

 

 この技術は、突然出現したものではありません。物質・材料研究機構の西村睦氏らが進めるJST-CREST事業が研究していたもので、物質・材料研究機構や大分高専だけでなく、名古屋大学、太陽鉱工などが、協力して開発したものです。

 

 原理的には簡単です。バナジウム合金への水素原子の親和性、透過性を利用し、水素以外のガスも混じる気体から、水素だけを選択的に取り出すというものです。混合ガス側の圧力を高めに設定すれば、分離膜を挟んだ反対側にはほぼ純粋(99.97%)な水素ガスが出現するというものです。

 

 混合物から自然に単体が生じるなんて、何だかエントロピーが縮小するみたいで、熱力学第三法則に反するようですが、実はこの種の分離膜には成功例があります。O2富化膜がその例で、その膜を通すことで、大気中の酸素18%程度を濃くして燃焼効率や燃焼温度を上げることが可能です。

 

 水素の場合、原理は異なりますが、バナジウム合金の膜を通すだけで純粋な水素を取り出せます。その効果は莫大です。例えば製鉄所のコークスガス(Cガス)は複数の可燃ガスの混合ガスですが、それぞれを分離することができず、やむなく燃料として燃やすしかありません。鹿島共同火力発電では、そのCガスを焚いて火力発電を行っています。もし、Cガス中に約50%含まれる水素だけを取り出すことができれば、価値ははるかに高くなります。例えば燃料電池の燃料に使えます。

(燃料電池の種類によりますが、純粋な水素を用いる燃料電池が主です)。

 

 ちなみに、水素製鉄に使える・・というアイデアはナンセンスです。製鉄所のコークス炉は石炭を用いる高炉法を前提に操業するので、水素製鉄ではコークス炉自体が存在しません。

 

 燃料電池以外でも純粋な水素の需要は増すばかりです。効率的に水素を分離・純化できるバナジウム合金の分離膜は、大発明となるはずです・・・が、大きな問題があります。

 

 それは非常に分離能力が低く、長時間かけても採取できる水素量が少なく現時点では実用になりにくいことです。それなら圧力を高くして、透過する速度を上げればいいではないか?と思いますが、そうするとバナジウム合金の分離膜が破れてしまうとのこと。ちょうど、水中で速度を上げると金魚すくいの紙が破れてしまうのと同じように、バナジウム合金の膜が破れるのだそうです。なるべく破れないように張力を工夫するなどの対応がされていますが、まだ不十分です。

 

 公表された資料には、バナジウム合金の分離膜の厚さについての記述がありません。おそらくは、分離効率と膜の耐久性とのバランスで膜厚が決まるのでしょうが、同社のノウハウなのでしょう。

 

 もし、そこにN電解が協力すれば、より強靭なバナジウム合金の膜が製造できるかも知れません。より強靭になれば、膜厚を薄くしたり、圧力を高くすることも可能です。改めて最適な膜厚を探し、装置の高性能化、そして実用化が見えてきます。

 

 N電解の経営者に申し上げる。銀行団も含めステークホルダーの諸氏は、このままN電解がジリ貧になることを望んではいません。もう一度、ブルーオーシャンに漕ぎ出すのなら、バナジウムの可能性を考えてみてはどうでしょうか? えっ?ハイドロネクスト社は、まだ売り上げが立っていない、ベンチャーだから信用できないって?信用が無いのはお互い様。信用とお金が無くても、埋もれている技術に光を当てて信用を築いていくのが経営ってもんじゃないですか? かつて筆者が勤務した製鉄会社では、それができなかったけれど。

 

 

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久世寿(Que sais-je)

茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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