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「電気運搬船」建造に向けて事業本格化、蓄電池製造のパワーエックス

パワーエックスが生産を始めた水冷式電池モジュール

 

 

 

 蓄電池の製造、販売を手掛けるスタートアップ、パワーエックス(東京都港区)は、洋上風力発電所などと連携して電気を船舶で運ぶ「電気運搬船」事業を本格化させた。岡山県玉野市にある同社単独では唯一の蓄電池製造工場で7月、電気運搬船への搭載を見据えた新たな「水冷式電池モジュール」の生産に入った。生産ラインの試験的な稼働を始め、来年7月以降に本格稼働に移行し、商業出荷を始める。コスト低減が進めば、船舶用だけでなく、系統や再生可能エネルギー発電所とつなげる定置用蓄電システムなどへも活用を広げることを検討し、高まる蓄電池ニーズに対する供給体制を整える。

 

 

 

 同社は2021年3月に設立され、造船会社のほか、大手商社や海運、エネルギー企業などから出資を受け、累計の資金調達額は230億円を超えている。

 

 試験稼働を始めた生産ラインがあるのは岡山工場で、その名も「PowerBase」(パワーベース)。瀬戸内海に面した敷地約2万8000平方メートルに、23年8月に工場(6300平方メートル)を完成させた。重量のある同社製のコンテナ型蓄電池を効率よく輸送するためなどの理由で選ばれた地だ。

 

 石膏ボードの生産施設をパワーエックスが買い取って改装。屋根上には、太陽光パネルが敷き詰められている。パワーエックス社長室の大津虎太郎氏は「春や秋の晴天時は、工場内の電力をほぼ自家消費で賄うことができる」と話す。

 

 すでに、パワーベースでは床面積の半分を使い、蓄電池型急速EV充電器の組み立て製造を始めている。また、近くの同市内にある三井E&Sグループ系の提携工場では23年から、コンテナ型の大型定置用蓄電池の量産を始めている。こちらは空冷式モジュールだ。

 

 今回の試験稼働を始めた製造ラインは、工場内で長さ45メートル、幅7メートルにわたって整備。ロボットやローカル5Gなどの高度なファクトリーオートメーションを導入し、製造コストを抑えている。試験的な製品をつくっては、完成具合を検証しながら、ラインを再調整するといった作業を繰り返して進めているという。

 

 現在は1本のラインを設置済みだが、需要が高まれば将来的には2ラインまで拡張することも想定する。1ライン時の最大製造能力は年間3・9GWh。2ライン時では7・8GWhにまで増強できる。いずれも国内では有数の生産能力だという。

 

 水冷式電池モジュールは、容量17・9kWh。サイズは縦85センチ、横45センチ、厚さ25センチ。このモジュールを1日600個程度生産できる能力を備えている。

 

 電気運搬船に搭載させるため、技術的に重視している一つが高熱への対応だ。今回採用したリン酸鉄系の電池セルは、熱安定性が高く、日光に照らされる船上でも安全に導入できるほか、繰り返しの充放電にも耐久性が高い。また、船上では蓄電池が密に配置され、万が一に引火した場合に燃え広がないことなども重要だ。そうした面に十分に配慮した理由から採用されたのが、液体を循環させて冷やす水冷方式だったという。

 

 

蓄電した運搬船で、海を送電線のように利用

 

 

 パワーエックスは、「海を送電線として利用する、全く新しい電力の輸送方法」と位置づけて、独自に電気運搬船を建造することを掲げてきた。電気運搬船を活用した海上送電事業を推進させるため、今年2月に完全子会社として「海上パワーグリッド」(東京都港区)を設立。第一号の電気運搬船は、コンテナ型の大型蓄電池約100台を搭載して、蓄電容量240MWhに達する計画だ。このためには、モジュールが1万4000個必要になるという。

 

 電気運搬船の「一番大きな目的」(同社社長室)は、海に囲まれた日本で、ポテンシャルが高く、再エネ拡大への「切り札」とされる洋上風力発電所との連携だ。電気を通す海底ケーブルの敷設実績があるのは水深300メートル程度。だが、日本近海は水深が深いエリアが多く、海底ケーブルの敷設が困難ケースもある。そうした海域に建設された浮体式の発電所などと組み合わせることで、蓄電した船舶を往来させるなどして電力を陸上にまで運ぶ役割を担うことができる。

 

 また、電気の余る地域から足りない地域へと往来することで電力の過不足を調整できる機能も持てる。コンテナに蓄電した電力で船舶自体も推進させる仕組みであるため、効率面から、片道約150キロメートル以下での航行を想定し、波の強い海域などに投入する予定だ。「系統を補完する事業で、運搬船の実績をつくる」(同社社長室)狙いもある。

 

 さらに、同社が目指すのが、「船が動いていなくてもマネタイズできる運用」(大津氏)だ。港湾に停泊中の電気運搬船を陸上系統に接続して、需給調整の蓄電所として活用もできるという。大津氏は「日本全国で見ても、かなり大規模な蓄電所が海に浮いているイメージだ」と話す。

 

 1号船を26年後半に完成させ、27年ごろから商業運用させるスケジュールで進めている。1号船はデモンストレーターとして運用。その後、さらに大規模な電気運搬船を建造することも視野にある。

 

 

(IRuniverse Kogure)

 

 

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