24Mテクノロジー:革新的な半固体LiBでエネルギーの未来を動かす
幕張メッセで開催されたスマートエネルギーウイーク(2024/10/2~10/4)で、電池関連として「電池産業の展望と次世代電池開発の最前線」という演題で講演が行われた。
前段は経済産業省の電池政策に関する話、その後、24Mの太田直樹社長から「電気自動車用半固体型リチウムイオン電池の商品化」の講演が行われた。
まず太田氏の経歴であるが、1990年 大阪府立大学 応用化学科卒業。長瀬産業にてリチウムイオン電池に関する新規事業開発グループを立ち上げた後の1999年に渡米。まもなく米国初の医療および航空宇宙産業向けリチウムイオン製造会社であるQuallion社の共同設立者として頭角をあらわす。2005年から2012年の間に、EnerDel社のCTO兼COOとして、HEV、PHEV、EV、グリッドストレージ製品ラインを率い、1GWhの生産能力を開発。Ener1社の最高執行責任者/最高技術責任者とEnerDel社の社長を兼任し、NASDAQへの上場を果たす。なおアルゴンヌ研究所との共同研究で2008年にR&D100を受賞するという異色の経歴を持つエンジニア。24M Technologiesにおいては、2012年から社長兼CEOを務め、半固体リチウムイオン電池の技術開発を推進している。その他、24M主要メンバーとしてイエット・ミン・チャン (共同創業者兼主任科学者でエネルギー貯蔵技術の分野で著名な研究者でもあり、リチウムイオン電池の発展に大きく寄与)、スループ・ワイルダー (共同創業者兼エグゼクティブ会長で、通信分野での起業経験があり、Crossbeam SystemsやAmerican Internetの共同創業者でもある)、パンフー・タン (ビジネス開発担当副社長でリチウムイオン電池業界ではサムスンSDIなどで活躍)などを擁する。
24Mは2010年に設立、米国マサチューセッツ州に本社を置き、半固体電池開発プラットフォームをライセンス供与するベンチャー。現在180人程度の企業規模だが、DOE(United States Department of Energy=米国エネルギー省)から開発援助資金も受けている。
24Mが製造する2次電池は、電池の電解質に電解液を使った「従来の電池」、固体の電解質を使用する「全固体電池」に対して、電解質として固体材料と液体材料が共存している構成の電池「半固体電池」である。半固体電池の特徴は「通常のLib電極と変わらない形状」になっているが、大きな違いはバインダー(電極材料の結着を担う)を含まない点。24M Technologiesの半固体電極は、MIT の Yet-Ming Chiang 博士の研究室で発明された電極。従来のリチウムイオン電池セルには、セルのケース内で層状に重ねられた金属やプラスチックなどの非電荷輸送性の不活性材料が大量に含まれ、これらの非活性材料は高価で無駄も多い。これに対し24M半固体電極は結合剤を使用せず、電解質と活性物質を混合して粘土のようなスラリーを形成している。半固体厚電極の発明により、24M はこれらの非活性材料を 80% 以上排除し、従来の Li-ion に比べて活性層の厚さを最大 5 倍に増やした。厚い電極の使用でセルはより多くのエネルギーを蓄えることができ、バッテリー性能とコスト低減が可能に。また独自スラリーにより、体積、質量、コストを抑えながら厚い電極を製造できると同時に、製造プロセスを簡素化できる。
具体的には電極材料と電解液を直接混合し、そのまま塗工して電極として利用するため、従来プロセスで必要であった電極の乾燥工程や電解液の注入工程などが不要になるうえ、電極内の結着剤(バインダー)をなくせる特徴がある。また、電極材料が粘土状であり、厚塗りができ、セルを構成する電極数を少なくすることが可能。その結果、アルミ箔などの集電箔やセパレータの使用量が減り、セパレータでは80%削減が可能。またバインダーを含まず、リサイクルプロセスの簡易化や環境負荷の低減につながるため、再使用・リサイクルも容易になる。もうひとつの特徴が「電解液を最初に混合する」こと。これにより、大型電池を製造しやすくなる。また従来のLib製造プロセスを圧縮できるため、人件費、光熱費などを削減できる。さらに工場のサイズもコンパクト化でき設備投資も抑制でき、低コスト化が実現すると説明した。
24Mは設立されてから14年経過したことになるが、様々な実用研究を進め、伊藤忠や京セラ、富士フィルムなどの日本企業、WV、ノルウェーの新興電池会社であるFREYRBATTERY社(住友メタレックスが出資、日本電産が合弁会社設立)、タイ石油公団(PTT)の主力電力会社(GPCF)、同傘下のEV電池メーカー(Nuovo+)など、多くのパートナー製造会社、と契約を結んでいる。
同社は度重なる資金調達を実行、現在、累計の資金調達総額は5億ドルを超え、同社の評価額は13億ドルにも達している。今後、開発レベルからいよいよ量産レベルへステージが進み、今後、半固体電池で大きく飛躍する可能性を秘めた会社となっている。
太田社長は、1000 マイル走行可能な EV バッテリーを安全かつ安価に作成でき、家庭のあらゆるニーズに電力を供給でき、数日分の家庭用バッテリーを作成でき、さらに封筒を開けるだけでバッテリーをリサイクルできることを可能にする24M プラットフォームは、すべての人にとってより優れたエネルギーの未来を動かすと話を括った。
講演内容は上記のような内容であるが、以下、同社の発展の経緯を改めて設立の2010年以降の時系列で推移を見ていく。
2015年10月にNECの電力会社・企業向けの蓄電システムを提供するエネルギー関連子会社であるNEC Energy SolutionsとNEC Energy Solutions の統合ストレージ システムで使用するために半固体リチウムイオン セルを供給することに同意(蓄電システム市場は拡大も市場競争が激化しNECは同分野から撤退、2021年9月にNEC EnergySolutionsの全株式をLG Energy Solution, Ltd.に譲渡)、初期量の生産用バッテリーセルを納入している。
2016年2月には、IHSによってエネルギー イノベーション パイオニアに選ばれ、同年、ブルームバーグニューエナジーファイナンスのニューエナジーパイオニア賞も獲得した。またGMと画期的なセル設計と製造プロセスを活用して低コストの自動車用リチウムイオン電池を実現し、大量生産の可能性を実証する契約も結んだ。さらに米国エネルギー省エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)からは同社、Sepion Technologies、バークレー研究所、カーネギーメロン大学を含むチームが行う次世代の高エネルギー密度、低コストのバッテリー用の新しい膜とリチウム金属アノード開発のための資金交付を受領した。当初は固体電解質を計画していたが、半固体電極の機能を、リチウム金属アノードを使用する超高エネルギー密度セルにまで拡張することとなった。
2018年には追加の資金調達2180万ドルを実施、日本の京セラ、伊藤忠商事が主たる出資者となった。
2019年には商業的に実現可能な250 ワット時/キログラム (Wh/kg) を超えるエネルギー密度を達成、高エネルギー密度のリチウムイオンセルを開発、米国エネルギー省先進電池コンソーシアムLLCに納入した。さらに同年、組成が異なる電解質 (陽極液と陰極液) を使用したセルを大規模に製造、エネルギー密度 (+350Wh/kg) を提供する次世代の化学物質の開発も実現した。
2021年には半固体製造プロセスの商品化、グリッドストレージおよびEVアプリケーション向けの技術開発プログラムを拡大すべく、伊藤忠商事中心に、新規に富士フィルムなども加え5,680 万ドルを調達した。
2022年にはドイツVWと 次世代リチウムイオンバッテリーを製造する契約を結び、資本出資も実行された。同年、富士フィルムとは富士フィルムが80年以上かけて培ってきた精密コーティング技術や生産技術を組み合わせることで、エネルギー密度の高い大面積半固体電池の量産に向けた中核技術を確立することで合意、新たな追加出資となった。
2023年には24M ETOP™を発表、電極がバッテリーパックに直接パッケージ化され個別のセルやモジュールが不要なため、70% を超える電極 (セルではない) のパッキング効率を達成し、体積利用効率としては最高値を獲得した。
2024年には電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵システム(ESS)、および消費者向けアプリケーションのバッテリー安全性を再定義する画期的な新しいバッテリーセパレーター、24M Impervio™を発表。このセパレータは金属デンドライト、電極のずれ、リチウムデンドライトによって引き起こされる爆発、火災や大規模なリコールの防止に役立つ技術となっている。具体的にデンドライトの成長を阻害する独自のセパレータ技術を発生源から採用、セルを継続的に監視し、ショート発生前に潜在的なショートを検出し、個々のバッテリーセルを安全に放電してシャットダウンする。さらに同年2月にはリチウム金属バッテリー専用に開発された革新的な新しい電解質である「Eternalyte™」を発表、独自の液体電解質配合により、EV、エネルギー貯蔵、消費者向けアプリケーションにおけるリチウム金属バッテリーのサイクル寿命とレート機能が大幅に向上できるとした。これまで安全性では全固体電池(SSE)が優れているといわれてきたが、拡張性、コスト、脆弱性、および急速充電におけるサイクルによる電気抵抗の変化に関する課題に答えが出ていない状況がある。この点で高サイクル寿命のリチウム金属バッテリーを実現したことで、500 回以上のセルサイクル、1回の充電で1000マイル(1600km)走行可能で、約 50万マイル以上の総走行距離を実現しても83%の容量を維持できるとしている。
さらに同社は3月に電池リサイクルでも画期的な特設材料リサイクル「Liforever」を発表した。従来のセル生産ではバインダーを使用しているため、直接リサイクルは非現実的。従来のLibは、高価で有毒な乾式冶金および湿式冶金リサイクルプロセスを利用する。物理的に破砕・選別して黒色の砂状物質であるブラックマス(以下、BM)と呼ばれる中間材を生成する工程。ここでは当然、アノードとカソードの材料構造が損傷、この損傷とプロセスの高コストから、LFP などの安価な材料は通常リサイクルされない。結果として高価な金属 (ニッケル、マンガン、コバルト) のみが、卑金属の形で黒色の廃棄物から抽出され、活性材料製造プロセスに再導入される。ところが「Liforever™ 」は、従来のセルリサイクルで使用されている高価で非効率かつ環境負荷のかかるプロセスを必要とせず、アノード (グラファイト) とカソード (NMC、LFP、NCA など) のすべての活性物質を元の形のまま維持しBMを生成しない。これは業界で他にはできないことで、バッテリーセルのほぼすべての部品の再利用が可能で、多くの課題を解決できるとしている。 従来のセル生産で使用される手順の半分を排除でき、コスト半減が可能としている。そして2024年9月には24Mの戦略的パートナーでありライセンシーでもある Nuovo+ が主導した8700万ドルの資金調達でタイのラヨーン市に新たなR&Dおよびパイロット製造工場を買収して開設するなど、24M製品の商業化と量産化を加速させる方向にある。なおこの増資で日系企業として従来の京セラの追加に加え、旭化成、大日本印刷、商船三井などが資金投入している。
ところで、24Mの実際の半固体電池の代表格となる京セラの住宅用蓄電システム“Enerezza”を紹介する。京セラは24Mからクレイ型電極の量産化に対する共同開発の打診があり、2013年に量産に対応したクレイ型LiBのレシピと量産技術の共同開発を進めた。従来のLibと異なる構造で、電極に独自開発の電解液を練り込んで粘土状にする技術を確立、世界初のクレイ型LIbの開発に成功した。可燃性である液状の電解液では電池が変形すると液漏れを起こし燃えやすい題に対し、電解液を練りこんだ電極とすることで安全性を高め、同時に従来型の約1.5倍の長寿命を実現した。電極にはリン酸鉄リチウムを使い、セパレータと外装フィルムで正極と負極を完全に分離するユニットセル構造を採用。粘土状にすることで、万が一大きく変形しても内部ショートが起きにくい安全設計を可能としている。バインダーレスの電極材料で、高性能で幅広い動作温度に対応でき、従来型の約1.5倍の長寿命を実現できている。クレイ型厚塗り電極の実現については高度な量産化技術が要求されるが、京セラの高精度な材料、成形など、ファインセラミックス製造技術を活かし、量産化に成功している。実際の“Enerezza”の設置状況では、2020年6月に設置を始め、2023年3月末で全国15000台(5kWh蓄電ユニット)設置され、稼働している。
なお伊藤忠商事は、2018年12月に24M Technologies, Incの第三者割当増資を引き受け、次世代リチウムイオン電池のグローバル製造・開発事業を共同推進することになった。この時点では米国に実証用パイロットプラントが稼働していた状況で、2020年の稼働を目標に量産工場を建設予定していた。伊藤忠商事は、日本国内を中心に蓄電池ビジネスを展開、2018年10月時点で累計約10,000台(95MWh/30MW相当)の蓄電システムを販売、国内のみならず海外でも蓄電池ビジネスの展開を進めていく予定で、24M社への出資を通じて、蓄電システムの基幹部品であるリチウムイオン電池の安定調達体制を構築していく方針を打ち出した。さらに2021年5月にリード投資家として他の投資家(スパークス・グループ株式会社が運営する「未来創生2号ファンド」等)も含めた出資ラウンドを取りまとめ、第三者割当増資を引き受け、4M社を持分法適用会社とした。
24M技術で2020年に京セラ株式会社が商業生産を開始、タイのGlobal Power Synergy PCL(GPSC)は、2021年中の商業生産稼働に向けて量産工場を建設していた。また、2020年12月ノルウェーのFREYR ASとライセンス契約を締結するなど、量産に向け大口の資金提供者を必要としていた24Mと、ウインウインの関係を築くこととなった。さらに2022年10月にはノルウェーのリチウムイオン電池製造企業であるFREYR Batteryとリチウムイオン電池用途の材料に関する包括供給基本契約を締結した。24M のライセンス先であるFREYR社は、ノルウェーの水力発電によるクリーンなエネルギーを使用した環境負荷の小さい電池製造を実現することを目指し、2025年より年間50GWh規模の半固体リチウムイオン電池の量産を計画、2030 年までにはフィンランドと米国で工場を新設し、合計で年間累計200GWh以上の電池を生産する計画。伊藤忠は業務提携を通FREYR社が使用する主要材料の安定調達体制を構築するとともに、将来的にFREYR社との協業による電池材料の製造販売、電池製品の販売における事業提携、廃電池から回収したリサイクルメタルのサプライチェーンへの還元、トレーサビリティシステムの構築等の分野でも協業することを目指し、ここでもウインウインの関係を構築することができたとみられる。
(H.Mirai)
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