中国産黒鉛電極AD課税(仮決定)の実質的な影響と副作用は?

既報しているが、先月末に経産省及び財務省は令和6年4月24日より、中華人民共和国産黒鉛電極に対する不当廉売関税の課税に関し、不当廉売関税の課税の可否に関する調査を実施してきたが、調査の結果、不当廉売された貨物の輸入の事実及び当該輸入の本邦の産業に与える実質的な損害等の事実を推定するに至ったことから、2月28日付けで仮の決定を行なった。今後は、仮の決定に対する利害関係者からの証拠の提出、意見の表明の機会を設けるとともに、WTO協定に定められた国際ルール及び関係国内法令に基づいて引き続き調査を行うことになる。
→ https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250228001/20250228001-2.pdf
関連記事:黒鉛電極:財務省が中国産黒鉛電極に対する不当廉売関税の課税に関する調査結果を公表。
中国産黒鉛のAD課税は昨年から話題ではあり、電極覆面座談会でも語っていた。
ここに至った背景には米トランプ政権の強硬な対中政策が後ろ盾になっている、のではないかという議論もあった。
詳しくは以下をご参照ください。
関連記事:電極覆面座談会2024秋 中国産電極のAD関税問題とその影響などを熱く語る
実際にAD課税となった場合の日本の電極業界への影響を以下のように分析した。
日本の黒鉛電極製造への影響
国内メーカーへの保護効果 反ダンピング関税が実施されれば、中国産黒鉛電極の価格優位性が縮小し、国内メーカー(SECカーボン、東海カーボン、日本カーボンなど)が持つ技術力やブランド価値がより正当に評価される機会が生まれます。結果的に、国内市場や関連する製造工程でのシェア回復が期待されます。
価格環境の正常化と産業の健全化 不当廉売が抑制されることで、市場価格が健全な水準に戻る可能性があります。これにより、黒鉛電極を製造する日本企業は、利益率の回復や設備投資、技術開発により積極的な取り組みが行いやすくなり、長期的な産業競争力の向上につながるでしょう。
国際競争と貿易摩擦の可能性 一方で、反ダンピング措置は中国との貿易関係や国際的な競争環境に影響を与えるリスクもはらんでいます。中国側が対抗措置や報復措置を採る可能性も考えられるため、政府としてはWTOのルールに沿いつつ、関係国との外交的対応にも注意を払う必要があります。
下流産業への波及効果 黒鉛電極は、製鋼業など多くの下流産業で使用される重要部材です。製鋼工程の信頼性や効率性が安定すれば、国内全体の製造業の競争力にも好影響を及ぼす可能性があります。つまり、反ダンピング措置が成功することで、関連する産業全体の健全な市場形成につながるという側面も持ちます。
結論と今後の展望
今回の仮決定は、国内産業の存続と国際競争における公正さを守るための、大きな一歩であるといえます。経済産業省と財務省が今後の調査結果を踏まえた最終判断を下す中で、
国内メーカーの立場強化 不当廉売の是正により、国内メーカーが持続可能な経営戦略を構築し、技術革新や効率化への投資を促進する環境が整いつつあります。
国際貿易環境への示唆 一方で、反ダンピング措置は国際貿易における微妙なバランスを崩す可能性があるため、どのような対応策を講じるか、また、同時に他国との協議やルール調整がどのように進められるかも注視する必要があります。
この動きは、単なる一製品に対する措置に留まらず、国際貿易の公平性、国内産業の保護、そしてグローバルな生産・供給チェーンの再編といった、より広範なテーマと密接に関わっています。
さらに掘り下げるポイント
将来的な調査と関税率の確定 今後の最終調査結果次第では、実際にどれほどの関税が適用されるか、またその期間や具体的な適用条件についても詳細が明らかになるため、関連企業や業界関係者は最新情報の注視が必須です。
産業全体への波及効果 反ダンピング措置が黒鉛電極市場に与える影響だけでなく、その先の製鋼産業や鉄鋼関連のサプライチェーン全体で、どのような価格変動や品質向上策が模索されるかも、今後の注目点となるでしょう。
国際的な動向との比較 近年、中国製品に対する反ダンピング措置は複数の国で採られている傾向があり、これを契機に各国での産業政策の動向や国際ルールの適用状況がどのように変化するのか、長期的な視点からも観察することが有益です。
(iruniverse)
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