IRuniverse主催の「第13回 Battery Summit in TOKYO」が、3月17日から18日にかけてベルサール御成門タワーで開催された。2日目午後の「リサイクルセッション」では、韓国、ドイツ、サウジアラビア、スイス企業が登壇し、それぞれのバッテリーリサイクル戦略について発表した。前報では韓国およびドイツ企業の取り組みを紹介したので、本報ではサウジアラビア、スイス企業の戦略、およびセッション後半に行われたパネルディスカッションの様子を報告する。
4. CirCoLiの最高技術責任者Paolo Guida氏:リチウムイオン電池リサイクル・スタートアップ「CirCoLi」

リサイクルセッション四人目の登壇社者は、CirCoLiの最高技術責任者を務めるPaolo Guida氏。同社はサウジアラビアのKAUST(King Abdullah University of Science and Technology:キング・アブドゥッラー科学技術大学)を拠点とし、使用済みリチウムイオン電池から高付加価値材を回収する独自リサイクル技術の開発を進めるスタートアップ企業だ。
CirCoLの対象市場は2030年代前半に急増すると見込まれるEOL電池であり、資源供給網の再構築と多様化を実現する機会と位置付ける。
事業の中核は、ブラックマスからリチウム製品や電池グレードのニッケル・コバルト・マンガン硫酸塩を回収し、さらにpCAMおよびCAM製造へと展開する工程である。従来の湿式製錬は多段工程かつ高エネルギーで、溶媒抽出などにより設備投資が膨らむ傾向にある。一方、同社技術は不純物の溶出を最小化することで工程を簡素化し、設備および運転資金の大幅削減を実現する。これにより溶媒抽出工程を不要とし、ブラックマスからpCAMへ直接つなぐことで工程数を削減、廃棄物発生量の低減とサイクルタイム短縮を両立する。
CirCoLの技術面の特徴は、少ない薬品使用量と環境負荷の低い条件で処理を行いながら収率向上と高純度化を実現する点である。また、NMCからLFPへの材料シフトに伴う市場変化にも対応し、LFPを含む主要電池化学系すべてに適用可能な汎用性を備える。特にLFPについては既存の有効なリサイクル手法が限られており、新たな価値創出領域と位置付ける。
実証面ではKAUST内に年産10〜100トン規模のパイロット設備を設置し、プロセス検証とスケールアップを進めている。この設備は小型・モジュール型設計により設備フットプリントを大幅に抑えつつ、複数基設置による段階的な能力拡張が可能である。今後は前処理パッケージの確立、大型リアクターの設計・運転、初号商用プラントの立ち上げに加え、AIを活用した原料組成適応制御の導入を計画する。さらにグローバルパートナーシップの構築と主要地域への展開を進め、最終的にはCAMの戦略的サプライヤーとしての地位確立を目指す。
5. Sulzer近藤賢氏:高度なバッテリーリサイクルソリューション

リサイクルセッション最後の登壇者は、スイスに本社を置くSulzerのジャパンカントリーマネージャーを務める近藤賢氏。同社は創業約190年の歴史を有する老舗企業であり、ディーゼルエンジンの商業化などで知られ、現在は化学プロセス分野を中心にグローバル展開している。2024年の売上高は約35億スイスフラン(約7400億円)、従業員数は約1万3500人規模であり、日本においては中堅エンジニアリング企業に相当する位置付けとなる。
同社のバッテリーリサイクル技術の特徴はブラックマスの生成や回収そのものではなく、有価金属を抽出する工程に特化して装置設計および機器供給を担う点にある。顧客は電池メーカーやリサイクル事業者であり、同社は抽出プロセスの中核装置を提供することで付加価値を創出する。特に独自の抽出装置は従来のミキサーセトラー方式に比べて装置点数を大幅に削減でき、複数段の分離工程を一体化する構造を持つ。従来は10~20基の装置を並列配置する必要があった工程を単一ユニットで代替可能であり、設備の簡素化と制御負荷の低減を実現する。
同社はこの技術により溶剤使用量を約60%削減、設備フットプリントを約70%削減し、これが設備投資および運転コストの低減に直結しているという。また、高い分離効率と回収率を確保しながら電力消費や薬品使用量も抑制できるため、経済性と環境性を両立する技術といえる。すでに複数の導入実績があり、政府機関や研究機関との連携も進めている。
パネルディスカッション
セッション終了後、登壇者5名がステージに上がりパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションでは、バッテリーリサイクルにおけるコスト構造と将来の価値変化が主要論点となった。
これに対し登壇者は、リサイクルプロセスにおける価値の中核はブラックマスに含まれる有価金属の回収にあり、単なる機械的分離に加え、選択的な分離技術によって価値最大化が図られていると説明した。また、市場面ではブラックマス価格が中国で約10ドル/kg、韓国で約15ドル/kgといった地域差があり、コスト低減の一つの目安として10ドル/kgが意識されていることも共有された。
また、参加者から自動車メーカーとの連携では原材料確保とリサイクル体制構築が重要視されており、すでに一部OEMとの協業が進んでいると指摘された。バッテリーの化学組成や仕様の多様性がプロセス設計を複雑化させる課題も指摘され、材料の統一や分別の重要性が強調された。これに対し登壇者らは、不純物の低減や品質管理が最終製品の価値を左右する要因であり、プロセスの頑健性確保が不可欠であるとの認識が示した。全体として、コスト競争力と品質の両立、制度整備と産業連携が今後の鍵であると整理された。

弊社CEO棚町はサウジアラビアの事業環境について、中東情勢の不安定化が同国に及ぼす影響への懸念に加え、産油国であるサウジアラビアでEV需要が本当に拡大するのか、また流通する車両が国産か輸入かといった点について見解を求めた。
これに対しGuida氏は、サウジアラビアでは国家主導の産業プログラムが進行しており、鉱業会社マアデンによる資源開発や関連企業との協業が進んでいると説明した。また、EV分野では米ルシッドが公的投資機関の支援を受けて展開しており、現地での実証や取り組みが進んでいるとした。現時点でEV市場は発展途上にあるものの、資源開発から電動車、リサイクルまでを含めた産業基盤の整備が進みつつあり、中長期的な成長余地があるとの認識を示した。
さらに棚町は、市場拡大に伴うコスト構造の変化についても質問した。これに対しGuida氏は普及初期と拡大局面ではコスト構造が異なり、薬品使用量の削減などによりコスト低減の余地はある一方、品質や信頼性の確保が重要であり、単純な価格競争だけでは評価できないと述べた。全体として、サウジ市場は不確実性を抱えつつも、将来の重要拠点となる可能性が示唆された。
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(IRuniverse Midori Fushimi)