パラタングステン酸アンモニウム(APT)および超硬スクラップ市場において、地域間での相場動向に顕著な乖離(二極化)が発生している。今年3月中旬をピークに急落局面を迎えた中国・アジア市場に対し、欧州市場は依然として高値圏を堅持している。この価格乖離の背景にある需給バランスと、今後のタングステン市場における注視すべきポイントを述べたい。
1. 中国市場:急騰後の反動と在庫調整による大幅下落
中国国内のタングステンAPT相場は、3月中旬に記録した1,500,000 RMB/tonをピークに下落トレンドへと転じ、足元では970,000 RMB/tonと、最高値から約35%もの大幅な調整を余儀なくされている。これに連動し、中国産APTのFOB(本船渡し)価格も3月中旬の2,300 $/mtuから2,230 $/mtuへと下落している。
中国のタングステン主要企業へのヒアリングによれば、この急落の背景には以下の複合的な要因が存在する。
急騰に対する反動と警戒感: 投機的な資金流入によって実需を乖離して押し上げられた相場に対する、高値警戒感が市場に蔓延している。
需要家の様子見姿勢: 価格のボラティリティ増大を受け、下流の需要家が新規調達を手控え、様子見姿勢を強めている。
サプライチェーン全体の在庫調整: これまでに積み上がった在庫の消化が優先されており、新規の買い圧力が削がれている。
短期的には、中国国内の相場は引き続き弱含みで推移することが予想される。
2. 超硬スクラップ市場の連れ安と需要減退
APT相場の下落は、二次原料である超硬スクラップ市場にも波及している。中国市場における超硬スクラップ価格は、3月中旬に30,000円/kgという高値を付けた後、足元では高値でも15,000円/kgと半値水準まで暴落し、中国勢の買い意欲は著しく減退している。
この余波は日本国内市場にも及んでおり、国内相場は中国市場をさらに下回る水準で推移している。日本国内の超硬合金メーカー各社は、スクラップ在庫が過剰状態に陥っており、急速に買値を引き下げるか、あるいは調達自体を一時ストップする動きが表面化している。

(最近6か月のタングステンAPT相場(欧州市場)と日本国内の超硬スクラップ相場の推移)
3. 欧州市場:現物不足と精錬枠の逼迫による高値堅持
アジア市場における需要減退・価格下落とは対照的に、欧州市場では全く異なる光景が広がっている。欧州のAPT相場は依然として3,000 $/mtu前後という高値圏を維持しており、現時点では下落の兆しは見られない。
関係筋によれば、欧州市場における価格高止まりの主因は「慢性的な現物不足」と「精錬加工枠のボトルネック」にある。中国からの安価な供給が限定的となる中、欧州域内での精錬キャパシティの取り合いが発生しており、これが強力な価格下支え要因となっている。
4. 今後の展望:実需の検証と構造的要因の行方
現在のタングステン市場は、中国主導の下落調整と、欧州の供給ボトルネックによる高値維持が綱引きをしている状態と言える。
中国の企業担当者が指摘するように、短期的には中国市場の弱含みが予想されるものの、「タングステンの構造的な供給制約」や「特定国による輸出規制の影響」といったファンダメンタルズ上の懸念は全く解消されていない。したがって、今回の中国の急落をもって「国際価格を含めたタングステン市場全体が下落トレンドへと反転した」と結論付けるのは時期尚早である。
市場関係者の間では、「今回の急落を経て、これまでの高値が『真の需給逼迫』によるものだったのか、それとも『単なる投機的なマネーゲーム』に過ぎなかったのかが検証される局面に入った」との見方が広がっている。
結論として、 今後のタングステン相場を見通す上では、欧州における精錬ボトルネックの解消時期と、過剰在庫の消化が進んだ後の中国市場における実需回復のタイミングが最大の焦点となる。当面は、地域間のアービトラージ(裁定取引)の動向を含め、不確実性の高い二極化相場が続く公算が大きい。
(IRUNIVERSE YT)