レアアース元素を手がけるカナダE-Tech Resourcesに聞く
カナダに本拠を置く資源会社E-TECH RESOURCES INC.は希土類元素(レア・アース元素)開発を手がけている。現在アフリカのナミビアで採鉱プロジェクト(The Eureka Project)を進めており(100%同社所有)、同プロジェクトはアフリカの鉱業権区域トップの一つにリストされる。採掘開始に先駆けた初期の冶金試験では、大きな潜在性が示されている。
E-TECH RESOURCES INC.は、サステナビリティと責任ある鉱業を掲げ、持続可能な資源で生産される電力が支える将来を見据えている。同社の理念は、電気モーターのメーカーへ主要原料を提供することで、持続可能なエネルギーの推進に貢献するというものだ。
E-TECH RESOURCES INC. が扱うネオジム(Nd)は、輸送部門の脱炭素・再生可能な発電において重要な役割を担う。ネオジムは、鉄とホウ酸の合金に使用され、強力な永久磁石の製造を可能にする元素だ。1983年のネオジム磁石の開発以来、携帯電話・スピーカー・マイクなど多数の電子機器の小型化が可能になった。2010年に入ってからはさらに開発が進み、大型のタービンやEV用モーターへ使用されている。
ネオジム永久磁石には、およそ30%のネオジムが含まれおり、EV一台につき、およそ2kgのネオジム永久磁石が搭載されている。風力タービンについては、ネオジム平均約28.5%、ジスプロシウム4.4%、ホウ酸 1%、鉄 66%が使われる(2017の同社掲載資料から)。
今回MIRUでは、E-TECH RESOURCES INC.のCEO、Elbert Loois氏へ取材、同社のプロジェクト・環境政策への対応から、欧州の現状における業界へのインパクトなどについて話を聞いた。同氏は、原材料・自動車・クリーン技術産業における事業開発・M&A・持続可能戦略におけるマネージメント及びコンサルティングにおいて20年以上の経験を持つ。
Q:ナミビアにおける御社の採鉱プロジェクトについて教えてください。
このプロジェクトは「単純な鉱物学」に特徴づけられるもので、主に採掘されるモナズ石には高品位の希土類酸化物(TREO)が含まれています。モナザイトは、深いマグマ源から既存の岩石に貫入したカーボナタイト岩脈群に含まれており、今日では地表に露出しています。本プロジェクトにおける産出鉱物の特徴は、低コストで採掘・処理が可能なことです。重力処理によるモナズ石の回収率は65%以上、濃縮レベルは60%(TREO)、うち希土類酸化物は16%となっています。
危険な化学物質は含まれていないため、複雑な処理施設も必要ありません。施設の稼働もロジスティクスも単純な行程です。ナミビアは、アフリカの中でも非常に情勢の安定した国であり、鉱業でも知られる国です。本プロジェクトの位置する地形は平坦で、水や電気へのアクセスも容易です。コンテナを輸送する港はナミビアでは最大級で、採鉱現場から車で1時間半と便利な距離です。
Q:鉱業においてもSDG対策が非常に重要な位置を占める時代だと思いますが、御社の事業戦略は?
当社は、国連の持続可能な開発目標とESG戦略に準じ、環境・社会・コーポレートガバナンスにおける最高基準に則った事業展開をしています。ASECナミビアは、現地プロジェクトに関し環境への影響調査を実施しており、政府による「環境クリアランス証明書」が発行されています。当社は、規約や規定、指針など全ての必要なルールに厳格に従っています。また、ESG理事会のメンバーとしてグローバルレア・アース協会(REIA)や重要なミネラル協会(the Critical Minerals Association)とともに協力し、国際鉱業委員会議長も務めています。加えて、鉱業における事業活動と開発におけるインパクトを測定するには最良の方法の一つであるライフサイクルプロジェクトも支持しています。
社内にも独自のサステナビリティ顧問委員会を設けており、現在影響評価を実施している最中です。ナミビアのプロジェクトサイトには、環境モニタリングシステムを設置しており、採鉱作業が進むごとに地元環境における変化を監視しています。
Q:新型コロナ感染症蔓延やロシアによるウクライナへの侵攻、エネルギー価格の高騰などの世界情勢に際し、御社の事業への影響は?そのための対応策などは?
ウクライナにおける戦争は、欧州や世界におけるガスや石炭などの化石燃料への依存度の高さを浮き彫りにしました。ウクライナや欧州は距離的に離れているため、現段階で、当社のナミビア事業における影響についてはまた特に感じていません。しかしながら、燃料価格は少し上昇しています。
風力発電や電気モーターなどの再生可能エネルギーセクターでは、レア・アース永久磁石が大きく貢献しています。これらは、現在我々が直面しているエネルギー供給リスクを多様化するためのクリーンで持続可能な方法です。当社のEurekaのようなレア・アース開発プロジェクトへの投資は、グリーンエネルギー革命を支持するバリューチェーン構築の加速化へつながるものです。
Q:御社は、日本企業との提携にご興味をお持ちでしょうか?
当社としては、持続可能なレア・アースの供給開発における戦略的なアプローチにおいて、日本の企業と協力できれば非常に嬉しいと思っています。今日では、電気化やモーター化におけるグローバル産業は、縦型統合された中国のサプライチェーン・地政学・レア・アース価格へ依存しています。こうした依存の現状は多様化する必要があります。しかし、中国以外のレア・アース事業環境は、バリュー構築においては、他の原材料に比べ状況が非常に複雑です。現状の改善には、ステークホルダー同士が一体となって取り組む必要があります。
そのためには、鉱石・レア・アース磁石サプライチェーンパートナーによるコンソーシアムの設立が必要でしょう。製品スペックや市場のニーズおよび投資条件を満たしつつ、今後必要とされる生産能力の開発に共同で取り組む意思のあるパートナーです。この問題については、すでに日本企業や組織との協議を行っています。我々は、リーズナブルかつサステナブルな電力の生産における相互利益を日本のパートナーと共有できると考えています。特にJOGMEC(Japan Oil・Gas and Metals National Corporation)などの組織は、新機会の模索と実現に大きな役割を果たすものと思います。
取材協力:E-Tech Resources, CEO Mr. Elbert Loois
Source:https://etech-resources.com/about/
(Y.SCHANZ)
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