2022年度第3四半期特殊鋼需要見通し@経産省 第2報
経産省は、10月14日、2022年度第2四半期鋼材需要見通しを発表した。そこでは、7月に発表した2022年度第2四半期特殊鋼国内需要見通しから実績見込を下方修正し、7.8 %減とした。また、2022年度第3四半期需要見通しについても下ぶれるリスクがあるとしており、足下の需要環境を鉄鋼連盟の資料などを基に整理してみた。
内閣府による月例経済報告では、
『-景気は、緩やかに持ち直している。-』としたが、下記下振れリスクへの注意を必要とした。
7月は、ただし、世界的に金融引締めが進む中での金融資本市場の変動や原材料価格の上昇、供給面での制約等による下振れリスクに十分注意する必要がある。
8月は、ただし、世界的な金融引締め等を背景とした海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇による家計や企業への影響や供給面での制約等に十分注意する必要がある。
さらに、9月及び10月は、ただし、世界的な 金融引締め等が続く中、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、供給面での制約、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要がある。とした。
<10月の総論>
・個人消費は、緩やかに持ち直している。
・設備投資は、持ち直している。
・輸出は、おおむね横ばいとなっている。
・生産は、持ち直しの動きがみられる。
・企業収益は、一部に弱さがみられるものの、総じてみれば改善している。企業の業況判断は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。
・雇用情勢は、持ち直している。
・消費者物価は、上昇している。
令和4年10月の資料 月例経済報告 (cao.go.jp)
<経済動向>
日銀の9月短観によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は産業全体では前回6月の調査から1ポイント上昇の+3となり、緩やかな改善傾向となっていることは窺える。
内訳をみると、大企業製造業は、部品の供給不足は徐々に改善されているものの、資源高や円安による原材料の高騰等を背景に、前回から1ポイント低下の+8となった。先行きは1ポイント上昇の+9の見込み。
9月30日経済解析室ニュース(経済産業省)
上記9月30日の経済解析室ニュースによれば、
『9月の生産計画では、前月比2.9 %の上昇見込みです。この計画どおりに生産されれば、9月の鉱工業生産の実績は、4か月連続の上昇が見込まれます。
ただし、生産計画は、生産実績よりも上振れする傾向があります。そこで、9月の生産計画について、生産実績との間で生じるズレを統計的に補正すると、9月の生産実績の見通しは、前月比マイナス1.2 %と低下の見込みです。
なお10月の生産計画については、9月の計画から3.2 %の上昇見込みです。』としている。
<8月の鉱工業生産指数>
8月の鉱工業生産は、電子部品・デバイス工業が低下したものの、半導体製造装置等の生産増加により生産用機械工業が上昇したことにより、全体としては上昇となった。
9月の生産計画は、部材供給不足の影響の緩和等により電気・情報通信機械工業、電子部品・デバイス工業等が生産計画を伸ばしていることから、全体も上昇の見込み。他方で、海外景気の下振れ等により生産計画が下方修正されるリスクもあり、先行きについては注視が必要。
鉄鋼連盟から発表された全国鋼材生産高(速報)によれば、特殊鋼熱間圧延合計の2022年1月~9月累積及び4月〜9月の累計は、前年同期比を下回る見込み。
図1 熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼)及び粗鋼生産量推移
図1に示すように、粗鋼生産量、熱間圧延鋼材生産量合計は減少傾向にある。
<熱間圧延鋼材生産高 9月(速報)>
○ 熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は621.0万トンと前月比3.6 %減、前年同月(710.6万トン)比12.6 %減となり、前年同月比では9か月連続の減少となった。
7月〜9月では1,895.4万トン(前年同期比11.0 %減)、4月〜9月では3,904.9万トン(同8.0 %減)となった。
〇普通鋼熱間圧延鋼材 の生産は481.6万トンと前月比4.4 %減、前年同月(553.7万トン比13.0 %減となり、前年同月比では4か月連続の減少となった。
7月〜9月では1,478.3万tトン(前年同期比10.8 %減)、4月〜9月では3,070.4万トン(同7.0 %減)となった。
〇特殊鋼熱間圧延鋼材 の生産は139.4万トンと前月比0.4 %年減、前年同月(156.9万トン)比11.1 %減となり、前年同月比では8か月連続の減少となった。
7月〜9月では417.1万トン(前年同期比11.9 %減)、4月〜9月では834.5万トン(同11.4%減)となった。
図2に特殊鋼鋼材受注量推移を示す。8月の受注量は、自動車用が前年同月比13.8 %減の31.1万トン、次工程用が23.1 %減の24.3万トン、産業機械用は、15.9 %減の10.2 万トンとなり、合計では17.9 %減の108.7万トンと大きく減少した。
図2 特殊鋼鋼材 用途別受注量推移
図3に特殊鋼鋼材鋼種別受注量推移を示す。
8月の全鋼種受注量は、前年同月比では減少した。ばね鋼は36.6 %減1.5万トン、機械構造用炭素鋼は12.8 %減の29.5万トン、構造用合金鋼は19.3 % 減の22.1万トン、工具鋼は39.2 %減の1.5万トン、ステンレス鋼は、35.8 %減の12.1万トンとなった。
図3 特殊鋼鋼材 鋼種別受注量推移
<10-12月期 国内鉄鋼需要産業動向見通し>
<土木:表1>
公共土木工事受注額は、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策の工事を中心に引き続き堅調に推移すると見られるが、10-12月期は、前年からの横ばいに止まる見通し。
民間土木工事受注額は、10-12月期は企業収益の改善から設備投資需要が増加することが期待され、前年同期比で増加する見通し。
<建築>
新設住宅着工戸数は、貸家は、大都市圏を中心に緩やかな回復が期待されるも、持家は、こどもみらい住宅支援事業や住宅ローン減税の延長等の住宅支援策はあるが、全体を押し上げるほどの伸びは期待できない見込み。加えて、分譲は、空室率価格高騰等の影響が懸念されることから、住宅部門全体では前年同期比では減少となる見通し(第8図)。
建築非住宅着工床面積は、製造業を中心に設備投資が持ち直し、工場が増加する見込みである。このほか、eコマースの利用拡大を背景とする、配送の効率化に対応する高機能・マルチテナント型物流施設が堅調に推移すると見込まれるものの、前年水準が高かった反動もあり、非住宅部門全体では前年同期比では減少となる見通し(第9図)。
<製造業>
<自動車部門:表2 四輪車国内販売台数>
生産回復が期待されているものの、国際情勢の悪化に起因するエネルギーコストおよび資源価格の高騰や、急激な円安の進展など製造コストの上昇、サプライチェーンの更なる混乱が生産に影響を及ぼすことが懸念されている。
完成車輸出について見ると、地域によりペースが異なるものの、海外市場は総じて回復傾向にあることから、前年同期比では増加となる見通し。
国内完成車生産について見ると、部品供給不足等により自動車メーカーは減産を余儀なくされているものの、4-6 月期を底に徐々に生産活動は回復する傾向となることが期待されることから、前年同期比で 増加する見通し(第11図)。
<産業機械部門:表4>
産業機械全体は、前年同期比では増加の見通し。
建設機械は、北米やアジアの好調な外需にけん引され、国内需要も堅調に推移すると見込まれており、引き続き高水準で推移し、前年同期比でも増加となる見通し(第12図)。
金属加工・工作機械は、労働力不足対応の自動化・無人化システムの導入や設備投資の動きに追随し、国内外での需要は引き続き堅調であると見られ、前年同期比では増加となる見通し。
<電気機械:表5>
電機機械の生産指数は、前年同期比では増加の見通し(第13図)。
重電機械は、国内外の設備投資の回復が下支えをしており、10-12月期は前年比増加の見通し。家電は消費者マインドの悪化が懸念されるものの、部品供給不足が徐々に解消されることから、前年からほぼ横ばいとなる見通し。一方、産業用電子・通信機械は前年からの増加を見込む。
<造船:表5>
国内は、足元では船価の上昇に伴う受注環境は改善し輸出船契約量は持ち直しているものの、受注から起工・竣工まで時間を要することから、起工量は緩慢なペースで持ち直していくと見られる(第10図)。一方、世界的な原燃料価格の上昇の影響から、前年同期比では減少となる見通し。
<2022年度第3四半期需要見通し>
以上の状況を配慮して、見通しが発表された。
第2四半期実績見込みは、7月に発表された第2四半期見通しから下方修正された。
図4に熱間圧延鋼材 品種別生産推移(月平均)を示す。特殊鋼熱間圧延鋼材の生産量は、
1Q実績は、1Q見通しを下回ると想定された1Q 見込みは、わずかに上回った。2Q 見込みも、2Q見通しを下回り、1Q 実績をも下回る予想となった。3Q 見通しは、下方修正された2Q見込み及び1Q 実績を上回る予想。
図4 特殊鋼 品種別生産量推移(4Q及び1Q 実績、2Q見通し・見込及び3Q見通し)
特殊鋼の鋼種別生産量実績と需要見込み及び見通しを図4に示す。自動車生産量の回復遅れにより、その他の鋼種を除いて、見込みは見通しを下回る。
2022年度第3四半期特殊鋼鋼材需要見通し @経産省 第1報 | MIRU (iru-miru.com)
<国内鉄鋼受注動向 8月迄>
普通鋼鋼材受注:表6
建設部門は、4-6月期は2期ぶりの前年比減少となり、足元8月を見ると、土木、建築ともに前年を下回っている。
製造業用は、8月の受注は、造船が6か月連続で前年を上回って推移しているほか、自動車が12か月ぶりに前年を上回った。
一方、産機は3か月連続、電機は2か月ぶりに前年比で減少となった。製造業全体では、前年同月比3.1 %増と8か月ぶりに増加に転じた。
特殊鋼内需については、自動車、産業機械及び次工程がいずれも減少したことにより、
前年同月比で19.2 %減(下記表では18.2誤記)と、11か月連続の減少となった。
(IRUNIVERSE tetsukoFY)
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