株式会社HIKKY:メタバースというこれからの市場に向けて
12月3日から12月18日までの16日間、オンラインコミュニケーションSNSソフトウェアのVRChatにて株式会社HIKKYによる「バーチャルマーケット 2022 Winter」が開催されている。
今回の記事では当イベントの概要とこれまでの取り組みについて紹介する。
オンラインにおけるコミュニケーション手段の増加とアバターに対するニーズ
昨今メタバースというキーワードが独り歩きしている感すらある、オンラインコミュニケーションツールの増加。
その歩みはインターネット黎明期のチャットツールからスタートし、音声通話やオンラインゲームといった物を経てリアルタイムでの双方向性を持つ変化を遂げた。
いわゆるライブ配信においてもカメラを用いた現実の人物を映すものと並行して、データとして構築されたイラストや3Dモデルを仮想の身体(アバター)としたリアルタイムの配信を行うチャンネルも存在している。
後者ではバーチャルYouTuberという言葉が生まれ、そしてそれが昨今では一般化しつつある程である。
単なる配信者のグループに留まらず、企業での運営やアイドルユニット等が設けられるまでに至っている。
そんなオンライン上のコミュニケーションは、仮想空間という一つの場を与えられて更にその複雑さを増している。
先述したメタバースというワードでだいたい取り上げられるのが、自由に動ける仮想空間とそこで運用する身体「アバター」を用いたコミュニケーションだ。
これはコミュニケーションの双方向性を担保しながら、接続しているユーザーの情報に近いキャラクター性を持たせた物を動かす事でコミュニケーションが「人に紐づく」認識をより行いやすくしている。
ライブ配信等における配信者が主役であり視聴者がその他大勢という括りを持つ単方向寄りのコミュニケーションであるなら、仮想空間上でのコミュニケーションは個々人それぞれの人間性・性質を担保された物という違いがある。
この手の文化が醸成されていく中で盛んになってきたのが、仮想空間上におけるアバターのニーズである。
元来こういった要素の走りであるオンラインゲームなどはゲーム上で用意されたプリセットデータを元にしてキャラクターを形作っていく。
勿論ユーザーがカスタマイズ可能なデータは存在するものの、それが既存のキャラクター作成の枠を逸脱するまでには至っていない。
例えば人型のキャラクターが操作出来るソフトウェアで、自分が爬虫類や恐竜、あるいは多脚の機械、煙の様な姿や無機質な自販機等になれる要素を全て包含している作品はそう無い。
仮にあったとしても既存のプログラミング上の枠を越えてロールプレイングを行う事は困難であり、ゲームやツールとしての限界がそこに存在していた。
ましてゲーム性を余り付与されておらず、オンライン上でのコミュニケーションを主眼に置くSNSアプリケーションならばなおさら「自分がなりたい身体」としてのアバターに対する重要性は増して来る。
こういった中で、株式会社HIKKYはオンライン上での大規模展示会「バーチャルマーケット」を開催し続けている。
オンラインだからこその公式企業のお墨付きと清廉さ
株式会社HIKKYは東京都渋谷区に本社を置く企業である。
設立は2018年と若手ではあるが、現在オンラインで動作するブラウザ対応のメタバース開発エンジン「Vket Cloud」の導入を始めxR系事業で注目を集めている。
そんな同社が継続して開催しているのが、オンラインVR対応SNS「VRChat」での展示会イベント「バーチャルマーケット」である。
2018年8月に第1回の開催となったバーチャルマーケットは、今回の2022年冬の開催をもって9回目となる。
同イベントには第2回から多数の企業が協賛として参加しており、各企業が独自の出展ブースや公式のグッズを展開している。
第9回となる今回も公式ページでは72の企業・団体が掲載されており、その一部としてはJR東海こと東海旅客鉄道株式会社やディズニープラス、ヤマハ株式会社や株式会社テレビ朝日、静岡県焼津市や環境省等非常に多岐に渡る。
今回のイベントでは3箇所の現実の都市をモチーフにした「パラリアルパリ」「パラリアル名古屋」「パラリアル札幌」がそれぞれメイン会場として登場。
実在の都市をモチーフにしながらも、実際の都市とはまた違った構造を持たせた会場となっておりいわばどこを向いても名所がある構造となっている。
その中に出展される企業ブースでは、VRChat内や場合によってはデータの互換性のあるプラットフォームで利用可能なデータを販売したりしている。
もしくは企業の宣伝ページに直接リンクが貼られており、アクセスする事も可能となっている。
まさに派手さと最先端の新しさを兼ね備えた、今の時代に合わせたマーケティングツールと言える。
このバーチャルマーケット2022 WinterはパソコンとMeta Quest2などのVR機器でアクセス可能なエントランスからスタートする。
6種類2バージョンずつ、計12箇所のパソコンやVR機器を繋げてアクセス出来る会場と、3種類2バージョンずつ、計6つのMeta Quest単体でもアクセス出来る会場、そして8つのWebブラウザからアクセスできる会場も展開している。
「Webブラウザからアクセス可能」というのは文字通りブラウザを開けばパソコンないしスマートフォンからアクセスする事が可能であり、特にソフトウェアのインストール等を行わなくとも会場の雰囲気を味わう事が可能となっている。
前者二つの会場と、Webブラウザからアクセス可能な「Snowman's Toy Factory アバターカルーセル」に展示されているのは、企業出展ではなく一般参加者がそれぞれ制作・展示している3Dモデルやエフェクト等のデータである。
今回、PC会場で一般参加ユーザーの展示会場となっているのは、ショッピングモールに近い構造の「VketPlaza -Express Mode-」、大型ブースを観覧出来るSFエレベーター「Cosmotravel Elevator」、様々な珍品を収集する怪奇の館「コルト夫人のヴンダーカンマー」、サイバーパンク感溢れる未来都市「テザーフォード」、常夏の島をイメージした「南国の楽園 ルルアナリゾート」、甘い甘いお菓子の国「Sweet×2 Tea Party」となっている。
現在では公式発表では100万人以上の来場者を誇るこのイベントが企画された背景には、オンラインVRSNSにおけるアバターやワールド(会場)データの著作権の透明性の問題が大きく絡んでいる。
昨今話題になっているNFTの問題点でも槍玉となっているが、インターネット上に存在するデータが全くオリジナルの物なのかそれともどこかから無許可に流出させられた物なのか、それを明確に証明する経路は非常に限られている。
そしてVRChatにおいても、ゲームソフトや他の3Dモデルデータ等から不正な手段で持ち出されたデータがアバターやワールドとして利用されるケースが存在していた。
そんな中で日本人ユーザーが中心となり「自分たちで制作したアバター等、著作権がクリーンな物の利用を推進する」という流れが発生する。
その中で展示会形式でイベントを開催する動きが出来、バーチャルマーケットが産声を上げたという事である。
その「著作権の透明性」や「集客性」がメタバース系コンテンツを知らなかった企業を引き付け、ユーザーに自社と関わりのあるコンテンツを使ってもらいたいという大きなうねりとなっていった事は想像に難くない。
その上で現在VRChatはピークタイム(繁忙期)での同時接続数がカウント出来る範囲で3万人をゆうに超える大規模コンテンツとなっており、使用されているインターフェイスの言語は英語である。
つまり市場の展開先としては日本語圏のみならず、全世界がその対象となっている。
更にMeta Quest2からのアクセスユーザー数は先述した3万人にはシステム上含まれておらず、同数あるいはそれ以上と見積もられている。
そのため日夜世界中の人々が自社ブランドの製品を見に来る可能性がある、あるいはその片鱗に触れる事が出来るというのはマーケティング上非常に強力な手段の一つと言える。
この点も、毎年多くの企業が当イベントに出展する理由と考えられる。
現在VRChatとHIKKYは公式イベントパートナーとなっており、開催期間中にVRChat中のワールド(世界)を選択する画面にバーチャルマーケットの会場をカテゴリごと纏めた一覧を表示できる欄を追加。
プラットフォーム運営元も一目置くイベントとなっている事は間違いないだろう。
今後もイベント開催を継続的に行う一方で、株式会社HIKKYはこのバーチャルマーケットにおける3Dコンテンツ制作の実績を活かした「Vket Cloud(ブイケットクラウド)」で市町村等の自治体を始めとした団体向けにもVRコンテンツを提供できる体勢を確立しようとしている。
同社のこれからの事業展開が、日本国内においてどの様な影響を与えていくのか。ますます加熱する「メタバース」という言葉のあり方を大きく揺さぶっていくその内容に、各業界から注目が集まっている。
IRuniverse Ryuji Ichimura
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