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地球温暖化対策待ったなし 自社・他社のCO2排出量を把握したものが市場を制す

 11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)。今年は、地球温暖化を起因する自然災害により「損失と災害」を被った国々に対し支援を行う基金を設けることで合意がなされたが、昨年に続き地球温暖化問題については、「人間の影響で大気、海洋、および陸域を温暖化させてきたことに疑う余地がない」ことが強調され、待ったなしで温室効果ガスの排出抑制に取り組まなければならない時代に来ていることが世界中にアピールされた。このような時代の要請を受け、日本でも大手企業を中心に脱炭素に向けた取り組みが企業経営と密接に結びつき始めている。

 

COP27で「損失と災害」基金の創設が決まった

 

 2021年6月、東京証券取引所の上場規則の一種である「コーポレート・ガバナンスコード」が改訂され、社会や環境を巡る企業のサステナビリティ対応が前面に押し出された。これにより、多くの上場企業で財務情報に加え気候関連財務情報の開示が求められるようになった。特にプライム市場の上場企業においては、気候変動について自社に及ぼす影響を分析し、TCFDまたはそれ同等の内容の開示が義務付けられた。

 

TCFDが求めるシナリオ分析

 

 TCFDとは、Task force on climate-related Financial Disclosuresの略で、日本語では、「気候関連財務情報関連タスクフォース」と呼ばれる。パリ協定が策定された2015年にG20からの要請を受け、各国の財務大臣や中央銀行総裁が集まる金融安定理事会(FSB)が主体となり設置された。

 

 TCFD設置の背景には、気候変動問題進展による金融業界への悪影響の懸念があったという。例えば脱炭素社会においては、石油を燃料として機械を製造した場合、従来の財務情報では利益を出していても、CO2を大量に排出するプロセスを踏んでいると、地球のために悪影響となってしまい、将来にわたり企業にマイナスの影響を与えることになってしまい、正しい投資先あるいは融資先なのか判断に迷う場合が出てくるからだ。

 

シナリオ分析6つのステップ

 

出所:TCFDを活用した経営戦略立案のススメ

 

 そこでTCFDでは、気候関連財務情報がどの程度取締役化に反映されるかを示した①「ガバナンス」、経営に影響を与える短期・中期・長期のスケールで特定した気候関連のリスクや機会を示した②「戦略」、評価した気候変動リスクをどのようにして抑えるかを示した③「リスク管理」、スコープ1,2,3それぞれの排出量やリスク管理に示した指標を示す④「指標と目標」といった4つの情報開示項目を提示している。中でも②「戦略」においては、企業に対し、気候変動が大幅に変化しても対応・適応していけるようなシナリオを企業に推奨しており、そのシナリオとして、①「ガバナンスの整備」、②「リスク重要度の評価」、③「シナリオ郡の定義」、④「事業インパクトの評価」、⑤「対応策の定義」、⑥「文書化と情報開示」といった6つのステップを提示している。

 

 ステップ1の「ガバナンスの整備」では、まず経営層がシナリオ分析における理解を示し、事業部を巻き込んだ体制を構築する。その上で地域別、事業別、企業別など対象範囲を特定し、時間軸を決めていく。ステップ2では、「リスク重要度の評価」を行い、企業が直面する気候変動のリスクと機会を評価した上で、セクター別、サプライチェーン別に気候変動で起こり得る事業インパクトを定性的に提示する。これらの情報をもとにステップ3の「シナリオ郡の定義」では、企業に関連する移行リスクや物理的リスクを包含したシナリオを想定する。移行リスクとは、低炭素経済への移行による政策遂行、技術の陳腐化、マーケットの変化などをいい、物理的リスクは、地震や豪雨、津波などの自然災害による資産の毀損や平均気温や海面上昇などの慢性的なリスクをいう。

 

 なお、TCFDでは複数作成したシナリオの中の一つには、基本上昇が2度以下に抑えるシナリオを採用するよう求めている。出来上がったシナリオを基にステップ4「事業インパクトの評価」では、地球温暖化対策に対して投入したコストやこれによって得られた収益などをもとに各々のシナリオが、企業の戦略的、財務的なポジションに対し、どのような影響を与えるかを分析する。ただ現実的な問題として、これらの情報は、まだ標準化されていないため、財務諸表と同等のデータは取れない場合がある。そのため、まずは定性的な記述からはじめることになる。このように組み上げたシナリオを現実に落とし込むため、ステップ5「対応策の定義」では、事業インパクトの大きいリスクや機会について、自社の対応状況を把握し、必要があれば、競合他社の状況を確認した上で適用可能で現実的な選択肢を特定する。

 

 そして最後のステップ6「文書化と情報開示」で、各ステップで検討した結果にもとづいてシナリオ分析の位置づけをわかりやすく説明していく。これら6ステップに従いシナリオ分析を進めていくのだが、セクター別、産業別の排出量取得は無限にある。そのため、細かくすればするほど排出量は減らすことができる仕組みになっているが、細分化することに比例して費用も時間も増加していくのは避けられない。

 

 ここで注意しなければならないのは、通常の財務分析と異なり気候変動問題は、一企業ではなく産業界、社会全体で対処する必要があるという点だ。シナリオ分析を閲覧する機関投資家がどの範囲あるいは分野を求めているのかをリサーチしながら、中・長期戦略の視点でシナリオを組み立てていく必要がある。

 

まずは排出量の算定から

 

 このように、地球温暖化対策は待ったなしの状態であり、プライム市場上場企業にとって今後TCFDに基づいた非財務情報の開示要求が弱まることはないだろう。しかし現実は、TCFDの求めるシナリオは全社的な取り組みとして理解されたとしても実行に移す企業はまだ少ないのが実情だ。そこに商機を見出したのが、CO2排出量削減や地球温暖化への対応策を技術で解決するクライメートテック企業の一つである「アスエネ」(本社:東京、西和田浩平CEO)だ。これまでの導入実績はプライム市場上場している企業を中心に約700社。合わせてベンチャーキャピタルなど投資家より29億円の資金調達も行っており、新進気鋭のスタートアップにふさわしい動きをみせている。

 

 同社の主力商品は、「アスゼロ」というCO2見える化のクラウドサービス。CO2排出量の算定に必要な基データである従業員の交通費の領収書やガソリン代などのレシートをAI搭載の画像認機能で読み取り、入力せずに自動的に取り込むシステムを組み込んでいる。また、排出原単位のデータベースをプリセットしているため、該当する活動に応じたメニューを選ぶだけでCO2排出量を自動算出する機能を持つ。

 

アスゼロのダッシュボード画面

 

 

「カンタンにわかりやすく、かつ手間をかけない形で入力作業が行えるようユーザーインターフェースを心がけ、スコープ3のサプライチェーン排出量の一次データを回収・比較・分析する機能も有しています」(西和田氏)

 

面倒なシナリオ分析も支援

 

 とはいえ、最近では、CO2ビジネスに参入しようとクライメートテック企業が増加中で競争が激しくなっている。他社との違いはどこにあるのか。

 「当社の一番の強みは脱炭素のワンストップソリューションを提供できることです。システム機能を前面に出しているクライメートテックの場合、ソフトウェアだけ提供し、集計した数値の加工をお客様側に任せる場合が多いのですが、当社の場合は、クラウドサービスで見える化した後、例えば『TCFD』のシナリオ分析のコンサルティングや、CDPの回答支援のコンサルティングを提供することができます。また、11月に新たに開始した、サプライチェーン調達の課題を解決するための、『ESGクラウドレーティング』という企業のESG評価のサービスも提供もしています」(西和田氏)

 

 西和田氏によると、気候関連財務情報の場合は、各分野のCO2排出量を換算するだけではなく、これらを継続して収集し、かつ提出可能なレポートとして仕上げるところに意味があるという。

 「実際のところCO2算定はソフトウェアだけは解決しません。例えば輸送時のCO2の計算方法はあるけどどれが正しいのか、廃棄物をたくさん出しているがどういう分け方でどのカテゴリーで計算をしたらいいのか。また、気候関連財務情報の取得を子会社までカウントするのか、関係会社までカウントすべきかなど、疑問の範囲は際限なく広がっていきます。どこまで必要とされているのかの判断材料を踏まえて、最適な解決策を提示するのが当社の役割です」(西和田氏)

 

 同社は、日本で初めて、気候変動のグローバル基準である「CDP気候変動スコアリングパートナーおよびコンサルティングパートナー」の両方に認定された。その点では、CDP気候変動スコアリングの基準に沿った回答に基づき、顧客の立ち位置が業界全体でどの位置にあるのかといった絶対評価、あるいは相対評価のどちらでも対応できるところに強みを持っている。

 CDPは、2000年に英国で設立された国際環境NGOが運営しているCO2排出の評価尺度で、情報開示プラットフォームを顧客に提供した上で、環境に関する質問書を作成する。その後、質問書への回答を基にスコアリング・分析し、格付けを行いその内容を公表している。世界中の機関投資家の要請を受け、2021年度は1万3,000社を超える企業がCDPに情報を開示した。

 

スコープ3の排出量算定が増加中

 

 では、「アスゼロ」を利用する企業はどのような業種が多いのだろうか。

 「一番多いのは製造業ですが、続いて建設・不動産業、小売業となり、これら3業種で8割を占めています。これらの業種は、数年前までだと、排出量の取引にはまず事業者自らの排出によるスコープ1,他社から供給された電気、熱、蒸気の間接排出となるスコープ2からという企業が多かったのですが、最近では、事業者の活動に関する他社の全ての排出を算定するスコープ3も含めて1-3セットで始めようという企業も増えています」(西和田氏)

 

スコープ1,2,3のイメージ

出所:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム

 

 西和田氏によると、スコープ3の算定は、プライム市場の企業に限らず、まだ義務化されていない中堅企業の間でも高まりつつあるという。

「当社のお客様で、神戸に建設機械装置や部品を製造する二川工業製作所という非上場の会社があるのですが、『アスゼロ』の見える化や当社の再エネ調達サービスなどを利用した結果、建設機械大手の小松製作所との取引が増加したと聞きました。重要なのは、これが小松製作所からの依頼ではなく、会社で積極的に進めていたグリーン・アクションをPRしたことによって売上増加につながったということです。その意味では、中堅企業でも初期の時点からスコープ1,2,3全てを視野に入れた対策を取り入れても問題ない時期に来ていると感じます」(西和田氏)

 12月時点でプライム市場の上場会社数は1,838社で、スタンダード市場は1,450社ある。気候関連財務情報ビジネスは、今後もますます活発化していきそうだ。

 

(IRUNIVERSE ISHIKAWA)

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