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自然エネ財団・洋上風力発電ポテンシャルを検証するも課題多し

 自然エネルギー財団が、日本の風力発電のポテンシャルを検証し4月4日発表した。発表の真意はG7ミーティングに合わせて国内の遅れている風力発電が膨大な再生エネルギーとして重要な位置にいる事を各国へアピールする事のようだ。

 

 産業界はごく最近まで風力発電の発展にこれまで後ろ向きであっただけではなく、風力発電分野から撤退もしていた。撤退の背景は日本近海が深い海に囲まれており、北海などの様に浅い海では無い事や、台風が毎年到来するなど発電に適さない環境などの原因を関係業界の企業が撤退理由に挙げていた。以下が自然エネルギー財団の主張である。

 

洋上風力発電を、ニッポンも。

 

日本の洋上風力のポテンシャルは膨大

 日本の排他的経済水域と領海を合わせた海域面積は、世界第6位の広さを有しています。洋上風力発電に必要な風況(風の強さ)も十分です。国際エネルギー機関(IEA)は、現在の日本の消費電力量の9倍をまかなうことができるほどの豊かな発電ポテンシャル(可能性)があると試算しています1。これまで海外からの輸入に頼っていたエネルギーを、国内の洋上風力発電で賄うことができる可能性が存在するのです。

 

(図)日本の洋上風況マップNEDO「NeoWins」
出典)NeoWins

 

(図)国内電力需要に対する各国における洋上風力発電ポテンシャルの比率
出典)IEA “Offshore Wind Outlook 2019”(2019年) Figure 26
*グリーンランドと海外領土除く **アラスカ州とハワイ州除く

深い海でも設置可能な、海に浮く洋上風車

 これまでの多くの洋上風力発電は、水深50m程度以下の浅い海で設置される、海底に固定する着床式の洋上風力発電です。日本は、沖合に出て水深がすぐ深くなると言われていますが、世界では、深い海でも設置可能な、海に浮く洋上風車の開発と設置が急速に進んでいます。こうした「浮体式洋上風力発電」は、水深200mほどの海域でも設置が可能です。現在は、欧州と米国を中心に商用設備の開発計画が進んでおり、日本でも、浮体式洋上風力の新しい目標値の設定が検討されています。

 

(図)主な洋上風力発電設備の型式
出典)国土交通省

 

コスト競争力を持ってきた洋上風力発電

 洋上風力発電で先行する欧州では、ここ10年でコストが半分になるなど洋上風力の急速なコスト低下が続いています。従来型の発電に比べてもコスト競争力を持つようになってきました。日本においても、政府と産業界がとりまとめた「洋上風力産業ビジョン(第1次)」2 において、洋上風力の主力電源化をかかげるとともに、2030~2035年までに、着床式の発電コストを現在の欧州並みの8から9円/kWhに低減する目標を掲げています。

 

(図)洋上風力プロジェクトと世界のLCOE(加重平均)及びオークション/PPA価格

出典)IRENA “Renewable Power Generation Costs in 2021”(2022年)図4.13洋上風力による経済効果は大きい

 

 洋上風力発電は、約2万点の部品から構成されていると言われています。また、洋上風力発電所の建設、送電線工事、発電所の維持管理など、多くの経済波及効果と雇用創出効果が見られます。前述の「洋上風力産業ビジョン(第1次)」では、2040年に60%の国内調達率を目指すとしています。

 

(図)洋上風力産業の全体像とコスト構造
出典)第1回 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会 資料3 pg.17

 

世界はすでに洋上風力発電へと動き出している

 洋上風力の導入量は、世界全体で、2011年に3.8GWでしたが、2022年には63.2GWへと拡大しました。現在は、欧州と中国を中心に導入が進んでいますが、米国や、オーストラリア、韓国、ベトナムなど、さまざまな国が、つぎつぎに新しい施策を打ち出し、拡大に取り組んでいます。昨今のエネルギー危機の高騰を受けて、各国政府が新しく設定した再生可能エネルギーの目標値の中でも、洋上風力の拡大が期待されています。こうした目標値を考慮すれば、今後、2031年には世界全体で371GWまで拡大すると見られています3。日本も、2030年に10GW、2040年には最大45GWの案件形成を目標としていますが、世界では、それを上回る勢いで拡大が続いているため、日本もさらに野心的な目標値の設定が求められています。

 

(図)洋上風力発電の世界の累積導入量及び地域別の内訳の推移 (IRENA)
出典)IRENA “Renewable Energy Capacity Statistics 2023”(2023年)を基に自然エネルギー財団作成

(図)各地域における洋上風力発電の2021年から2031年へ向けた導入累積量 (GWEC)
  出典)GWEC “Global Offshore Wind Report 2022” (2022年6月)を基に自然エネルギー財団作成漁業と共生する洋上風力発電

 

  (写真)浮体部分に付着した海藻に集まる魚

(出典)一般社団法人海洋エネルギー漁業共生センター

 

 美しく豊かな海に囲まれた日本は、世界の中でも水産業が大変盛んです。その海の恵みを、わたしたちはさまざまな形で享受しています。しかし近年、日本の漁業は、気候変動などによる海洋環境の変化により、大きな影響を受けています。そして、気候変動対策として注目される洋上風力も、海の新参者であり、そこに暮らす人々と共に地域産業を盛り立てていく効果が期待されます。

 例えば、日本では洋上風力の導入はまだ端緒についたばかりですが、長崎県五島市の浮体式洋上風力発電では、洋上風力が魚礁効果をもたらし、多くの魚が風車周辺に住み着いていることが確認されています4。こうした事例を参照することで、不安を希望に変え、地域に貢献する共生の形を模索できるのではないでしょうか。

 

1.Offshore Wind Outlook 2019, IEA (2019)

2.「洋上風力産業ビジョン(第1次)」、洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会(2020)

3.GWEC “Global Offshore Wind Report 2023” (2023年)を基に自然エネルギー財団作成 「洋上風力発電の動向:世界と日本における現状(第3版)」

4.Marine Diving Web、「渋谷正信氏に聞く 脱炭素時代のダイバーの役割 第3回:日本の洋上風力発電~長崎県」

 

 

 以上の自然エネルギー財団の風力発電のポテンシアルに関する報告書を再読してみると、行間に次の課題があると思料される。

1.政府の風力発電目標の骨格に野心的な挑戦が含まれていない

2.日本列島の周辺海域は漁業組合の利権の場であり、漁業への影響が懸念され、共生シナリオが見えない

3.一度撤退した風力発電機器業界への強力な支援が必要である

4.日本の風力発電の風の質で台風など懸念材料がある為、発電設備の技術的な課題が解決していない

5.日本周辺の風力発電の投資に大きなリスクが潜在する

 

 以上はあくまでも筆者の勝手な評価であり、読者諸兄の批評を仰ぎたい。

 

 

(IRuniverse Katagiri)

 

 

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