第1回サーキュラーエコノミーシンポジウムat六本木 LIVE Reportその1(経産省、Veolia、共英製鋼、JAERA)
2023年4月26日、IRUNIVERSE社主催の第1回サーキュラーエコノミーシンポジウムは六本木ヒルズの六本木アカデミーヒルズ タワーホールにて開催された。LIVE Report第1弾の今回は、当日の午前の部、経産省の吉川課長補佐の基調講演~ヴェオリアジャパン~共英製鋼~日本自動車リサイクル機構&エコアールまでのパートをダイジェスト版でお送りする。
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4月26日(水)サーキュラーエコノミーシンポジウム2023 at 六本木アカデミーヒルズ
最初は基調講演として、経済産業省の産業技術環境局 資源循環経済課 課長補佐(総括)吉川 泰弘氏が「GX時代における循環経済(サーキュラーエコノミー)について」という内容の講演が行われた。「成長志向型の経済自律戦略」というワードに根ざした内容となっている。
かつて取り上げられた3R(リデュース・リユース・リサイクル)と共に話題となった1999年の循環経済ビジョンは時代に応じて変革を遂げなくてはならなくなり、2020年には循環経済ビジョン2020という新しい方針でスタートする事となった。
環境面での取り組みとして取り上げられた3Rは、実態的な経済活動としてサーキュラーエコノミーという形で展開する必要があったのだという。
産業面において動脈産業(メーカーなど)と静脈産業(リサイクラーなど)はこれまで以上に密接かつ発展的な関係を築かなければならず、特に動脈側は「自分の所に資源が戻ってくる前提で製品を取り扱い、循環経済をリードしていかなくてはならない」という製造者にとってのノブレス・オブリージュを強調する論調であった。
もちろんその一方で消費者側はサーキュラーエコノミーという行動に対しブランディングのような価値を付ける行動を進め、投資家側も適正に取り組む企業に積極的な投資を行って企業価値や評価に反映させる体制を整えねばならないという。
欧州圏ではDPP(デジタルプロダクトパスポート)を使った製品の情報管理等がエコデザイン指令の対象となっている。その対象物は電子機器から繊維や食品など多岐にわたっている。
日本は現状そこに至れてはいないが、自国の資源循環状況を「自律」し、資源的な自立は難しくともリサイクル技術等で国際競争力を確保していく「成長志向型の経済自律戦略」を立てる必要があるとの事だ。
その為に企業側に対しても3Rの概念にもう一つのR(リニューアル)を加え、サーキュラーエコノミーへの体制へと積極的に移行させていくことが今後の要であるという。
そういった移行の為のリスクを負うのが政府の役割であり、その為に国として現在サーキュラーエコノミーに向け2兆円というサポート枠を用意しているとの事である。
質疑応答では「自律」という表現に関して、いわゆる野放図のような市場からコントロールされる市場へ変えていくのかという問いがあった。
これに対し吉川氏はガイドラインの整備や政策的な支援を活用し、資源価値の高いものの国外流出を防ぎ国内で循環させていく事が肝要であると語っている。
二人目は ヴェオリアジャパン株式会社から「サーキュラーエコノミーの取り組み」〜ヴェオリアグループ紹介〜という講演内容でサーキュラー・エコノミー事業開発本部 Managerの宮川 英樹氏が登壇された。
ヴェオリアは170年の歴史を持つフランスの企業であり、ナポレオン3世の治世下における下水道事業の担当企業「ジェネラル・デゾー」が後年多角化し「ヴェオリア・エンバイロメント」へと名を変えたものである。
全世界で4兆円規模の売上、22万名もの従業員を抱える同社の事業は水と廃棄物、エネルギーという三本柱で構成されている。
現在静岡に建設する新工場も含めて、日本国内では4つの工場を持っている。
同社のサーキュラーエコノミーに対する姿勢はかなり積極的である。
というのも母体となる欧州のフランスでは気候変動や資源問題の他に消費者側からのアクションが非常に大きいという要素がある為だ。
NGOの活動が政局に影響を与えやすく、また中古品に対しても若年層から高い関心が寄せられているという世論の後押しも非常に強い。
そのため投資家としてもサーキュラーエコノミーを戦略の一つとして組み込む状況となっており、ルール形成の動きも大変活発化しているとの事である。
日本では自治体やメーカー企業4社と協力し、リサイクルボトルの生産に携わっている。
その上でトレーサビリティが可能な様にDigglue社と協力し、製品の生産から再利用までサーキュラーエコノミーに相応しい体制を築いている。
その知見から特に今後必要となる要素として挙げたのは、製品を回収する際に少量であっても品質の良い物を回収し、かつそれらをソーティング(より分け)するシステムを整え、地域にフィットする体制で導入し、成果を確認できる「みせる化、つなぐ化、みわたす化」の橋渡しが大事だという。
質疑応答の中では動静脈連携(先述したリサイクルボトルのケース)において、メーカー側の反応はどういう変化があるかという問いがあった。
実際に4年前にサーキュラーエコノミー関連の部署を宮川氏が立ち上げたものの、この手の仕組みを構築しようとしているのは他に1社ほどしか無く社会全体で関心が無かったという。
今は経済産業省主導の研究会発足後に、企業のトップが話し合いの場に出る事もあり大きく空気が変わったと語っていた。
3人目は共英製鋼株式会社 環境リサイクル部 小野 晃氏(共英マテリアル株式会社 代表取締役)の「電炉をコアとしたリサイクルビジネス」という講演だ。
同社は電炉技術を用いて多様なリサイクルビジネスを行っている。
現在日本の粗鋼産業は世界第3位という状況であり、世界全体の鉄鋼生産量約19億トンのうち、8924万トンが日本での生産量。
生産される粗鋼のうち、電炉が使われている比率は27%。これは70%を誇るインドや68%の米国よりは大幅に電炉比率が低い。
世界全体の平均値が30%である所から見ても、まだ日本において電炉比率は低いほうだが、今後は高炉メーカーの電炉シフトで電炉比率は徐々に増していくものと予想されている。
共英製鋼株式会社では電炉から発生する廃棄物処理も行っており、日本全体の電炉廃棄物処理のうちグループ企業も含めその半分を同社が担っているというパワフルぶりだ。
電炉のメリットとして1600度という高温で製鋼する為、重金属の処理や複合物質も溶融処理を容易に行える他廃プラをコークスの代替として利用できるなど様々な要素を持っている。
その一方で液状物の処理は水蒸気爆発を引き起こすため不可能である他、幾つかの禁忌元素の存在や構造上多量には廃棄物を処理出来ないというデメリットもか開けている。
こういった処理の中で特に知られていないものの一つにコピー機や複合機などから出るトナーやカートリッジなどが存在する。これは通常処理を行おうとすれば粒子が細かすぎて粉塵爆発を引き起こす。その為同社では加熱蒸気を用いて処理する方法を編み出し、またトナーそのものがコークスよりも熱量が多くカーボン性も高い熱源として利用出来る性質を発見している。
この技術は2012年に同社が特許を取っているとのことだ。
また同社の大規模事業として閉店や改装を行う店舗の廃棄物処理も積極的に行っている。
現在では年間5000店程の店舗を対象に同事業を行っており、ビアサーバー等も回収対象としているなどその事業の幅を着々と拡げている。
4人目の講演は「自動車リサイクルの現在地と方向性」と題されたもので、日本自動車リサイクル機構(JAERA)代表理事 酒井 康雄氏と株式会社エコアール 社長 石井 浩道氏の共同講演という形となった。
日本自動車リサイクル機構は自動車リサイクル産業に携わるすべての事業者を対象とする業界の全国組織である。
2022年の新車販売台数は420万台と2019年の519万台と比較し減少したものの、昨年10月以降は回復傾向が見られている。
一方で廃車(使用済み自動車)は低調傾向となっており、今年は2022年よりも低めの推移を見せているとのこと。
その中でJAERAがアンケートを取った所、2019年と比較して、2022年では自動車の引き取り台数は平均35%減っているという結果が出ているとの事だ。
しかしその一方で仕入れ価格は2019年と比較し2022年では平均で1.8倍もの高値をつけている。
これがどういう事かというと、仕入れ価格の上昇は自動車に使われている各種素材の価格が上昇していることもさりながら、国内外業者間での廃車、部品の取り合いという競争激化が仕入れ価格の徒な上昇を招いているという。
その一方で現在自動車のリサイクルが硬直化する原因は幾つかあるとの事だ。
その一つが自動車リサイクル法の現制度の抱える問題点だ。
これは新車購入時に一定額をリサイクル費として預ける事で、購入したメーカーの購入した車両がリサイクルされる際の費用に充当するというものだ。
しかし裏を返せばこれは新車購入当時の市場を反映した価格かつ、その自動車が中古車で長く使われ続ければそれだけリサイクル費が使われないまま死蔵される事になる。
結果として自動車のリサイクル費用や素材の値段が高騰してしまう市場に対応する事が出来ない法律となっている。
また外国人事業者の増加も課題の一つであるという。
茨城県や千葉県、群馬県といった地域では外国人事業者の割合が多く、いわゆる自動車の処理ルールを適切に遵守しているかという点において疑問があると酒井氏は語っている。
エコアールの石井氏にバトンタッチした後の内容は、これに輪をかけて問題提起を行う内容であった。現在同社は11年前から樹脂やガラスといった製品の回収と分別を積極的におこなっているものの、現に複数の製品が混在するパーツ群のリサイクルには選別を含め非常に手間が掛かっている。
現在手選別で行う都合上、同社でも一ヶ月につき10トン程の処理量が限界点だという。
しかしその一方で自動車リサイクルに携わる4社に1社は海外の事業者で、かつ鉄スクラップというカテゴリに絞れば2社に1社は海外の事業者だという。
そして中古車の海外事業者の実に半数はインドやパキスタンといった地域の事業者であるといい、国内のリサイクル姿勢を押し出す政府側の動きは空回りしているのではないかと苦言を呈した。
こういった要素の背景にはオートオークション(中古車市場)の存在があるという。
これまで信頼や信用を軸にした商習慣でお互いに「勝手を知っている」国内事業者同士の結びつきが自動車処理のサイクルの中に組み込まれていた。
しかしオートオークションで直接ユーザーが車を買付け、リサイクル手法が適切かどうか分からない海外の事業者がそういったユーザーの廃車を安く買い叩く。
この流れで様々なパーツが海外に流出する事を防ぐ目的で、自動車リサイクルの現場の動きを考えていかなければならない時に来ているのだと石井氏は語った。
(IRuniverse Ryuji Ichimura)
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