半導体工場も争奪戦? インテルが欧州に続々投資 TSMCも生産分散

米半導体大手のインテルが6月に入りヨーロッパでの投資を矢継ぎ早に決めた。欧州では半導体受託生産(ファウンドリー)の台湾積体電路製造(TSMC)もドイツでの工場建設を計画しており、世界的な半導体工場の争奪戦の様相も帯びてきた。
■インテル、4日で3件の工場建設計画
インテルは6月19日、自社ホームページ上で、ドイツのザクセン・アンハルト州のマグデブルクでのウエハ工場の建設に関しドイツ政府と合意したと発表した。投資総額は300億ユーロ(約4兆6500億円)超で、ドイツへの海外企業による投資としては過去最大規模となる。ロイター通信などの外電によると、このうち100億ユーロ程度をドイツ側からの補助金で賄うとみられる。
インテルはそのわずか3日前、6月16日にもポーランドでの試験工場の建設を発表していた。外電によると、6月18日にはイスラエル工場の建設計画を明かしており、わずか4日の間に3件もの投資計画を公表したことになる。インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)はドイツ工場の発表資料中で、「他の欧州での工場建設と相まってウエハからパッケージ完了品までの一貫した工程が形成されることになり、インテルにとって欧州での供給網(サプライチェーン)構築への大きな一歩となる」と述べた。
■企業と受入国、「リスク分散」で一致
実は、ドイツにはインテルのライバルであり顧客でもあるTSMCもザクセン州ドレスデンでの工場建設を計画しているとされる。TSMCは米アリゾナ州、日本の熊本県への工場建設を進めてもいる。米国企業が欧州や中東へ、台湾企業は欧州と米国・日本へと工場設置を分散していることになる。
こうした動きの背景には、米中対立や台湾有事など地政学的リスクへの懸念から、世界的に半導体の生産および材料調達を中国や台湾、韓国といったアジア諸国に集中させることへの懸念が強まっていることがある。企業側と受入国側、両者のリスク回避需要が一致した結果だ。
まず、脱中国を急ぐ企業側は、中国以外の投資先として欧州や中東に注目している。一方、受入国側には「半導体生産を自国やパートナー国内で賄いたい」との需要が高まっている。
独半導体大手のインフィニオン・テクノロジーズは5月下旬、ドレスデン工場の起工式を行った。日本も最先端半導体の受託製造を目指すRapidus(ラピダス、東京・千代田)が北海道千歳市で工場建設を進めていることは周知のとおり。半導体工場の分野でも「デリスキング(脱リスク)」の流れは強まっている。
■Win-Winで済むのか
互いの思惑が一致しての生産拠点の分散だが、課題も多い。まず企業側には、投資資金の問題がある。ドイツへの投資を発表した後の米株式市場でインテル株は6月20日から22日まで3日続落し、下落率は累計で1割に達した。米証券会社がインテルの粗利益率が悪化していると指摘したと伝わり、投資拡大による財務負担の拡大を警戒する売りが膨らんだ。アジアと比べてコストが高くなりやすい欧州での投資を、市場は必ずしも評価していない。
一方、受入国側には人材不足の問題がある。半導体生産に必要な高級人材は既に世界的に奪い合いの様相となっている。外資大手が工場を設置したからといって高級人材が自動的に移民してくるとは限らない。自国技術者の育成を含め、大局的な視野での投資受け入れ策が必要になるだろう。
(IR Universe Kure)
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