香港からの風 「不夜城」復活なるか 中国大型連休で最初の正念場
中国で29日、国慶節(建国記念日)などに伴う大型連休が始まった。今年は中秋節と重なり8日間と長めとなったことから、旅行や消費の拡大に期待がかかる。香港でも受け入れ準備を進めてきた。
香港政府は9月14日、夜間経済の活性化を目指す官民連携のキャンペーン「香港夜繽紛(ナイト・バイブス・ホンコン)」を開始すると発表。今後の活動予定を示した。商業施設やテーマパークで営業時間を延長するほか、特典を提供する。映画館や飲食店では割引サービスを適用し、ビクトリア港沿岸のオープンスペースなどで各種イベントを切れ目なく開催するといった具合だ。
市民だけでなく観光客も呼び込み、経済成長の加速につなげたい考えだ。国慶節の大型連休などを視野に入れた取り組みだが、いよいよ本格始動する。香港の2023年4~6月期の実質域内総生産(GDP、改定値)は前年同期比1.5%増だった。コロナ規制の緩和効果を背景に2四半期連続でプラスとなったものの、伸び率は1~3月(2.9%)に比べ鈍化した。
「過去3年の新型コロナウイルス禍で、多くの人の生活習慣が変わってしまった」と香港政府はキャンペーンの動機をこう説明する。だが「2019年の大規模デモから過去4年余りで」とするのがより適切だろう。20年の香港国家安全維持法(国安法)施行以降、街全体にどこか委縮した空気が漂うようになった。そこに、香港政府の強制隔離を伴う厳格なコロナ対策が加わり、経済低迷が続いた。
香港屈指の繁華街である銅鑼湾(コーズウェイベイ)でさえ、今でも午後10時を過ぎるとシャッターを下ろす店が目立ち、行き交う人が減ってしまった感がある。コロナ規制緩和と往来再開から半年以上経ったものの、賑わいは戻っていない。かつて「眠らない街」と称された香港は、一体どこへ行ってしまったのか。
香港島東部の公園に掲げられた国慶節を祝う横断幕
ライバルは深セン?
頼みの綱の中国本土客を巡っては、タイや韓国など近隣諸国・地域にライバルが多く、観光客誘致の先行きは楽観視できない。なかでも最大のライバルは、境界を接する広東省深セン市だろう。深センは22年2月に夜間消費を新たな経済のけん引役と位置付ける方針を示し、すでにモデル地区の整備や夜間イベントの開催などを積極的に推進している。
今年9月15日には新たに21項目の消費促進策を公表。目玉は香港・マカオからの旅客(念頭にあるのは特に香港人)に照準を合わせた措置で、小売りや飲食、娯楽から美容・ヘルスケア、自動車のアフターサービスなどにまで特典対象を広げ、無料シャトルバスでの送迎や消費券の配布、越境決済の利便性向上などを行うとした。くしくも香港政府がナイトライフ活性化のキャンペーンを発表した翌日で、香港当局や業界関係者を戦々恐々とさせた。
境界を挟み、互いに「顧客」を奪い合う構図となっているが、今のところ、深センが先行し、訴求力もあるようだ。「香港と比べて値段が安いし、サービスもきめ細かい」などと、香港人からの評判も上々だ。なお、香港から深センに行くには9月29日時点で日本人へのビザ(査証)免除措置が一時停止されており、5日間有効の「特区旅游ビザ」の申請手続きを深セン側の入管施設で行う必要がある。
香港の旅行業界団体は今回の大型連休で、100万人(コロナ禍前の7割程度)の中国本土客が香港を訪れると試算する。中国・百度(バイドゥ)の地図サービス「百度地図」などが9月26日に発表した国慶節連休の行き先予測リポートによると、国内・海外(本土以外)旅行の予約件数はともに前年同期比で大幅増を記録。海外旅行先では日本がトップで、韓国やタイなど東南アジアも上位に付けた。一方、香港はトップ10圏外となった。
理由はいくつか考えられる。8連休で遠出ができそうとの期待から、香港は選択肢から外れた可能性がある。コロナ禍で行動変容や意識の変化が起き、従来のような高級ブランドの買い物ではなく、体験型観光に移ったとの指摘もある。上海から約4年ぶりに旅行で香港を訪れたある中国人女性は筆者に対し、「以前に比べて魅力がなくなったように感じる」と率直に語った。
香港政府は今年2月、「你好、香港!(ハロー、ホンコン)」と銘打ち、無料航空券50万枚の配布などを柱とする大規模なプロモーション活動を展開すると発表。4月には「開心、香港!(ハッピー・ホンコン)」と名付けた市民向け消費促進キャンペーンを始動させた。いずれも官民タッグとはいえ政府主導色が強く、一部の市民からは困惑や冷めた声も聞かれた。
ナイトライフ活性化が経済好転につながるか。今回の大型連休は、香港にとって最初の正念場となりそうだ。
香港島東部の公園で開催されているランタン祭り。中国・四川省と香港の交流の一環という。
ーー筆者よりーー
今後、不定期に香港からの風をお送りします。読者の皆さま、何卒よろしくお願いいたします。
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M.Sezaki
京都市出身。香港在住18年。大学卒業後、番組制作会社のカメラアシスタントなどを経て中国・大連と北京に留学。上海と深センで日本人向け情報誌の編集に従事した後、香港の日系通信社などで現地記者として10数年勤務。幼少期より日中戦争を含む第2次世界大戦に関心を持ち、香港では戦跡の調査や関係者への聞き取りを行っている。ご意見やお問い合わせは machiko_sezaki@iruniverse.co.jp まで。
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