ベイリンクス石川氏がオンラインセミナー「世界を動かすTSMCと光半導体」
IRuniverse主催の「半導体市場最前線2023秋オンラインライブ」が2023年10月11日、東京のIRuniverse事務所内で開催された。講師は半導体産業分析に関しては定評があるベイリンクスの石川勇代表取締役。参加がかなわなかった読者のために、2時間に及ぶたっぷりしたセミナーの概要を報告したい。
ベイリンクス石川勇氏
石川氏は半導体を巡る世界の大国のパワーバランスについて講演した。キーワードとなるのは「台湾積体電路製造(TSMC)」そして「光半導体(光エンジン)」だ。
■すべては中国のレッドライン越えから
日本と中国のGDP推移と米国のレッドライン
石川氏によると、「すべては中国のレッドライン超えから始まった」。米国は他国の経済規模が同国の名目国内総生産(GDP)の60%まで許容するが、60%を超えると相手国つぶしに動くという。過去には日本が1992年にこのレッドラインを突破したが、当時の中曽根康弘総理大臣に「自動車か半導体のどちらかをつぶせ」と迫り、日本の半導体産業をつぶした経緯がある、と説明した。
現在は、中国が2018年にこのラインを上回り、2030年には米国を抜き世界最大の経済大国になるという見通しが出ている。中国が大きくなっても国連本部がワシントンにあるなど西洋中心の世界の運営体制は揺るがないものの、石川氏は「選挙制度がなく、共産党の独裁体制である中国が世界のリーダーになっていいのかという議論が今後活発になってくるだろう」と話した。
■台湾有事とTSMC、歴史的背景は
一方、台湾を含む中華圏では「買弁」と言われる海外資本との仲介商人が広く活躍してきた。この中で蔣介石の妻である宋美齢、孫文の妻である宋慶齢を含む宋一族が展開するネットワークを通じロスチャイルド家の資産を取り込み、若き日のバイデン米大統領家族、そして江沢民をはじめとする中国本土の人脈などとのつながりの中で頭角を現したのが、張忠謀(モリス・チャン)氏と彼が率いるTSMCだった、という。
台湾は米国とも中国とも付き合う
現在のTSMCは回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの極小半導体チップなど最先端技術の開発に余念がなく、他社は追随が難しい。半導体受託生産(ファウンドリー)の分野の世界の市場シェアは、TSMCが60%前後でトップ。2位の韓国サムスン電子が15%、中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)が5%前後と、TSMCが圧倒的な強さを見せる。
石川氏は、「米中の間で中立の現状を維持するのがTSMCとしては一番儲かる。よって、武力による進行という意味での『台湾有事』はTSMCが起こさせない」との見解を述べた。
ちなみに、半導体を通じて世界を動かしているのはオランダASML、TSMC、SMICの「SM3兄弟」。DRAMなどを通じ価格操作をしているのは米マイクロン、サムスン電子、韓国SKハイニックスの「ワルの3兄弟」だそうだ。
■日本はラビダスで挽回、NTTが光半導体を開発
日本勢の動きに話を移すと、日本は1980年代に半導体は絶好調だったが、前述の米レッドライン越えを経て半導体産業はつぶされた。結果として専門人材が米国や台湾に流れたが、そうした人材を呼び戻すなどして国内ベンダーを作ろうという動きになってきたのが近年の動きだという。具体的には北海道千歳町に建設予定のラビダスなどで、2027年までの国産化を目指す。出資企業には韓国勢と親しい孫正義氏のソフトバンクや台湾企業に出資するソニーなども含まれる上、「我々の税金からも出資することになる」(石川氏)わけで、やや危うさも漂う。
ラビダスには多くの国内外大手が出資する
一方、NTTは2019年に光半導体を英国での学会で発表した。これは従来の半導体上で電子回路が担ってきた情報のやり取りを光回路に置き換える技術。電子ではなく、より高速の光を使って情報を伝えて処理することで、これまでにない超低消費電力、超高速処理で半導体が動くようになる。電力消費量が劇的に減少する上、メタバースや人工知能(AI)などへの対応も容易になる。これまで電子に依存してきた半導体の仕組みが抜本的に生まれ変わることにもなる、「とんでもないもの」(石川氏)だ。
技術的には2024年末ごろにも完成しそうだが、販売は2025年~2027、2028年ごろの発売となりそうだという。背景には、軍事面での転用を含めて米国に気を使っているのに加え、国際的に人工知能(AI)への危機感が高まっていることがある。国連でもAIについて2026年までに国際的な規範機関を作ることで意見が一致した。石川氏は「AIもversion6くらいだとかなり人間の頭脳に近づく。その後は頭脳を超えていく」として、光半導体がこうして動きを促進させるリスクについて話した。
全体に世界的視野で半導体にとどまらず世界経済・動向を見渡した密度の濃いセミナーだった。今回叶わなかった方も、次回はぜひ参加されたい。
(IRuniverse Kure)
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