㈱ Preferred Networks が提案するディープラーニングを利用した半導体性能の向上
2023 年 10 月 17 日 – 2023 年 10 月 20 日に、千葉県千葉市にある幕張メッセにて 一般社 団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)の主催による「CEATEC 2023(シーテック 2023)」 が開催された。
今回の記事では,株式会社 Preferred Networks(Preferred Networks, Inc.)ソリューション について紹介する。
昨今、世界中で激しい開発競争が行われている半導体(IC)業界、その中においてはいか に半導体素子を大量に詰め込むかということが至上命題となっている。 コンピュータの計算は基本的に 2 進法で行われる。具体的には、電気回路内では電気の ON と OFF を使って 1 と 0 を表現する。
近年、処理能力の向上が求められる中、半導体素子の微細な ON/OFF スイッチが大量に配 置されることが必要だ。このため、回路の微細化や加工精度の向上が主要な課題だ。 しかし、㈱ Preferred Networks が提案する半導体性能の向上はこのようなハード面での進 化ではなく、ディープラーニングを利用して、ソフト面から性能向上を目指す画期的なもの であった。
㈱ Preferred Networks とはどのような企業なのか?
㈱ Preferred Network(以下 PFN)は 2014 年に設立 され、現実世界の課題に革新的なアプローチを提供している。
PFN は深層学習やロボティクスなどの最先端技術を活用し、交通システム、製造業、ライフサイエンス等のあらゆる分野で実用化を進めている。
また、自社内で深層学習のソフトウェア技術やプロセッサー、スーパーコンピュータを開発しており、現実世界の課題解決に向けて積極的に取り組んでいる。
特に、自社開発のスーパーコンピュータが、電力効率を評価する Green500 で世界一位を3度獲得し、大手企業からの出資や共同プロジェクトも相次いでおり、その開発力と技術力は非常に高い。
㈱ Preferred Networks が提唱する半導体性能の向上とは
最新の半導体を利用することこそが処理能力の向上を達成する唯一の解であると私たちは考えてしまう。しかし、最新のデバイスを使うということには様々なリスクが存在するのだと担当者は言う。
担当者は3つのリスクを挙げた。まず一つに値段がある。最新の半導体はプレミアムが付き値段が高い。これは世間にある最新家電とひとつ前の世代の家電の値段を比べればわかりやすいだろう。
2つめに最新のものを運用するには追加検証が必要不可欠だ。Nvidia では3つの開発チームがリリース予定の3世代分の検証を同時並行で行っている。 現実的に最新のものを運用するために、検証を当該企業の開発環境で行うのは不可能と担当者は言う。
3つ目は在庫の安定性がないことだ。最新の半導体は世界中が求めるものであり、日々熾烈な在庫争奪戦が行われている。
その実例として、私たちは自動車の納車が 1 年以上になるという信じられない状況が挙げられる。
安定的な供給がなければ、開発・管理が出来ないのは明らかだ。
出典:https://www.preferred.jp/ja/news/pr20231016/
これらのリスクの解決に対する PFN の答えは、ハードの性能向上に頼らない、ソフト面での性能の底上げだ。これにより、低密度のプロセッサーで高い演算能力を出している。 PFN が開発したスーパーコンピュータで採用されているプロセッサー(MN-core2)は7nm のプロセッサーとして開発したものを採用されている。最新の 2nm のプロセッサーとは大きな差がある。
しかし半導体の数字に表れない PFN 独自の工夫がここには存在する。
通常の汎用プロセッサーにおいては、問答無用でどのようなプログラムでも画一的に処理を行う。しかし、あとでそのワークロードを見直したときに、非効率性が自明であったりする場合がある。
このような点を効率化するために、あらかじめソフト側でプログラムにとっての最適な処理手順を指定したうえで、ハード、つまりプロセッサーに渡すのだ。
これによりハードが余計な処理を行わないため、大幅にリソースが削減できる。
また、この一連の作業は深層学習によって支えられている。
非常に簡潔に言えば、これらの工夫により、プロセッサーにかかる負担が減少する。
よって既存のハードのさらなる可能性を引き出し、本来のパフォーマンスを上回せることが可能となるのだ。
今回は、このプロセッサーを実際に使った材料探索のデモが行われていた。
他にも様々な独自開発のプロセッサーが世の中にはある。
しかし その多くはベンチマークに終始して、このような実際のプログラムでデモンストレーションが 行われることは少ない。
PFN社の技術力の高さに驚かされた。
現在のビジネスモデル
現在 PFN では主に BtoB での solution の提供が主な事業となっている。本企業が開発したハードやソフトをデータセンターで管理して、使いたい企業から使用料を得ることを対価にそのデバイスを提供する。
しかし、BtoB にとどまらず BtoC にも裾野を広げたいと担当者は言う。 その一歩として発売されているのが Kachaka だ。カチャカは AI 技術を搭載した家具を運ぶ家庭用自立移動ロボットだ。
しかし、将来的には本企業が開発した計算基盤そのものを、大口のユーザーへ売却するのが目標と担当者は続けた。
現在、多くの企業が自社で大規模な計算基盤を持ちたいと考えている。
しかし大量の電力消 費やデータセンター維持にかかる莫大なコストがネックとなり、その多くは及び腰だ。
しかし PFN が提供する solution は比較的廉価な半導体を利用する上に、電力効率も良い。
多くの企業が抱える悩みの一つの解になりえるのではないだろうか?
PFN はそのバリューの一つに「Learn or Die」を標榜している。代表の一人である岡野原氏は別記事で、「これは、私たちは学習することをいとわない、学習し続けるということの ほかに、テクノロジーカンパニーでありたいという意味」と発言している。
さらに岡野原氏は、環境は絶えず変化し続けており、過去の比較では、必要な技術やビジネス手法が大きく変わり、将来においては新たな重要技術が出現する可能性がある。
同様に、 社会や文化も変化し、人々の価値観や考え方が進化する。このような変化に適応し、学び続け、未知の領域に挑戦することが重要だと言う。 今回筆者は様々なブースをCEATECで訪れたが、最も本企業が野心的なチャレンジを行っていると感じた。
さらにそこにいる普段はエンジニアとして働いているスタッフからもテクノロジーで社会を変えたいという熱い思いが伝わってきた。
日本にも素晴らしい風土と技術力を兼ね備えたテック企業が存在することに驚かされた。
(IRUNIVERSE Imahoko)
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