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日本ボンド磁性材料協会主催 2023BMシンポジウム 高性能磁石の評価方法および製法から応用まで

 2023年12月8日、東京都荒川区の「アートホテル日暮里 ラングウッド」にて、日本ボンド磁性材料協会主催の講演会である「2023BMシンポジウム『高性能磁石の評価方法および製法から応用まで』」が開催された。
今回の記事ではその大まかな講演内容を纏めていく。


 日本カンタム ・ デザイン ( 株 ) 第1事業本部 技術開発本部 MPMS テクニカルサポートグループ グループマネージャー 池田 将洋氏は「SQUID 高感度磁化測定装置 (MPMS) および高磁場 (16T) 物理特性測定装置 (PPMS) の紹介」と題した講演を行った。
米国カンタム・デザイン社の日本法人である同社の製品として今回プレゼンされた物はニ種類だ。


 MPMSはSQUID(超伝導量子干渉素子)を使用した測定機となっており、磁化測定に特化した機器である。
測定方法としてSQUID-VSMとDC scanという2つのモードで測定を行う事が可能であり、測定時の挙動が異なるモードとなっている為試料に合わせた測定方法を選べる機能が大きなアピールポイントとなっている。
PPMS(物理特性測定システム)は、物理特性(熱特性、機械特性、磁気特性、電気特性)を自動で測定する事が可能なシステムである。
これらを測定するための豊富なオプションが用意されており、加えて製品バリエーションである「DynaCool」や「VersaLab」では冷媒が不要となっている。
昨今不足しがちなヘリウム3の消費を抑えるための画期的なアップデートと言えるだろう。


 富士通 (株) ビジネス戦略統括部 HPC ソリューション開発部の星名 実氏は「有限要素法による磁界解析を用いた反磁界補正法」という講演を行った。
今回この手法が提案されたのには理由が存在する。
EV向けのモーターにはNd-Fe-B焼結磁石などが使われており、この磁石の測定は開磁路(遮蔽されていない状態)で行われている。
この開磁路測定のマイナス面として、逆向きの磁界である反磁界が発生してしまい測定データにおいて誤差が出てしまう。
これを修正してデータを出す方法として「反磁界補正」という計算が行われる。


 しかしこの反磁界補正も万能ではない。
パーミアンス法という計算式を用いて計算しているが、この方式は資料が球体である、かつ反磁界係数が常に一定であるという前提に成り立っている。
実環境においてそういう状況はそこまで多くないため、新たな計算手法の開発が必要であると判断。
逆解析法という手法も存在するが、これはDyを添加された磁石や表面が劣化した磁石(非一様磁石)に対して計算結果が収束せず、適用しにくいという欠点を持つ。


 そのために編み出したのが「逐次代入法」という方式である。
これは計算した開磁路曲線と、そこから仮定された閉磁路曲線をまず用意する。
次に実測での開磁路曲線に対して生じたズレの分だけ、計算結果の開磁路曲線をスライドさせる。
そのスライド分を閉磁路曲線に適用する事で、より正確な数値に近づけるという方式だ。
現状補正精度には課題が残るものの、それでもほぼ実データと遜色ないところにまで近づける事に成功している。

 

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 極限機能材料研究部門の細川 明秀氏は「塑性加工法を利用した Sm2Fe17N3 磁石の成形手法の可能性」というタイトルで講演を行った。
現状製品を制作する際のCO2削減が取り沙汰されているが、地政学的リスクも相まってNdをどんどんと削減する動きが出ている。
その為将来的に、Ndを用いた磁石は作られなくなるのではないかという懸念が起きるのは当然の事である。
これを解決するための新素材の探索が行われており、現状最適解の一つであるNd2Fe14B(ネオジム鉄ボロン磁石)に代わる磁性材料は高温下(473Kほどの温度)になると少々その候補が広がる形となる。


 そんな中で行き着いたのがSm2Fe17N3(サマリウム鉄窒素)化合物である。
性能としてはそこそこ良いものであるのだが、唯一の弱点として620度で熱分解してしまう事から焼結によるバルク化が行えないというデメリットを持つ。
そこで編み出されたのが塑性加工法というやり方である。


 通常加工焼結を行う場合、四方から圧力を掛ける事になるが粒子間の隙間は埋まらないまま等間隔に粒子が配置される。
これをせん断変形を用いて変形させると、粒子同士の隙間が埋まり密着する事になる。
更に素材を固定・拘束した上で高圧のねじり加工を掛けると、組織がどんどんと圧縮され結晶粒が微細化。
SmN(サマリウムナイトライド)に近い特性を持つようになったという。
ただしねじりを行いすぎると磁気特性に悪影響が出てしまうという欠点もあり、まだ改良が必要との事であった。


 日亜化学工業 ( 株 ) 第三部門磁性材料製造部技術課 主査研究員補 吉田 理恵氏と秋田大学 大学院理工学研究科 共同サステナブル工学専攻 講師 吉田 征弘氏は連名で「Sm-Fe-N ボンド磁石を用いた高トルク IPMSM に関する検討」と題した講演を行った。
吉田 征弘氏はZoomでのオンライン参加となった。


 日亜化学工業は青色LEDの製造で一躍名が知られる企業となり、現在の主力製品として白色LEDやリチウムイオン電池の正極材である。
そんな同社が今回SmFeN磁石を開発しようとしたきっかけとしては、NdやDyの供給不足と地政学的リスクにあるという。
SmFeN磁石は高い磁気異方性、キュリー点を持っており、NeFeB磁石と比べて流動性が高く、電気抵抗も高く、耐食性に優れている。
ただし先の講演であったような高温、レポート上では650度程で熱分解してしまう為、ボンド磁石として利用されるのが一般的だ。
その中でIPMモーターを開発する為に、SmFeN磁石の性質そのものを向上させる必要に迫られたのである。


 元来のSmFeN磁石ではなく、SmFeN磁粉という粒状のものではあるが微粉末を生じにくい構造に最適化して製造。
また磁粉の表面にリン酸塩の被膜を付与し、かつ均一にする事で耐環境性も引き上げる事に成功した。
更に高トルクを獲得しNdFeB磁石を用いたモーターに迫るために、磁石形状をU字型に変更し、ギャップ無く磁石を充填し、配向磁場を最大化するためローターの形状も見直す事となった。


 これらの工夫を凝らした結果、現在シミュレーション上での話ではあるがNdFeBモーターに迫る製品のデータが取れているという。
トルクではNdFeBモーターの97%の出力を可能とし、磁石損失も少なく抑えられる結果となった。
更に150度域ではNd焼結磁石モーターより、0.1Nm高トルクになる現象も発生。こちらに関してはより精査が必要であると語る。
今後実機でモーター評価が必要になるが、大いに期待をしても良い製品であるとの事であった。


 (株) プロテリアル グローバル技術革新センター GRIT 新事業開発部 主任研究員の相牟田 京平氏は「高性能フェライト磁石を用いた主機モータの検討」というタイトルで講演を行った。
プロテリアルグループは住友金属工業や日立製作所、三菱マテリアルといった企業の流れを汲んでおり、源流は日立金属。
そんな同社は電動化技術に対応する多様な製品を有している。
ニーズも多様化しており、自動車向けでは低トルク高速回転向けで損失を抑えたいという場合はアモルファス合金やボンド磁石、フェライト磁石といった製品群を用意している。
高トルク低回転数ならパーメンジュールという見向きもされなかった品も引き合いに出されており、変わり種としてはサージの際に「死なない」エナメル被膜やモーターの高出力化を行える磁性楔といった製品もあるのだという。


 とはいえ問題となるのはNd含めた希土類磁石の原料価格が高騰する可能性の高さだ。
地政学的リスクによる調達の困難さへの懸念も示されており、様々な業界がこのリスクをどう回避するか四苦八苦している。
同社の扱う製品の中の一つであるフェライト磁石は需要が多く、電気抵抗も高く密度は2/3で耐環境性も高い製品である。
主機モータの様な大型の製品において、希土類磁石の代わりになるのではないかと設計を始める事になったという。


 設計上の制約として、外側のステータや巻線は変えずに磁石とロータで調整を掛ける方式を採用。
同社の取り扱うNMF-15Gという製品は保磁力が高い為、この製品を候補としたが厚みが200mmと分厚くなってしまった。
もう一つのアプローチとしては、回転数を上げて出力を相当の物に上げていく方向性だ。
1.5倍回転数を上げ1万5千回転まで回したところ、トルクはNd向けの1万回転とほぼ同じ出力の105kWまで上昇。
その為軸長を上げるか回転数を上げるかという選択肢を前提とした上で、通常のリファレンスモーターと比べ銅損をどう下げていくかという点が改良点になるという。


 煙台東星磁性材料股份有限公司 総経理の丁 開鴻氏は「自動車の電動化を背景に、 NdFeB 磁石が直面するチャンスと挑戦」と題した講演を行った。
煙台東星磁性材料股份有限公司(Yantai Dongxing Magnetic Materials Inc.)は安川電機株式会社との合弁企業であり、高性能なネオジム磁石の生産に寄与している企業である。
2022年時点で世界でのEV販売台数は1075万台、同時点で中国におけるEV販売台数は649万台となっている。
そんな同年度の中国におけるEVの販売割合は25.6%とかなりの割合を占めるようになった。
それに伴いNdFeB磁石の需要も伸びており、2025年の需要予測は全事業で28.5万トン、電気自動車などの乗り物向けのNdFeB磁石においては6.1万トンという需要が見込まれている。


 この磁石に求められるレアアースであるが、Ndの割合はレアアース中では14.5%ほどとそこまで高いものではない。
45%を占めるのがCe(セリウム)、25%を占めるのがLa(ランタン)となっており、このうち多量であるCeの使い道を探り、磁石に転用できればNdの消費を抑える事も出来るのではないかというのが本題である。
希土類は重希土類、軽希土類、非レアアースに分類され、重希土類であれば厚さが無くとも磁界保持力が強い。
そしてCeはNdで構成された磁石の「保護作用」があるとの結果が出ており、将来的に磁石におけるNd消費量を半減させる程の作用を期待されている。


 セリウム磁石は2024年までには7万トンの市場規模になると予想されており、Nd磁石の供給問題を解決しそうな状況だ。
それだけではなく設計上の資源の節約も重要であり、トヨタ自動車株式会社の製品「トヨタ・ミライ」では20%の希土類削減に成功している。
モーターの冷却効率を上げる事で、油の冷却も少なく済む様になり、結果的に磁石の動作温度を下げ、必要な保磁力が少なく済む。
それは結果として材料の削減に繋がるという事である。


 

 

(IRuniverse Ryuji Ichimura)

 

 

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