日本製鉄、「体質改善」で海外攻勢 USスチール、加テック石炭…買収相次ぐ
製鉄国内首位の日本製鉄が12月18日、米同業USスチールの買収を決めた。同社は11月にカナダ資源絵大手テックの石炭事業を一部買収するなど、積極的な海外攻勢を仕掛ける。かつて日本国内の製鉄所を相次ぎ閉鎖し「没落」と言われたが、スリム化の結果、鉄鋼業界を取り巻く経営環境が厳しい中でも、足元の業績は悪くない。
■23年通期見通し上方修正、国内整理しスリム化
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今回の買収価格は約2兆円。米子会社を通じた三角合併の形式を取り、買収価格は米株式市場でのUSスチールの12月15日時点株価よりも40%高い水準となる。買収資金は銀行借り入れ等で賄う。
日本製鉄は11月発表の2023年7-9月期の業績資料で、2023年3月通期の連結最終利益の予想について、4200億円と従来予想の4000億円から5%上方修正した。2022年3月期は過去最高の6940億円だった。
日本製鉄は2019年、2020年と最終赤字を計上。その間、日本の製鉄所のシンボル的存在だった八幡製鉄所や呉製鉄所、和歌山製鉄所などの高炉閉鎖や閉所、再編などを進め、2021年に黒字転換した。一時は赤字額の大きさから「没落企業の代表格」と揶揄され、高炉を閉鎖はしたが従業員の削減は少なかったことで「本格的なスリム化には取り組んでいない」と指摘されたこともあった。しかし、少なくとも業績面では、見事に体質改善に成功したと言える。
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■米企業買収は自信の集大成か
今回のUSスチール買収は、そうした自信の集大成的な側面がありそうだ。日本製鉄は2019年にインドのエッサー・スチールを、2022年にタイのGスチールをそれぞれ買収。2023年に入ってからは、スイス資源グレンコア主導の合弁事業体に参画し、テックの関店事業の20%を保有することを決めた。縮小が見込まれる日本国内の鉄鋼需要に見切りをつけ、海外事業に本格注力しようとの意図が見える。
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もっとも、鉄鋼界の逆風は海外でも変わらず、世界的に脱炭素へ舵を切る中、旧来型の資源大手の多くは事業再編を急ぐ。世界でも、英豪リオ・ティントはオーストラリアの旧型アルミ精錬所の科遺体を始めた。JFEスチールが京浜工業地帯のシンボルでもあった東日本製鉄所京浜地区(川崎市)の第2高炉を休止したのも9月のことだ。今回の動きはそうした流れの中での国際的な事業再編の一環と言えなくもない。
■19日の日本製鉄株は下落、財務負担を懸念
基本的には事業方針と時代の流れに沿った今回の買収だが、リスクは2兆円もの買収負担に耐えられるかだろう。12月19日の東京株式市場で、日本製鉄株は下落している。前述したように買収価格はUSスチールの前営業日株価よりも割高な水準であり、「高い買い物」に終わる可能性は残る。
さらに、鉄鋼は基本的に、発展途上国で需要が大きな商品だ。日本製鉄は買収のプレスリリースで、買収理由について「米国鋼材市場は、輸出に依存しない国内需要中心の供給構造となっており(中略)、今後も安定的に伸長する」としているが、裏を返せば安定以上の成長は見込みにくいとも言える。
また、世界の鉄鋼価格は現在、粗鋼生産のシェアの多い中国の動向に左右されやすい状況が続いている。中国経済の先行きが見通しにくいことも、大勝負の後の日本製鉄の経営の不安定要素になってくる可能性がある。
(IR Universe Kure)
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