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廃食用油の流通に異変?純国産SAFの新ニーズ――全油連・塩見正人事務局長に聞く

取材を受ける全国油脂事業協同組合連合会の塩見正人事務局長

 

 

 循環型社会に向けて、従来の燃料よりも二酸化炭素(CO2)の排出を抑制できるSAF(持続可能な航空燃料)などの用途として、飲食店などから出る使用済みの廃食用油が注目を浴びている。石油元売りのコスモ石油や総合エンジニアリングの日揮ホールディングスなどが、国内の廃食用油を原料にした初めての国産SAFの製造設備を今年度中に完成させる予定で、廃食用油市場はますます争奪争いが激しくなるとみられている。全国の回収、処理業者らでつくる全国油脂事業協同組合連合会(東京都文京区)の塩見正人事務局長に、今後の動向を聞いた。

 

 

――廃食用油は現在、どんなリサイクルの流れになっていますか。

 

塩見正人氏

 当会は、全国で廃食用油を回収したり、処理したりする事業者でつくる、北海道から沖縄県までの7つの組合から成っている。国内で唯一の全国団体で、計64社が加わっている。国内では年間40万トン程度の廃食用油が回収されるが、当会がカバーしているのは、うち20数万トンで全体の5~6割をカバーしているのが現状だ。

 

 国内では従来から、廃食用油はある程度、リサイクルの流れが固まっていた。飼料メーカーなどが、穀物に廃食用油をかけて湿らせて固まらせる用途で再利用してきたほか、石鹸などの工業用途もあった。

 

 2022年度の廃食用油のデータだが、国内で234万トンの食用油が消費され、そのうち、全国の食品工場や飲食店、コンビニエンスストアなど事業系から年間39万5000トンが発生した。このうち、当会などが、36万トン程度を回収、処理してきた。また、一般家庭からの流れもあり、10万トンが発生しているものの、回収されているのは4000トンにとどまっている。

 

 この二つの流れのうち、従来からの飼料用には18万トンが利用されたほか、工業用途に5万トンが回り、暖房用のボイラー燃料の代替などで2万トンが使用された。残りの11万トンが、欧州や韓国など国外に輸出された結果だった。欧州向けは多くが、フィンランドの世界最大規模のリニューアブルメーカー、NESTE社が購入しているとみられている。

 

――国産SAF生産で、大きな用途が新たに生じます。

 

塩見正人氏

 現状は、まだ大きくは変わってきていない。国産SAF製造工場もまだできておらず、国内の燃料油市場もまだ動いていない。工場ができても、本当に変わっていくかを見極めていかなくてはならないだろう。まだ、国外に燃料原料として販売した方が高く取引できるためだ。輸出価格は1キログラム150円程度だが、国産SAFは、国際的な価格の競争力をもたせるために、現状のジェット燃料と同程度にするため、逆算すると、廃食用油は80円くらいで取引されなければ成り立たないとされている。そのため、輸出に出していた事業者が、安価な国内向けに流れるかはまだ不透明な部分がある。

 

 国は法律でもSAFの導入を推進し、国策としての扱いになったが、費用負担については、民間まかせになってしまっているのが現状。なぜ、海外では高く取引できるのかといえば、欧州ではEU政府や各国政府などが調達に対して、補助金を出しているためだ。これは米国政府も同様。米国では、SAFの工場を建設し、燃料を生産すれば半額は補助金が出るし、原料取得にも補助金が出る仕組みになっている。税金が投入されているわけだ。

 

 国産SAFにするメリットは、地産地消という意義がある。国内で生じた資源を国内で有用資源にして国内で温室効果ガス削減に貢献させる。国内でも、最終製品かSAFの原料調達する際などに国が助成をして、保証していく必要があるだろう。国内で回収した廃食用油が、国内に向かうような流れにしていかなければならない。

 

 

――近年、廃食用油の流通に変化の兆しが出ているようです。

 

塩見正人氏

 18年ごろから、国内の廃食用油のメインストリームだった飼料向けの一部が輸出に向かうようになり、倍々ゲームでその量を増加させていった。その傾向は止まっていない。本来は有償で引き取っていた廃食用油を、需要が増えたため、いわゆる逆有償、つまり、買い取る動きが出てきた。新たな振興業者などによる買い取り合戦が、ひどくなってきたのは3~4年前くらいから。ただ、22年10月をピークに海外の輸出価格は値下がりを始めていて、そうした新興業者は市場からはいなくなりつつある。

 

 飼料用向けなどは現状で、もはやミニマムの状態にまで減少しているといえる。飼料用途にも、工業用途にも一定量の廃食用油が必要だが、もはや足りない状態になっている。足りない分は、高価なパーム油脂などで代替せざるを得なくなっている。廃食用油がSAFなどの原料に向かうことで、食料安全保障とエネルギー安全保障が拮抗した問題になってしまっている。民間ではもはや解決しようもない状態だ。国が旗振り役をすべきだろう。

 

 航空燃料など国内で必要とされている廃食用油の量を合算すると将来240万トンになると試算されている。現在でも、170万トン必要とされるが、国内で実際に供給されているのは40万トンほどにすぎない。飲食店などに設置した排水処理施設に蓄積される量が、18万9000トンにのぼると推定され、これが新たに燃料原料として回収できる可能性が出てきている。これまでは、バキュームカーなどで吸い取り、焼却処分されていたものだ。だが、必要とされている量と比べ、そもそもパイが全く足りない。あとは一般家庭からの回収率を高めていくくらいしかない。

 

 

――ギャップは、埋まりますか。

 

塩見正人氏

 SAFなどの必要量から逆算してきたことが、そもそも間違いだった。国内の廃食用油は、使い道がなかったわけではない。80年もの間、脈々とリサイクルされてきた歴史があるわけだ。今までの文脈、関係者を無視して進めるのは困難がある。もちろん、廃食用油を無駄にしてはいけないという社会情勢を育むには、非常に良い気運になっていて、ありがたいと思っている。

 

 パイのギャップ解消について注目しているのが、東南アジアだ。欧州も東南アジアから購入しているため、競合になる可能性はあるが、世界で東南アジアが廃食用油を最も多く発生させている地域だ。パーム油やココナッツオイルなどの大生産地であり、また、生食が少なく、揚げ物などが多い食文化であるため、油を多量に使用する。例えば、インドネシアでは、廃食用油を月間に40万トン発生している規模だ。うち2万トンしかリサイクルされておらず、残りの38万トンは廃棄されている。この分を国内に取り込んでいくべきだ。

 

 きちんと国際基準などのルールに則って、一定の基準で集めた廃食用油は、製品としての流通を認め、関税などを抑えてもらう。買い取るだけではなく、使わせてもらって削減できたCO2量の半分は、現地にカーボンクレジットとして返還する協定を確立させていくべきだ。そうすれば、現地が経済発展していくうえで、寄与できることになる。東南アジア市場では、インドネシアとマレーシアが大きい。両国の動き方次第で、他の国々の動き方が決まってくるとさえ言える。廃食用油の循環を、アセアン全体に広げていく構想が求められており、東南アジアと連携した議論に移行していくべき時期だろう。国内だけでは解決できるものではない。

 

(IRuniverse Kogure)

 

 

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