Arata AbeのELV RECYCLE Report vol.83 ロシア向け禁止措置後の中古車輸出(2):何が輸出されているか
前回の記事(vol.82)では、ロシア向けの自動車の輸出禁止措置の対象および対象外の品目を確認した。また、禁止措置がなされた2023年8月にロシア向けの数量が大幅に減少したこと、2024年になって徐々に前年並みに回復しつつあるが、禁止措置以前の水準には到達していないこと、直近は若干落としつつあることなどが示された。今回はこのうち何が多く輸出されているかを確認する。
ロシア向け中古車輸出台数を品目別に見ると、2023年8月9日からということもあり、2023年8月の輸出実績には禁止措置の対象品目の数量が若干含まれている。2023年9月になると、さすがにこの対象品目の輸出実績はゼロになっている。
禁止措置以前、ロシア向けの品目で最も多かったのは、乗用車のハイブリッド車(ガソリンエンジン搭載、統計品目番号:8703.40.100)だった。2021年、2022年、2023年1月~7月の全中古車(バス、乗用車、貨物車)におけるこの品目の割合は27%、28%、26%だった。当然ながら、2023年9月以降はこの割合はゼロになっている。
ハイブリッド車の次に多かったのは、乗用車の1000cc超1500cc以下のガソリンエンジン車(統計品目番号:8703.22.910)だった。同じく全中古車におけるこの品目の割合は、2021年、2022年、2023年1月~7月で、それぞれ23%、26%、25%であり、ハイブリッド車より若干低い程度であった。この品目は禁止措置の対象外であるため、当然ながらその後も輸出が可能であり、そのシェアは高くなっている。2023年9月~12月、2024年1月~6月のこの品目の割合は、53%、57%と半数を超えている。
図1はこの品目の輸出台数を月別に見たものである。これを見るとわかるように、2023年8月において、この品目の輸出は、前月および前年を大きく下回った。禁止措置の対象外となることで増加すると思いきや、減少したのである。その後、しばらくは前年を割る状態が続き、11月になってようやく前年を上回る水準になった。2023年8月から12月の合計は、前年同期間の93%である。全体におけるシェアは高まったが、それとは裏腹に輸出台数そのものは減少していたのである。
2024年になると全ての月で前年を上回り、対前年比も拡大する。2024年3月になると禁止措置以前の水準を超えるようになっている。同年4月は、禁止措置以降で最も多く、対前年比も200%を超える台数が輸出されている。一方で、5月、6月の対前年比は140%程度に下がっている。それが一時的なのかどうかは様子を見る必要がある。いずれにしろ、禁止措置からしばらく経って徐々に増加してきた状況は確認できる。
図 1 ロシア向け中古車輸出台数の月別推移(1000cc超1500cc以下のガソリンエンジン車、乗用車)
出典:財務省貿易統計より作成
禁止措置以降で、上記の1000cc超1500cc以下のガソリンエンジン車の次に輸出が多い中古車は、1500cc超2000cc以下のガソリンエンジン車(統計品目番号:8703.23.915)である。全体におけるそのシェアは、2023年9月~12月、2024年1月~6月でそれぞれ18%、20%であり、1000cc超1500cc以下よりは規模は劣る。また、2021年、2022年、2023年1月~7月のこの品目のシェアは、16%、18%、19%であるから、あまり変わっていない。
図2は、この1500cc超2000cc以下のガソリンエンジン車の中古車のロシア向け輸出台数を月別に示したものである。これを見るとやはり禁止措置直後の2023年8月に大きく減少している。それ以降は横ばいで1000cc超1500cc以下ほどには伸びず、対前年比はしばらく50%前後が続いていた。2024年になると増加傾向となり、若干対前年比が高くなっているものの、依然として全ての月で100%を下回っている。2024年4月は禁止措置以降、最も多いが、禁止措置以前の水準には程遠い。5月、6月は減少しており、対前年比も79%、65%と下げている。なお、2024年は2022年よりは多く、そこまで落ち込んでいないこともわかる。
この品目(1500cc超2000cc以下)のうち、1900cc超2000cc以下は禁止措置の対象である。もしかすると、その数量分の減少がこの品目の伸びを制御しているのかもしれない。
図 2 ロシア向け中古車輸出台数の月別推移(1500cc超2000cc以下のガソリンエンジン車)
出典:財務省貿易統計より作成
(次回は他の品目の数量を示す)
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阿部新(Arata Abe)
山口大学 国際総合科学部・教授
2006年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。
同大学研究補助員を経て、2008年より山口大学教育学部・准教授
2020年より同大学国際総合科学部・教授
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