福島復興グランプリ2024に参加して(9/14~9/16) ・・1日目
東日本大震災から13年。福島の復興まちづくりは、今なお多くの課題を抱える。福島の未来をつくっていくためには、新しい価値観に基づくイノベーターの力が必要として、経済産業省主催で、PwC Japanによる運営、超絶まちづくりの地方創生イノベータープラットフォーム「INSPIRE」の総監修で、福島の被災12市町村にて価値創造型の復興まちづくりアイデアソン「福島復興グランプリ2024」を開催した。
9/14~9/16の3連休で濃密なフィールドワークを経て、突き抜けたアイデアを出すというもの。今回で3回目の開催となるが、フィールドは福島県の「被災12市町村」で、原発事故の影響で避難を余儀なくされた12自治体であり、人口がゼロになった町もある被災中心地。もともとこの被災12市町村は、年間を通し温暖で豊かな魚介類に恵まれる沿岸部と、美しい景観を誇る山岳部からなる。
注目すべきは、震災後に地域資源を活かし復興まちづくりに取り組むキープレーヤーが数多くいるということ。地域のポテンシャルを最大限に引き出して、被災12市町村に賑わいをつくるにはどうしたらいいか、 新たな産業をつくるにはなど、 まったく新しい価値観で提案する。コースをクラフト・アート、自然・スポーツ、テクノロジーの3テーマとし復興まちづくりの事業アイデアを創出するイベント。
参加したのはテクノロジーコース。現在12市町村には、国内でも最新の実証実験設備や豊富な補助制度があり、数多くのベンチャーがテクノロジーを活用して地域課題解決に取り組んでいる。今回、ベンチャー起業家と連携し、エネルギー・モビリティ・ロボット・VR・アグリテック等の領域で、イノベーションを起こす事業の創出が求められている。双葉町、大熊町、富岡町を中心にフィールドワークを行い、テクノロジーを活用し地域活性化する事業アイデアを提案するというコンセプト。
訪問地
9/14
- とみおかワイナリー小浜圃場
- 廃炉資料館
- 東北エンタープライズ
9/15
- 双葉駅舎他
- 浅野撚糸
- F-BICC、伝承館
- ノーマの谷(驫の谷)
- 大熊インキュベーションセンター
1.マチュピチュ遺産保全3D計測調査の建設コンサル社長主導のとみおかワイナリー
「株式会社ふたば」は社会コンサルタントを目指し、最新のセンシング機器やドローンの技術を活かし地域課題解決に取り組む富岡町の測量・建設コンサルタント会社。震災前から富岡町周辺で活動、現在は活動領域を福島県内に留まらず、マチュ‧ピチュ遺跡の3D保全といった海外の課題解決にも積極的に取り組んでいる。
同社の創業は1971年、本社のある富岡町そして双葉地域は、地震・津波・原発事故の多重災害を受けた世界で前例のない場所となった。現二代目社長の遠藤秀文氏は教科書がない復興のプロセスに身を置くことで見える、課題先進地域での課題解決に直接関り、従来の公共測量はもとより、UAVや3Dレーザなどの様々なセンシング技術を活用した環境調査にも対応、それらに挑むことで生まれる技術や経験を重ねてきた。しかし創業以来の祖業である「建設コンサルティング」や「測量・用地調査」だけでは、震災復興への関わりにも限界があるとして、この限界を打ち破るため、様々な分野において実証・実験を繰り返してきた。具体的には震災以降に立ち上げた4本の柱である、「空間情報コンサルティング」、「環境コンサルティング」、「地域デザイン(まちづくり)」、「海外コンサルティング」をより高いレベルの技術に昇華させ、多柱化サービスの実現に向けて取り組んでいる。具体例では同社、国環研、東北工業大学、阪大、日大と共同で“AIで森林の未来を見える化”する事業を請け負った。また丸紅子会社であるドルビックスコンサルティング株式会社と共同で、「浜通り地域におけるドローンを活用した魅力ある地域づくりの調査事業」も受託した。こちらは民有林のCO2吸収量をドローンで測量する等、低コストで高精精度技術を利用しJクレジット等の環境価値創造に取り組んだ。また道路保全と防災を目的とした調査でドローンを活用、調査結果をもとに、民有林のCO2吸収によるJクレジット等の環境価値創造や、地域産業活性化の構想作りといった浜通り地域の復興加速化を実行している。そのほか海外展開では3次元計測技術を駆使し、『ペルー国・マチュピチュ地区での3D測量技術による文化遺産の保全と活用のための 基礎調査』、サンゴ礁の調査など海外の環境調査業務などもODAプロジェクト中心に数多く携わっている。なお放射能汚染に対し、土壌中放射能調査やUAV空間放射線量計測なども行っている。
今回訪れたのは、遠藤社長が原発避難により一時誰もいなくなった町でにぎわいを取り戻すための新しいチャレンジ事業である“とみおかワイナリー”の視察と、実際にブドウの選別作業を体験した。富岡ワイン葡萄栽培の活動は、県内方々に避難する町民有志10名で2016年3月より試験的に始められ、現在40名超の会員を有し、2020年には富岡駅東側に0.2haの新規圃場を開設し、約400本の苗木が植え付けられている。今後、駅前圃場を拡張し、日本で最も海と駅から近いワイナリーを核に、新たにできあがるワインと地元の海・川・山の食材のマリアージュを目指し、食と酒の付加価値を追求し、交流人口、観光産業の育成も行い、100年先の地域づくりプロジェクトを実行していく計画となっている。
2.先端AI搭載4足ロボットで成長狙う東北エンタープライズ
東北エンタープライズ社は米GEで日本の原子力発電所を数多く手がけてきた、初代の名嘉幸照氏が1980年3月に独立し富岡町で創業。当初は工業輸入機器販売・メンテナンスより始め、その後、原子力発電所の建設及び定期検査における保修工事、廃棄物貯蔵容器等大物作成物販売ならびに据え付け工事等を柱に発展してきた。震災後、本社をいわき市に移転(事務所として富岡町に福島事業所を設置)し、危機管理セキュリティ製品(爆発物検査装置、車両検査、出入管理、侵入防止対策装置)、安全・火災防護対策製品、RI製品(除染・防護製品)なども手掛け、事業の幅を広げてきた。
同社は福島第一原子力発電所の廃炉作業会社に放射能の可視化を可能とするガンマカメラの納入を行っていたが、実際に作業者が計測時にガンマ線に被ばくする課題があり、無人計測化のためのロボット導入を計画した。その時点で、廃炉作業においてロボットの存在はロボットの墓場と称されるごとく、様々な作業でロボット使用を試みて失敗し回収不能となる事態が生じていた。同社はこのような悪環境の中でも操作性に優れ、がれきの中、階段も昇降できるロボットということで、2021年に4足稼働AIロボット「Spot(標準搭載カメラで周囲の障害物を認識し自動走行をする四足歩行ロボット)」を製造している米国ボストンダイナミックス社と国内唯一のパートナーシップ契約を締結し、販売に乗り出した。現状、販売から3年を経過、現在20台程度が廃炉作業で活躍しているとのこと。今後の展開として、人手不足の深刻化に伴い、原子力関連以外でも定期的な巡回点検、設備検査、災害発生時の遠隔確認、さらには様々なアタッチメントを装着することで3D点群データ計測などでの販売拡大を進める計画。同社は拡販にあたり、生産設備の無人点検実現のためにはロボットの管理や作業指示、取得データの収集と業務での活用まで検討する必要があるとして、2022年に製造業や石油ガス、電力など重厚長大企業のデジタルトランスフォーメーション を加速するAIプラットフォームを提供しているCognite社と業務提携を結んだ。自律型の運用、点検、リモート監視については業界全体で導入が進んでいるが、Cognite社の提供するDataOpsソリューションCogniteDateFusionを活用すれば、データフロー、ルーチン、ロボットやドローンへの指示の運用に加え、自律的な意思決定の自動化まで簡素化し、次世代のテクノロジーやセンシング技術での自動化のメリットを最大限享受できるとのこと。既に数社から引き合いがあり、年間10台を超える販売も視野に入った模様で、本体価格2000万円、各種アタッチメントを付加すれば1台3000万円になるとのことで、今後の同社の成長を支える製品となろう。
2日目に続く
(H.Mirai)
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