経済産業省主催の福島復興グランプリ2024に参加(9/14~9/16)して・・2日目
東日本大震災から13年。福島の復興まちづくりは、今なお多くの課題を抱える。福島の未来をつくっていくためには、新しい価値観に基づくイノベーターの力が必要として、経済産業省は、PwC Japanによる運営、超絶まちづくりの地方創生イノベータープラットフォーム「INSPIRE」の総監修で、福島の被災12市町村にて価値創造型の復興まちづくりアイデアソン「福島復興グランプリ2024」を開催した。
2日目
3.双葉町駅舎近くの風景他
震災前、原子力は町のシンボル
2024/9/15の駅前の風景
2022/8/30、町内一部地域の避難指示が解除されてから2年が経過、駅はモダンに変身も町並みは歯抜けのまま。旧消防団の時計は震災時の時刻で止まったまま。
減少続く人口、町民避難継続、帰還転入僅か
4.浅野撚糸:岐阜から「魔法の糸:スーパーゼロ」の新工場建設、世界へ発信
双葉郡(浜通り地域の8町村)の製造品出荷額は震災前の30%程度にとどまり、基幹産業である製造業の復興も大きな課題。このような中で岐阜県に本社を持つ浅野撚糸が独自ブランドの撚糸「スーパーゼロ」生産の新工場を双葉町中野地区復興産業拠点に敷地面積28000㎡の大工場を立ち上げた。総投資額30億円、単なる工場を超え、複合施設「フタバスーパーゼロミル」として2023年3月に稼働開始、現在、岐阜の本社で年産500tと同等の500tの生産能力(合糸機50錘、*6台、撚糸機120錘*20台、スチームセッター1台)を有する。同工場の立地にあたって社長の浅野雅己氏が福島大学出身ということもあり、双葉町、経産省の要望も受けての進出となった。
「スーパーゼロ」はより合わせる糸の一つに、水溶性の特殊な素材を用いており、高い吸水性と柔らかのある生地を作れるため、別名「魔法の糸」を言われている。2005年にクラレが世界で初めて開発した、特殊水溶性樹脂<エクセバール>を溶融紡糸して作られた水溶性糸<ミントバール>を用いて、特殊複合加工糸<セルナーレ>を開発、紡績糸やスパンデックス糸を複合加工して作る水溶性複合加工糸。この糸加工には特殊技術が必要で2年余りかけて共同開発された。2007年にこの糸を使って超機能タオル「エアーかおる」の販売を開始、累計で1500万枚を超える人気商品となっている。現在、海外市場展開を進めているが、世界最大のタオルメーカーである中国「孚日集団(サンビーム)」など4社に納入が決まったほか、欧米ブランドとも商談が進んでいる。さらに今後はタオルだけでなく、水溶性糸に対し、様々な糸を複合化して紡糸することが可能であるため、シャツやジーンズ、スーツなどの非タオルへの用途拡大を図る計画。また福島県・双葉町と共同開発のエアーかおる、「ダキシメテフタバ」も投入、太糸20番手ながら特殊な乾燥仕上げをしているため、さらにやわらかさを増した製品としている。国内へのブランド浸透を狙い、東京青山にABOUT Ms.も開設している。この福島工場での能力増強により同社売上を20億円規模から早晩30億円超に拡大を目指す。
5.大熊インキュベーションセンター
大熊町は東日本大震災および原子力災害により、全町避難を経験した。復旧作業が進み2019年に町の一部地域で避難指示が解除、2020年にはゼロカーボン宣言、2022年には町中心部の避難指示解除、大熊インキュベーションセンター(OIC)の開所など、新たなまちづくり産業創出を目指した取り組みを行っている。具体的に2022年6月末に、JR大野駅から約1.5kmの避難指示が解除された特定復興再生拠点区域内に所在する旧町立大野小学校の校舎等をリノベーション、町民と町外からの来訪者との交流の場、そして町内における起業支援拠点とする。福島県では浜通り地域等の早期の産業復興を実現するため「福島イノベーション・コースト構想(東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト)」において重点的に取り組む分野として、廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙等の分野を設定、スタートアップの事業拡大に向け、資金面では最大で7億円の補助が交付される「地域復興実用化開発等促進事業費補助金(実用化補助金)」を活用している。なお補助対象は地元企業等(福島県浜通り地域等に本社、試験・評価センター、研究開発拠点、生産拠点等が所在する企業、国立研究開発法人である研究所、大学若しくは国立高等専門学校機構または農業協同組合その他の法人格を有する団体等)、地元企業等と連携して実施する企業としている。
OIC入居企業は2種あり、個室を利用する貸事務所会員8社、フリーアドレスで利用するシェアオフィス会員114社となっている。中でも町内に完成予定の工業団地や産業拠点等に工場やオフィスを構え、産業と雇用を生み出すことを目標に、貸事務所会員8社が実証実験に取り組んでいる。以下では、特に注目すべき入居企業とその事業目的などについて概要を見ていく。
①トヨタ自動車とraBitはバイオエネルギー活用研究、また近隣で研究事業所開設も
トヨタは2022年7月にエネオス、スズキ、スバル、ダイハツ、豊田通商の6社からなる、燃料を「つくる」プロセスでの効率化を研究するため、「raBit(次世代グリーンCO2燃料技術研究組合)」を設立、組合本部を大熊インキュベーション事務所に設置した。カーボンニュートラルの実現には、多種多様なニーズに対応すべく多様なエネルギーの選択肢を提供することが重要で、再エネ由来の電力を基にした水素や合成燃料、植物の光合成によりCO2を削減できるバイオエタノール燃料も有力な選択肢として捉える。但し現状はどの燃料も原料調達だけでなく製造工程でのCO2排出量低減や社会実装に向けた課題が山積、解決方法を探索することが不可欠となっている。
このため同研究組合ではバイオマスの利用、生産時の水素・酸素・CO2を最適に循環させて効率的に自動車用バイオエタノール燃料を製造する技術研究を進める。具体的な研究領域は、エタノールの効率的な生産システムの研究、食料と競合しない第2世代バイオエタノール燃料の製造技術の向上を目指し、生産設備を実際に設計・設置・運転し、生産面での課題を明らかにし、解決方法を研究、生産システムの効率改善を検討する位置づけとした。また副生酸素とCO2の回収・活用の研究、水素製造時の副生成物高濃度酸素、およびバイオエタノール燃料製造時に発生するCO2の活用方法についても研究する。さらに燃料活用を含めたシステム全体の効率的な運用方法の研究も行うとした。10月に大熊町と本研究組合が、「企業立地に関する基本協定」を締結、2023年6月から一部供用開始予定の大熊西工業団地に、本研究組合の事業所等を立地することを決定している。事業所ではカーボンニュートラルの観点から、植物を原料としたバイオエタノールの生産研究設備を建設、その副生成物であるCO2の活用方法も含めた低炭素化技術の研究を行うこととし、2024年10月に稼働予定としている。この事業は、自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(製造・サービス業等立地支援事業)の対象として、経済産業省により採択されている。なお、特別賛助会員としてデンソー、アイシン、賛助会員として島津製作所、ヤマハ発動機、中部電力、マルヤス工業も参加した。例えば島津製作所の場合はバイオエタノール燃料の品質および製造工程のモニタリング方法の効率化に関する研究に分析技術でraBitに協力する。
②大熊ダイヤモンドデバイスは耐放射線10MGY以上ダイヤモンド半導体開発進める
大熊ダイヤモンドデバイスは、福島第一原発廃炉プロジェクトへ適応する要素技術をきっかけに、世界初となるダイヤモンド半導体の社会実装を目指す、北大および産総研発のスタートアップ企業。設立は2022年3月であるが、北大では1995年ころより材料工学研究室でダイヤモンド半導体の開発研究を金子純一准教授中心に行なっていた。震災後の2012年に文科省 原子力システム研究開発事業「過酷事故対応を目指した原子炉用ダイヤモンド半導体デバイスに関する研究開発」、2016年に「原子炉計装の革新に向けた耐放射線・高温動作ダイヤモンド計測システムの開発とダイヤモンドICの要素技術開発」、2020年に「過酷事故対応電子機器の実用化に向けた耐放射線・高温動作半導体デバイスの高性能化」が採択され、研究開発が進展、同年12月には耐放射線性水素終端ダイヤモンドMOSFET(RADDFET)を用いた差動増幅回路について北大として特許出願を行った。2021年12月には世界初の実用型ダイヤモンド半導体プロトタイプの完成に至り、2022年3月に北大出身の星川尚久氏(代表)、北大准教授金子純一氏、そして産総研エネルギー・環境領域, 上級主任研究員の梅沢仁氏を共同創業者として設立された。なお連携研究機関として北海道大学、産総研、物材機構、高エネルギー加速器研究機構が関わっている。
ダイヤモンド半導体は、どの材質よりも大きな電力を無駄なく使える性質を持つ。同社は特に、既存半導体デバイスが自己発熱で性能劣化するため大型冷却装置が必須であるのに対し、ダイヤモンド半導体では高温(300℃)での動作し、除熱不要かつ放射線環境下で小型化軽量化が可能、また高出力高周波素子として高いポテンシャルに注目した。原子炉過酷事故や廃炉作業、基地局用途の自己発熱のような高温環境下・放射線環境下での動作(耐過酷環境)で利用すべく開発を進めている。
同社これまでにコーラル・キャピタルやグロービス・キャピタル・パートナーズなどから1200万ドルの資金を調達しているなど、日本のベンチャー企業として各方面からも注目される企業となっている。今後の展開として、耐放射性10MGy以上、高温動作≧450℃の性能を有する世界初の実用的なダイヤモンド半導体の量産ラインの設立を狙っている。総工費50億円を見込み、2026年度の稼働を目指しており、福島第一原発のデプリ(溶融燃料)除去などに使う機器に搭載することがスタートとなる見通しであるが、通信衛星・レーダー・ポスト5G携帯電話基地局など、ダイヤモンドにしか解決できない領域があり、他分野での利用も視野に入れている。
現状、ダイヤモンド半導体については日本が先行、最近では2023年に佐賀大学が世界初のダイヤモンド半導体を組込んだ電子回路開発に成功、JAXAなどと共同で宇宙通信向け開発を行うなどを表明している。また早大発ベンチャーのパワーダイヤモンドシステムは米アングロアメリカン傘下の企業と人工ダイヤ基板で提携、大口径ダイヤ基板開発を行い2029年にはIPOを目指すなどの動きがある。同分野も開発競争がし烈とみられるが、マーケットが大きいだけに同事業での推移に期待が高まる。
③オークマドローンは水素燃料利用のドローン、業務用ロボット開発ベンチャー
同社は大熊町を拠点にグローバルなメンバーが集結し、世界市場を見据えたベンチャー企業。水素エネルギー活用を軸に、特殊用途の産業用ドローンやロボットの研究開発および、自動運航管理システムの開発を行う。
代表の李顕一氏はカリフォルニア州立工科大学卒業後、2011年より豊田自動織機にてトヨタMIRAI向け水素循環システムを開発するコンプレッサ技術企画部に所属し様々なコンプレッサの技術企画を担当。2017年より楽天ドローン事業部で技術企画を担当し、福島県南相馬市およびローソンと共同で商品配送実証実験に従事してきた。そして2021年4月、ドローン業界の精鋭を集め、OKUMA DRONEを設立、創業社長に就任した。参加メンバーにはフランスONERA航空宇宙研究所で博士号取得し、その後、航空宇宙産業ダッソーアビエーション、ミシガン大学、エアバスなどで多数の航空技術プロジェクトに参画してきたラファエル グロス氏や、楽天で空域管理者とドローン操縦者向けの無人航空機管制システムの日本市場導入を推進し、全国各地でのドローン実証事業や飛行情報共有システムの国交省への導入をリード、自治体連携により物流や災害等の様々なユースケースを想定したドローン運航管理システム実証を主導してきた樽田 匡史など、多彩なメンバーが加わっている。
同社の開発目的は、産業用特殊ドローンの研究開発、ドローンを活用した社会課題解決サービス事業、複数ドローンの同時運行管理システム開発ドローンソリューションにおけるコンサルティングサービスとなっており、各種のドローン技術開発を行う。そして重量物輸送サービス、石油化学プラントの自動点検、自動測量ソリューション、海外国境警備ソリューション、完全自動の複数機運航管理、土砂災害後の緑化用種子散布などのビジネス展開を図る。
具体的な活動として、同社はDroneWorkSystemと連携し、「水素ドローンと複数機同時運航管理システムによる自動長距離・重量物運搬事業の実用化に向けた開発」を令和5年度「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」で採択され、実用化に向けた実証実験を実施した。実証実験では同社自動航行管理ソフトウェアに接続可能な複数メーカーの機体で飛行計画登録を行い、当該計画をボタン一つで複数機体が離陸から着陸まで実行できるかの検証を行い、無事に飛行を成功した。この実証実験を通じ、「水素燃料電池を用いたカーボンニュートラル機(補助にLiPoバッテリーを積むHybrid仕様)」「40kgを誇るペイロード、重量物搬送飛行時間15分」など、革新的なドローン開発を目指している。具体的には英インテリジェントエナジーの水素FC4基と帝人製水素高圧タンクを6枚羽根のドローンに搭載し、実証に成功したが、今後FC国産化で低コスト化を目指す。これは大学・機関の技術を用い触媒層を国内調達可能な白金代替材料を用い、従来とは異なる方法で低コスト製造するもので、ユアサ商事が製造・量産で協力する。なお大熊町では2024年2月14日から16日までの期間、福島県双葉郡大熊町の帰還困難区域内で初となる、3Dマッピング測量実験を実施した。これまでの人力による測量では、多くの作業時間を要し、作業員の被ばくリスクという課題があった。同社は複数ドローン同時航行による測量技術を開発、人の安全を確保しつつ迅速かつ正確なデータ収集を実現、福島県浜通り地域では政府の方針に基づき、住民の帰還と生活再建に向けた除染作業が進行中であり、今後、特定帰還居住区域においても除染作業が進められる中で浜通り地域の放射能未除染区域の課題を解決するもものとして期待がかかる。
最終3日目に続く
(H.Mirai)
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