グリーントランジション2024に参加して① グリーンスチールの議論

1.概括
言うまでもないことですが、脱炭素、グリーン水素、グリーンスチール、これらのキーワードは全て関連しており、どれか一つを切り離して考えることはできません。そしてそれらは全て喫緊の課題であり、世界で最も注目されている話題でもあります。
ここで求められるのは、主に2点です
(1)技術面でのブレークスルー
具体的にはグリーン水素を得るための水の電気分解による水素発生装置の開発、水素の運搬・貯蔵体制の確立、燃料電池や水素燃焼型熱機関の開発・改良、水素還元鉄の製造方法の開発と改良、それに加え、行政や民間基金からの助成金システムの確立、さらに需要と供給のバランスを図るための政府や国際機関からの調整です。
技術開発については、会議の性格上、技術面的な詳細についての発表はありませんでしたが、中国や韓国、北欧での先進的な取り組みが紹介されました。彼らは本気で取り組んでいます。
(2)ファイナンス面での支援
助成金や開発援助については、どうしてもサプライサイドに偏っており、デマンドサイドへの協力や援助が少ないことが、ファイナンスに関する説明を行ったFabio Passaro氏(Climate Bonds Initiative-CBI)らから指摘され、会議参加者から多くの賛同を得ていました。
2.鉄鋼業の脱炭素化と水素利用
私事で恐縮ですが、筆者自身は個人的な理由からとりわけグリーンスチールに関心があります。実際のところ、社会で発生するCO2の1/3が産業での発生であり、かつその1/3が製鉄業での発生、つまり全CO2の1/9が製鉄業での発生であることを考えると、製鉄業界に焦点を合わせて、脱炭素化を議論することは、非常に有意義であると同時に必然であるとも言えます。
会議2日目では、鉄鋼各社(東京製鉄、Jindal Steel&Power、 Total Energy)の発表に加え、中国のShen(沈)さん―CREAや、韓国のDaseul KIM(金)さん-SFOCの発表があり、鉄鋼業界が「今ここにある危機」にどう対処すべきかを示し、各国の製鉄産業のロードマップを明確に示しました。
議論になったのは、下記の3点です。
(1)高炉から電炉への転換促進
高炉と電炉の対立や棲み分けは、古くからある課題ですが、近年脱炭素化の流れの中で、電炉へのシフトが始まっています。USスチールも電炉を増やしていますし、日本製鉄やJFEも同様です。
これまで世界全体の粗鋼に占める電炉比率は2011年から2023年にかけて、29.2%~28.6%で推移しています。中国の場合、同期間でほぼ10%程度でしたが、2024年は15%程度に増加する見込みです。
韓国では、同期間で電炉比率は39%~31%と世界平均より高いのですが、今後さらに伸びると予測されます。
日本の場合2022年で世界平均より低い27%程度です。
一方、米国では69%、EUでは44%と世界平均を上回っており、今後さらに増加する勢いです。電炉へのシフトが全て脱炭素目的のためとは言えませんが電炉化は低炭素化の有力な手段と言えます。
中国のShenさんの説明では、粗鋼トン当たりのCO2発生量は、電炉鋼は高炉=転炉鋼の1/3です。東京製鉄の伊藤執行役員の説明では、1/5となり、違いがありますが、これは中国では石炭火力発電の比率が高いことも影響しています。ちなみに、中国での石炭消費量は微増ですが、エネルギー構成に占める比率は低下傾向にあります。
しかし、単に電炉比率を上げるだけでは不十分です。水素還元鉄の活用を図ることと、新型電気炉を導入すること、さらにそれに用いる水素をグリーン水素にして、使用する電力も再生可能エネルギーにして初めて効果があると言えます。
今後、電炉比率が上昇すれば、スクラップの取り合いという事態が予想され、価格の高騰を招くのでは?という意見もあります。しかし、スクラップになる鉄資源は世界に既に10億トンもストックがあり、スクラップ源は今後も潤沢にあります。しかし、スクラップ資源確保のために輸出入に規制が必要となる可能性はあります。そして後述の通り、水素還元のDRIが鉄源として増えてくれば、スクラップ不足の懸念は少なくなると考えられます。
中国の調査機関CREAのShen氏は、電炉へのシフトの過程で、高級鋼の製造をどうするかを問題視しています。東京製鉄の伊藤執行役員に、トランプエレメントとして含まれる銅をどう処置するかについて詳しく質問していました。スクラップ段階の選別の徹底や、用途の限定、高炉鋼との棲み分けのノウハウが、中国では確立していないということでしょうか?
しかし単に電炉比率を上げるだけでは不十分です。東京製鉄の伊藤執行役員は、“Hobo Zero”つまり「ほぼゼロ」で、それだけでCO2をゼロにできる訳ではないとしています。
水素還元鉄の活用を図ることと、新型電気炉を導入すること、さらにそれに用いる水素をグリーン水素にして、使用する電力も再生可能エネルギーにして初めて効果があると言えます。
(2)新型の精錬システムの確立
韓国のPOSCO(現在90%が高炉―転炉鋼)では、HyREX法を開発中です。これは、水素還元のDRIとESF(FINEXを用いた流動床型炉)を用いた製鋼システムです。原料には紛状の鉄鉱石を用います。
2026年~2030年にかけて、年産30万トンの試験設備を設置し、2030年以降に年間250万トンの実用炉を設置する計画です。
これ以外に2026年には光陽製鉄所に年産250万トンの新型電気炉を設置する予定です。重要なのは、これらで消費する電力は、全て再生可能エネルギーを前提にしていることです。しかし、グリーン水素はともかく、電力を全て風力発電や太陽光発電で賄う方法については、さらなる議論が必要になる見込みです。
(②に続く)
(IRUNIVERSE Akai)
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